2007年、AMG社が創立40周年を迎えたが、レーシングエンジンの開発を行う会社としてスタートし、高性能エンジン搭載モデルを担当するメルセデス・ベンツの中のひとつのブランドになっていた。その創立40周年を祝う国際試乗会で、CLK63AMGのピュアスポーツバージョン「ブラックシリーズ」、フラッグシップとして注目されていた「CL65AMG」に乗った。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年7月号より)

獰猛な雰囲気すら漂わせるCLK63AMGブラックシリーズ

AMGの創立40周年を祝う試乗会が行われたのは、アメリカはロサンゼルスの高級住宅地であるビバリーヒルズ周辺であった。今やAMGの世界販売の45%はアメリカでさばかれている。特にこのビバリーヒルズ周辺では、CLクラスなどレギュラーモデルよりAMGの方が売れているというのだから驚くやら呆れるやら。街を歩いていて、その辺に買い物に行くだけという風情のご婦人がSL55AMGのアクセルを高らかに踏み込んでいるところに出くわすのなど、まったく珍しくないのだ。

そんなビバリーヒルズにて試乗に供されたのは、ふたつのニューモデル。そのうちのまず1台目がCLK63AMGブラックシリーズである。

AMGは近年、これまでなかった新しい種類のモデルをプロデュースし始めている。たとえば昨年限定で販売されたCLK-DTM AMGのような「シグネチャーシリーズ」、CL55AMG IWCインジュニアのような「エディション」モデルなどが、それにあたる。

そして今回の目玉であるこのブラックシリーズは、ピュアなスポーツカーエンスージアストをターゲットとする。そもそもAMGはレースから活動をスタートしたブランド。それを、もっとダイレクトに感じさせるモデルというわけだ。

しかし、その外観の何と挑戦的なことか。大きなフロントエアダム、左右計93mmも張り出したオーバーフェンダーなどによって、エレガントなCLKのフォルムは一転、獰猛な雰囲気すら漂わせている。当然、それはファッションではない。ワイドボディ化に合わせて実は前後のサスペンションアームはすべて専用設計とされているのである。

AMG自社開発のV型8気筒6.2L DOHC4バルブユニットも、吸排気系の改良で最高出力を507psに引き上げている。そして7Gトロニックは、ギアの繋がりを重視して最終減速比が6%低められた。

Dシェイプの小径ステアリングやフルバケットシートを装備する2シーターの室内に収まりエンジンを始動すると、大音量のエキゾーストノートが響き渡り、ハードなサスペンションが身体を揺すぶり始めた。車高/減衰力調整式のダンパーはAMGの推奨セットとされていたが、乗り心地はかなり硬め。その分ロック・トゥ・ロック約2.2回転とされたステアリングは格段にシャープで、左右の切り返しなど、とても身軽だ。それにはワイドなトレッドも、当然大きく効いているはずである。

エンジンも、トップエンドに至る吹け上がりがさらに速さを増している。しかしこの大トルクは、直線ではともかくコーナーでは手強い。いくらリア285サイズのタイヤと機械式LSDを採用しているとは言え、後輪荷重の軽いFRで507psともなると、ちょっと踏み過ぎるだけですぐに挙動を乱してしまう。正直、ESPの助けなしにこれを操るには、相当なスキルが必要だ。

しかし手練が扱えば、このCLK63AMGブラックシリーズは非公式ながらニュルブルクリンクを7分56秒で駆け抜けるという。それでいて7Gトロニックのおかげで普段は買い物にだって難なく使えてしまう。

画像: メルセデス・ベンツ CLK63AMGブラックシリーズ。サーキット走行にも適した、2シーターピュアスポーツモデル。AMGがレースから活動をスタートしたブランドであることを思い出させる挑戦的な外観。

メルセデス・ベンツ CLK63AMGブラックシリーズ。サーキット走行にも適した、2シーターピュアスポーツモデル。AMGがレースから活動をスタートしたブランドであることを思い出させる挑戦的な外観。

ひたすら贅沢な気分にさせてくれるCL65AMG

もう1台のニューモデルは、CL65AMGである。昨年登場したCLクラスのボディに最高出力612ps、最大トルク102kgmを誇るV型12気筒6Lツインターボを搭載した、AMGのトップレンジである。

そのエンジンは相変わらず素晴らしい歓びをもたらす。街中では豊かなトルクでジェントルな走りを可能にする一方、ひとたび深く踏み込めば、まるで瞬間移動のような感覚の息を飲む加速を披露する。そして専用のABC(アクティブボディコントロール)は街中での上質極まりない乗り心地と卓越したフットワークを両立。この完璧な調教ぶりには、ただただ感嘆するほかない。

ダイヤモンドパターンのステッチが入れられたナッパレザーシートを採用したインテリアも豪奢な雰囲気。とにかくひたすら贅沢な気分にさせてくれる1台である。

この2台、CL65AMGは遠からず上陸するはずだが、前者のCLK63AMGブラックシリーズに関しては、まだ日本導入が叶うかどうか未定だという。とは言え日本はAMGにとって世界3番目の大規模市場だけに、期待はしてもいいはずだ。

その一方でアメリカ、それこそビバリーヒルズ周辺では、おそらくたくさんのクルマがデリバリーされることになるのだろう。次に訪れた時には、きっとご婦人の買い物のアシとして使われているCLK63AMGブラックシリーズなんてのも見掛けることになるに違いない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2007年7月号より)

画像: S65AMG、SL65AMGに続く6RV12ツインターボエンジンを積む3番目のモデルとして、ニューヨークショーでデビューしたCL65AMG。メルセデス・ベンツの新たなフラッグシップモデルといえる。

S65AMG、SL65AMGに続く6RV12ツインターボエンジンを積む3番目のモデルとして、ニューヨークショーでデビューしたCL65AMG。メルセデス・ベンツの新たなフラッグシップモデルといえる。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツCLK63AMGブラックシリーズ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4657×1833×1365mm
●ホイールベース:2715mm
●車両重量:1760kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:6208cc
●最高出力:507ps/6800rpm
●最大トルク:630Nm/5250rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:300km/h(リミッタ−)
●0→100km/h加速:4.3秒
※欧州仕様

メルセデス・ベンツCL65AMG 主要諸元

●全長×全幅×全高:5084×1871×1418mm
●ホイールベース:2955mm
●車両重量:2240kg
●エンジン:V12SOHCツインターボ
●排気量:5980cc
●最高出力:612ps/4800-5100rpm
●最大トルク:1000Nm/2000-4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h(リミッタ−)
●0→100km/h加速:4.4秒
※欧州仕様

This article is a sponsored article by
''.