2006年11月に2代目へと進化したスマート・フォーツー。革新的なコンパクトカーと言われながら、一部では課題も指摘された初代から、どのように変わっていたのか。2007年2月にスペイン・マドリードで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年4月号より)

徹底した車両の改良と生産コストの見直し

クルマの世界では時折「市場に出るのが早すぎた」と言われることがある。たとえばシトロエンDSやNSU Ro80などがそれだ。ひょっとすると、いすゞ117クーペやピアッツァなどもそれに当たるかもしれない。

今から8年前に現れたスマート・フォーツーも、その一例だろう。2シーター、全長2.5m、リアエンジンリアドライブなど、新しいアイデアがいっぱいだった。一部では「走る公衆電話ボックス」とあだ名されたほど、これまでにはなく革新的で、それゆえに市場を戸惑わせてしまったという面もあった。加えて生産までにいくつかのゴタゴタがあり、さらに発売当時は走行安定性などクルマの基本性能の面で問題まで起こってしまった。

しかし、そういった問題が徐々に解決されるにつれて人気は上昇し、実際、初代スマート・フォーツーは全世界で77万台が発売された。とくによく売れたのは、ローマ、パリ、そしてロンドンなど、混雑した大都市だった。映画「ダヴィンチ・コード」でも登場したパリでは「スマートオーナーの60%が以前にはまったくクルマに乗っていなかった」との報告がある。ということは、やはりこのクルマは新しいものを持っていたのだ。

しかし、皮肉なことに、スマートが誕生したドイツ本国での販売は芳しくなかった。ダイムラークライスラーとしては、世界的に見ても、その投資を考えると、スマートは不満足な数字しか残せておらず、MCC社には一時は身売りの噂も聞こえてきた。

とはいっても、迫り来る厳しい燃費総量規制を考えると、フルラインアップを持つダイムラークライスラー社としても生産を終了するわけにはいかない。そこで、徹底した車両の改良と生産コストの見直しが行われ、2世代目のスマート・フォーツーが誕生したというわけである。

画像: 先代からワンモーションデザイン、RR駆動、ツートーン/ツーマテリアルコンセプトなどのアイコンがしっかりと受け継がれ、その上でより洗練されたものになっている。

先代からワンモーションデザイン、RR駆動、ツートーン/ツーマテリアルコンセプトなどのアイコンがしっかりと受け継がれ、その上でより洗練されたものになっている。

ひと回り大きく、そして洗練されたボディ

新型スマート・フォーツーのもっとも大きな変更点はボディサイズである、全長2695mm、幅1559mm、高さ1542mm、ホイールベース1867mmへとひと回り成長した。その理由に、アメリカでの発売が決定したことによりクラッシュ性能を引き上げなければならなかったこと、また欧州での歩行者保護などを考慮したことがあげられる。とは言え、成長度合いはあくまでもスマートを保っている。この他、アルミ製ドアをスチールに変えたことなどにより、ホワイトボディ重量は15kgほど増加しているという。

しかし、ボディデザインの基本は変わっていない。新型はヘッドライトのデザインとリアライトの数が3個から2個へと減った以外は、どこから見てもスマートだ。試乗会が行なわれたマドリードでも、新型スマート・フォーツーに気づいた人々はそれほど多くなかった。しかし、よく観察すると、旧型よりも四隅が出っ張っており、より台形に近い形になっているのがわかる。

水平になって普通の位置に戻ったドアハンドルを引いてキャビンに入る。確かに広くなったが、正面の半円形スピードメーター、オプションのキノコのような時計とタコメーターなど基本的なデザインは変わらず、アットホームな感じである。しかしここにももちろん改良の手は及んでおり、エアコンのダイヤルなどはダッシュボードの中央上部で見やすく、また使いやすくなっている。

新型スマートは生産コストを抑えたのも大きなポイント。例えば最終組み立て工程はこれまでの4.5時間が3.5時間へと短縮されたが、仕上げには響いてはいない。むしろ質感など印象は良くなった。

エンジンは三菱製1L 3気筒DOHCが3種用意されている。最高出力は61ps、71ps、84psとなる。組み合わされるトランスミッションはゲトラグ製の5速AMT(自動マニュアル)である。また、ディーゼルも準備されており、こちらは799cc3気筒で45psとなる。

ボディはスタンダードのクーペに加え(パノラミックルーフもある)、電動ソフトトップのカブリオレも用意されている。トリム装備レベルは、ベーシックなピュア、スポーティなパルス、豪華なパッションの3種。

画像: ホイールベース/トレッドが拡大され、タイヤサイズもアップ、さらにステアリングもクイックになり、先代よりもワインディングを積極的に楽めるものになった。

ホイールベース/トレッドが拡大され、タイヤサイズもアップ、さらにステアリングもクイックになり、先代よりもワインディングを積極的に楽めるものになった。

すべてにわたり改良され立派なコンパクトカーに

さて、マドリード空港で貸し出された試乗車は、最もパワフルな84psエンジンを搭載するパルス仕様のカブリオレ。エンジンスペックは最高出力84ps/5250rpm、最大トルク120Nm/3250rpmと発表されている。空車重量は800kg、メーカーの公表では0→100km/hの加速所要時間は10.9秒、最高速度は145km/hでリミッターが働く。

相変わらずセレクターの後ろにあるスターターキーを回すと、3気筒独特の排気音が耳に届く。走りはなかなかキビキビしており、スペインの流れの速い高速道路でも一般車両に少しも引けをとらない加速力を持つ。また、シフトもスムーズで、旧モデルにあったギクシャクしたシフトショックはかなり和らいでいる。

サスペンション形式は旧型と同じくフロント・ストラット、リア・ドディオンである。旧型、特に初期モデルでは非常に硬く、ピョコピョコ跳ねるような挙動を見せていたが、新型ではこれがよく抑えられており、同時に段差のショックもよく吸収してくれる。

スピードが上がるにつれて気づいたのは、シャシがよく締め上げられていることと、31mm広がったトレッドのおかげでロールが少ないこと。これならば高速のレーンチェンジでも以前のような恐怖感はまったくない。それどころか積極的にワインディングロードに挑戦することもできそうだ。

足まわりに自信があると見えて、テストコースの一部にコーナーに富んだ要求度の高い区間が設定されていた。そこでは、10%ほどクイックになったステアリングを楽しむことさえできた。これは従来のスマートにはなかったことだ。しかし、ホイールベースやトレッドのサイズが限られているマイクロカーであることに変わりはなく、ESPを標準装備して、万一の場合に備えている。

こうした小型車ではESPを標準で装備するモデルは少ないが、「ドイツ国内で起こった事故のうち4分の1がESPのおかげでより深刻な結果を招かなかった」という保険会社協会からの報告があるだけに、スマートの安全に対する姿勢のポジティブさは評価していいだろう。

さて、マドリードの市街地に入ると、相変わらず混雑していた。ナビが指示する通りにホテルに向かって走っていくと、まるで路地のような狭い道に入り込んでしまった。

しかし、ここでスマートは本来の性能を発揮することができた。こうした狭い路地に入ると、回転半径4.5mという小回りの良さが生きてくるのだ。これは駐車の際にも有効で、ステアリングを何度も切り返す必要がなく、非常に便利である。

スマートは2世代目でこれまでの弱点を確実に改良し、立派な自動車となった。しかも、その優れた燃費など、時代が要請する要素を多く持っている。今年秋に登場すると言われるスターター・ジェネレーターを搭載するいわゆるマイクロ・ハイブリッドの71psバージョンも注目されるし、近い将来にはCNGやEVの登場も計画されている。

もうちょっと速いモデルに乗りたいというユーザーためには、近々にブラバス・バージョンも発表される予定だ。これはジュネーブショーで正式にデビューするはずだ。

早すぎたかもしれない誕生から8年が経った今、変化し始めた自動車環境の中で、スマート・フォーツーはいよいよその真価を発揮する時がやってきた。

まずエディション・リミテッド・ワン(1500台限定)から発売を開始。その後、本格的なデリバリーとなる。ドイツでの価格は9390ユーロ(約143万円)からスタート、試乗車は1万6240ユーロ(約244万円)となる。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年4月号より)

ヒットの法則

スマート・フォーツー カブリオレ パルス 84ps仕様 主要諸元

●全長×全幅×全高:2695×1559×1542mm
●ホイールベース:1867mm
●車両重量:800kg
●エンジン:直3DOHC
●排気量:999cc
●最高出力:84ps/5250rpm
●最大トルク:120Nm/3250rpm
●トランスミッション:5速AMT
●駆動方式:RR
●最高速:145km/h
●0-100km/h加速:10.5秒
※欧州仕様

This article is a sponsored article by
''.