クルマはデザインも大切。時代の気分を捉えた快作たち
従来の商品企画とはまるで異なるアプローチで企画・開発されたのが日産のパイクカーシリーズ。その第一弾となった「Be-1」は昭和62年(1987年)1月に限定1万台で発売された。すでに昭和60年(1985年)の東京モーターショーにコンセプトモデルを出品し手応えを得ていたものの、発売されるやいなや爆発的な人気となり、2カ月で予約完売。中古車市場では、新車価格の倍に迫るプライスボードが下げられて話題になった。
ベースになったのは初代マーチ。性能的には、完全にひと世代前のクルマだったが、レトロテイストを積極的に採り入れた愛くるしい内外装は、のちに内外自動車メーカーのリバイバル・デザインブームに影響を与えたと言われている。同時に、性能だけではクルマは売れないという、今に通じる「気分」を先取りしたクルマでもあった。
一方、フロントまわりやフェンダーには、世界で初めて樹脂製フレックスパネルが用いられるなど、先進的なテクノロジーがさり気なく採り入れられていた。
シリーズ最大の生産台数を誇る「PAO」
そんなBe-1が予定台数の生産を終えたのは昭和63年(1988年)5月のこと。そしてその後を追うように平成元年(1989年)1月に発売されたのが「PAOパオ)」と商用車の「S-Cargo(エスカルゴ)」、そして平成3年(1991年)に発売された「Figaro(フィガロ)」だ。すべて限定生産で、パオは受注期間3カ月、商用車のエスカルゴは同2年間。フィガロは抽選による限定2万台とされていた。
パオは、Be-1と同じく初代マーチがベース。フロントセクションを中心に樹脂製フレックスパネルを使用して独自のレトロ・テイストを生み出しているのが最大の特徴だ。
内外装のデザインはさらに凝ったものが採用され、その徹底ぶりは専用デザインのカーオーディオ(ヘッドユニット)にも及ぶ。クラシックMINIと並んでも引けをとらない独特の佇まいは、従来の価値観にとらわれない新しいクルマ選びの価値観を芽生えさせたのだ。またボディの耐腐食性にも力が入れられており、防錆塗装や外観のフッ素樹脂塗装など、現代に通じるさまざまな技術が採用されており、現代でも時折見かけるのは、そんな高い耐久性のおかげなのかも知れない。
ちなみにパイクカーシリーズでは、このパオが一番生産台数が多い。これは生産台数を決めず、受注期間中に受け付けたクルマはすべて生産する方式を採用したため。最終的には5万1657台が生産されている(エスカルゴは1万台強、フィガロは2万台)。
<パオ主要諸元>
・全長×全幅×全高:3740×1570×147mm
・ホイールベース:2300mm
・搭載エンジン:MS10S型直4SOHC 987㏄
・エンジン出力:52ps/6000rpm 7.6kgm/3600rpm
・変速機:5速MT(3AT)
・新車当時価格:122.1万円