911カレラSから遅れてデビューしたカレラ。911シリーズのなかでもっともベーシックなモデルとなるが、その実力はどうなのだろうか。さらに気になるのはカレラSとの違いである。どれほどあるのだろうか。(Motor Magazine 2020年5月号より)

濃密な一体感が味わえるエンジンレスポンス

タイプ997以降はフルモデルチェンジと同時に用意されるのがお決まりだったポルシェ911カレラとカレラSだが、最新世代のタイプ992では、まずカレラSだけがラインナップされ、カレラはざっと半年遅れでの発表となった。排出ガスのRDE試験導入によりメーカーがてんやわんやの状況になっていたこともあるし、実は日本以外の多くの国では今やカレラSの方が台数が出ているという現状もあって、こうしたスケジュールとなったようである。
 
しかしながら日本では911カレラの上陸を待つ声がとても大きかった。そもそもポルシェとの間に長い歴史を紡いできた日本には、ベーシックなカレラでも十分な満足感がもたらされると知っている成熟したユーザーが多いこともあるし、カレラSの価格が大幅に上昇してしまったというのも要因として小さくはないだろう。ともあれ、ヨーロッパからは約半年ほど遅れて、新型911カレラがようやく日本の道を走り出した。

誰もが気になるカレラSとの違いは、大きくはないが、しかしけっこう多岐にわたる。まずは順を追って見ていこう。エンジンは3L水平対向6気筒ツインターボ。先代後期型から使われた「ライトサイジング」ターボユニットである。スペックは最高出力385ps、最大トルク450Nm。先代に対して15psを積み増している。一方、カレラSは最高出力450ps、最大トルク530Nmだから、こちらには、65ps、80Nmという小さくない差がある。
 
それはECUのセッティングを変えているだけではなく、タービンやコンプレッサー径のともに小さいターボチャージャーの採用による。こうして導かれた動力性能の差は、カレラSの0→100km/h加速3.7秒、最高速308km/hに対して、それぞれ4.2秒、293km/hと、やや大きい。

それもあってかシャシも細かな部分に違いがある。まずすぐにわかるのはタイヤサイズ。カレラSの前245/35ZR20、後305/ZR21の組み合わせに対して、カレラでは前235/40ZR19、後295/35ZR20が標準になる。ただし、今回の試乗車はオプションでカレラSと同サイズとなっていた。標準状態の乗り心地も試してみたかったところだ。
 
ブレーキも、カレラSが前6ピストンキャリパー+350mm径ローター、後4ピストンキャリパー+360mm径ローターを採用するのに対して、前後4ピストンキャリパー+330mm径ローターになる。さらに、カレラSに標準のPTVPlusが未設定になるといった辺りが、標準状態での大きな違いである。それではこの差は走りにいったいどれだけの違いをもたらしているのか。今回は都内から東名高速を抜けて箱根のワインディングロードまで駆け抜けて、じっくりとテストしてみた。

街中を走り出した瞬間に抱いたのは、クルマとのより濃密な一体感だ。それが何に起因するものかは、すぐにわかった。低回転域におけるエンジンのレスポンスである。カレラのそれはアイドリング+αのところから右足の動きに即応するピックアップでクルマを軽やかに前に進めてくれるのだ。
 
一方のカレラSは、先代よりもターボチャージャーを大容量化することでパワーアップを実現する代わりに、最大トルクの発生回転数が上に移行している。8速DCT(PDK)の1速ギア比を下げてそれを補ってはいるのだが、さすがに2000rpm以下ではわずかにトルクがついてこない感が否めない。

カレラは最大トルクそのものは小さいものの過給の立ち上がりが速いようで、この領域でのアクセルのツキが良く、スッと加速態勢に入ってくれる。ターボらしさが良い意味で一層薄く、クルマが軽快に感じられるのである。

この美点は高速道路でも活きていて、微妙な速度調整がやりやすい。100km/hでのエンジン回転数は8速でざっと1400。この辺りから流れに応じてわずかに速度を上乗せしていくような場面でもレスポンス良く、望んでいないキックダウンなどが起きないので、スムーズに巡航できる。

画像: クルマの動きがとても軽快。いい意味でターボらしさも薄い。

クルマの動きがとても軽快。いい意味でターボらしさも薄い。

ワインディングロードでは水を得た魚

高速道路では、スタビリティが非常に高く、直進するのに神経を使う必要がないのも嬉しい。タイプ992はワイドボディ化によりホイールベース/トレッド比がスクエアに近づいているにもかかわらず、その弊害を見事にキャンセルしている。PTV Plusが備わらないカレラだけに、この直進安定性は電子デバイスのおかげではなく素性の良さゆえのことと考えれば、お見事と言うほかない。
 
ただし、快適性は気になった。ボディが巌のように硬いから不快ではないが、路面からの入力を割とダイレクトに伝えてくる乗り心地は、911カレラというモデルの位置づけ、過去事例からすると、ややスパルタンかもしれない。

そんな風にクルマと対話し、考えを巡らせていたら、あっという間にワインディングロードに行き着いた。期待どおり、ここでの911カレラは水を得た魚。まさに胸のすく走りを楽しませてくれた。絶対的なパワーは385ps5もあれば十分以上。けれど、まだ思い切り踏んでいけるギリギリのところにはあって、走りはついつい積極的になる。
 

コーナリングもワイドトレッドの恩恵もあって豪快に決まる。操舵感はやや重めだが、正確性はピカイチだ。PTV Plusが備わらないのも、ワインディングロードを少し飛ばしたくらいでは気にならなかった。リアエンジンのメリットで後輪荷重が大きくトラクションが高いおかげだろう。
ブレーキもカレラSとの差を如実に感じることはできなかったというのが率直な印象である。 

半日余りのプチトリップで実感したのは、ポルシェ911カレラがまさしく911というクルマの本質的な価値を、そしてタイプ992の実力を、ストレートに楽しませてくれるクルマだということである。もちろんカレラSに対する大きな価格差も魅力ではあるのだが、個人的にもし今、911を手に入れるならば、仮に予算に余裕があったとしても進んでこちらを選びたいと思った次第だ。(文:島下泰久)

画像: タイプ992の特徴となる小型化されたギアセレクターとその周辺のスイッチが整理されたインパネ。センターディスプレイサイズは10.2インチと大型だ。

タイプ992の特徴となる小型化されたギアセレクターとその周辺のスイッチが整理されたインパネ。センターディスプレイサイズは10.2インチと大型だ。

■ポルシェ911カレラ主要諸元

●全長×全幅×全高=4519×1852×1298mm
●ホイールベース=2450mm
●車両重量=1580kg
●エンジン= 対6DOHCツインターボ
●総排気量=2981cc
●最高出力=385ps/6500rpm
●最大トルク=450Nm/1950-5000rpm
●駆動方式=RR
●トランスミッション=8速DCT
●車両価格(税込)=1359万7222円

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