バブル景気の真っ只中に登場したランクル80
時はバブル。自動車業界にも、やれ自動車電話だ、木目・革張りだと高級感をアピールする文字が溢れ、日本中が好況に浮き足立っていた。そんな時代の1990年、ランドクルーザー80は誕生する。本来ならば1989年に発売される予定だったが、先代のランドクルーザー60のバックオーダーを大量に抱えていたため、ランドクルーザー80の発売が2カ月遅れた。それほどランドクルーザー60の人気は高く、とくに時代に流され豪華になってしまったランドクルーザー80をよく思わない本格オフローダーの駆け込み需要が多かったは事実だ。
ランドクルーザー80は、伝統のリジッドアクスル式サスペンションは継承したものの、リーフスプリングからコイルスプリングへ変更された。さらに、これまでのパートタイム4WDから、一部のバンを除いてほとんどの車種にフルタイム4WDを搭載した。またスタイリングもランドクルーザー60のエッジのきいたスタイルから、曲線を多用した内外装を採用し、静粛性や快適性を兼ね備えたニュータイプの大型オフロード4WDへと進化した。
ランクル80の高級路線に異論を唱えた「ランクルファン」
だが、この「進化」に対して発売当時は様々な意見が囁かれた。たとえば、リジットアクスル式サスペンションがコイルスプリングになったことに対して、「サスペンションストロークが減った」や「カスタムの選択肢が狭まった」などの意見が寄せられた。さらに「ボディが大き過ぎて視認性が悪くなった」、「走破性に豪華さは不要」、「快適装備で重たくなった」、「牙を抜かれたランドクルーザー」など、本格派の4WDファンからは受け入れがたいモデルチェンジでもあったのだ。
されど、そこはランドクルーザー。本来の仕事である悪路走破性や耐久性を軽視するなどあるはずがない。その証拠に、コイルスプリング式は先代のリーフスプリング式に劣るどころか、これまで以上に高い走破性と耐久性を兼ね備えていた。さらに、これまでのパートタイム4WDからフルタイム4WDへと進化したことで、街中から悪路まで完璧に走りをサポートした。このようにランドクルーザー80の真価を知ったファンは、徐々にこのクルマに魅せられていった。
ランドクルーザー史上最強の215ps! 4.5L直6エンジン投入
斬新なスペックを備えたランドクルーザー80は、当然エンジンも大幅に進化した。新開発された4163cc直噴ディーゼルターボの「1HD-T型/165ps」とノンターボの4163cc「1HZ型/135ps」、そしてランドクルーザー60から引き継いだガソリンの「3F-E型/155ps」を設定した。さらに2年後の1992年には、FJ20から受け継がれてきた3F-E型を一新し、4476cc 直列6気筒DOHCの「1FZ-FE型」を投入。当時歴代最強の215psを発生した。
ハイパワー化に合わせてディスクローターを1インチ大径化すると同時に、ホイールも15インチから16インチへ変更、ABSも装備した。この頃にはオフロードフィールドでクロスカントリーを楽しむランドクルーザー80が多くなった。そして1995年には「1HD-T型/165ps」を改良し、燃費効率を格段に向上させた「1HD-FT型/170ps」を投入した。逆行から一転してランドクルーザー80が人気となった理由のひとつに、すべてのディーゼルエンジンにMT車を設定したことも、クロカン派を納得させる要因となった。
ランクル80をベースにした輸出仕様の「レクサスLX450」も登場
この時代のオフロード4WDは、ディーゼルエンジン車が主流だった。ランニングコストを抑えるという理由もあったが、やはり重たいボディを大径タイヤで力強く走らせることができるディーゼルのトルクフルでタフな特性が好まれた。当然ランドクルーザー80も例に漏れず、3列シートの7人乗りガソリンワゴンよりも、荷室を広く確保できるディーゼルの5人乗りバンの方が、圧倒的に多かった。その広い荷室にキャンプ道具や、交換部品、工具を満載してフィールドに繰り出すのが、オフローダーのトレンドだった。
ランドクルーザーは海外からのニーズも多種多様で、1996年には1FZ-FE型を搭載した輸出仕様として「レクサスLX450」が登場した。このように発売当初の酷評から一転、実力を知らしめたランドクルーザー80は、瞬く間に世界中の4WDブームを牽引していく存在となった。それは総合登録台数にも現れ、世界中で大人気だったランドクルーザー60 の約41万台を軽く超え、約55万台も生産することになった。ちなみに国内モデルは約11万台を記録。そして1997年に生産を終了してから23年が過ぎた現在でも、中古車市場では200万円前後で販売されるなど、いまだにランドクルーザー80の人気は続いている。(文:田尻朋美)