先行して販売していた「クーパー」、「クーパーS」から遅れる3カ月、2007年5月、2代目MINIのラインアップに「ONE」が追加された。これは先行モデルとどう違うのか。Motor Magazine誌では、ONE、クーパー、クーパーSの3台を集めて比較試乗を行っている。ここではそのテストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年8月号より)

基本装備で見劣りしないMINI ONE

ONEが登場して新型MINIのメインになる3車種が揃った。ここではONE、クーパー、クーパーSの特徴を、その装備や走りの違いから探ってみようと思う。

一足先に新型になったクーパーやクーパーSと同じように、ONEにもMINIらしい装備が満載だったので嬉しくなった。ダッシュボード中央の、オーディオが組み込まれてひと回り大きくなったスピードメーターはクーパー、クーパーSと同じ。ハンドルの前にはタコメーターも付く。タコメーターの中の窓にはデジタル数字でスピードも表示される。

オートエアコン、パワーウインドウ、助手席ハイトアジャスター付きシート、運転席・助手席足下ライト、コンフォートオープン機能付きリモコンキー、ISOFIXチャイルドシート対応ブラケット、全席へッドレスト、レザーステアリングホイール、MP3再生対応CD付きブーストラジオ、ヒーテッド格納ドアミラー、タイヤ空気圧低下インジケーター、イモビライザーという装備品が、ONEにも標準装備になっている。

クーパーに付いていてONEにないものといえば、アルミホイール、オンボードコンピュータが主なものだ。タイヤサイズはクーパーと同じ175/65R15 84Hだが、ONEではスチールホイールになる。

クーパーSに装備されていてONEにないものは、横滑り防止装置のDSCだ。BMW車では100%装着なのに、残念ながらMINIではクーパーSのみが標準で、ONEとクーパーは10万円のメーカーオプションになってしまう。ただしONEとクーパーは、DSCの代わりにASC+Tは標準装備になっているから、アクセルペダルを踏み過ぎて滑ってしまうことはない。また片方のタイヤがぬかるみやアイスバーンのときでもブレーキ制御しながら発進することができる機能を持っているからほとんどの場合は大丈夫だが。

今回、試乗車として引っ張り出したONEは6速ATだった。ここでも、ONEの装備が奢られていると思ったのは、クーパーやクーパーSと同じように、AT仕様にはパドルシフトが標準装備されることだ。

Dレンジのままハンドル裏側にあるパドルを操作すると8秒ほどはマニュアルモードで走れるから、箱根のようなワインディングロードでは重宝する。しかも6速ATだから1.4L NAエンジンでもその力をフルに発揮して、元気よく走り回ることができる。やはり、小排気量のAT仕様にパドルシフトは欠かせないアイテムだと思う。

このパドルの操作方法はBMWの通常のモデルと同じで、Mモデルとは異なる。Mモデルを含めて多くのパドルシフトは左手で引けばシフトダウン、右手で引けばシフトアップだ。しかしMINIはユニバーサルデザインともいうべき、左右とも(親指で)パドルを前方に押すことでシフトダウン、(中指で)引くことでシフトアップする。パドルは、ハンドルと一緒に動くタイプだ。

このONEの試乗車は標準サイズの175/65R15 84Hを履いていたが、ちょっとふっくらと見えるボディにはタイヤが細く感じてしまう。スチールホイールそのものはデザインも良く、そのままでもいいと思った。しかしタイヤサイズ的には、オプションの195/55R16 87Hは欲しいところだ。そうじゃないとMINIの「四隅に踏ん張ったタイヤ」というイメージが薄くなる。

それでもこの細めのタイヤは乗り心地にはメリットがあった。路面の凹凸をうまくタイヤが吸収してくれるし、乗員にゴツゴツ感を伝えてこない。だからちょっと荒れた舗装路などは躊躇なくそのまま通過してしまうようになる。今回は、箱根でしか乗っていないが、道路工事によって掘り返されたところが多い市街地でも、このONEの乗り心地は悪くないはずだ。

ワインディングロードも、流れに乗って走るペースなら、ONEでもゴーカートフィーリングを十分に楽しめるだろう。しかし攻めた走りをしようとすると、タイヤの細さからか、もしくはバネのソフトさからか、コーナリング中に外側のフロントが煽られるような上下動を感じることがある。その意味では、ONEは快適性に振ったコンセプトなのだ。

1.4Lの新しい横置きエンジンは6500rpmからレッドゾーンだが、そこまで回さなくても十分なトルクでぐいぐい引っ張っていってくれる。Dレンジを選んでATまかせで走るのもいいが、パドルシフトを使って走れば、もっと楽しくなる。

新型MINIのONEを買うならオプションのちょい太いタイヤを履き、6速MTを選ぶというのが「男らしい」組み合わせだと思う。これだけの充実した装備が付いても、6速MT車の基準価格が218万円というのはお買い得だと思う。

画像: MINI ONE。ブラックのラジエターグリル、ボディ同色のルーフ、艶消しブラックのドアミラーカバー(取材車は無料オプションのボディカラー仕様)、スチールホイールが標準仕様となる。

MINI ONE。ブラックのラジエターグリル、ボディ同色のルーフ、艶消しブラックのドアミラーカバー(取材車は無料オプションのボディカラー仕様)、スチールホイールが標準仕様となる。

クーパーとクーパーSには力強さという価値も加わる

さて、クーパーはONEよりトルクアップ、パワーアップしているので、ますます元気のいいゴーカートフィーリングを味わえる。さすが1.6Lエンジンだけのことはある。上り坂でもスイスイ行くのは、排気量の大きさから来るトルクの太さが効いているのだろう。

最大トルクは、ONEの140Nmに対しクーパーは160Nmである。その発生回転数はONEの4000rpmに対して4250rpmだから、クーパーはちょっと高回転型になっている。

タコメーターのレッドゾーンは6500rpmからだが、マニュアルモードで走っていても6000rpmでシフトアップする。だからATの場合6500rpmからレッドゾーンというのもあまり意味がないかもしれない。120psという最高出力は6000rpmで発揮するのだから、このシフトアップのプログラムは正しいはずだ。

クーパーはONEと同じ1130kgという車重で160Nmの最大トルクを発揮するから、予想していたよりも、速く走ることを得意とする。

アクセルペダルを踏み始めた瞬間には、あまり過敏に反応はしない。穏やかに走るときにも扱いやすいような設定だ。しかしアクセルペダルを踏み込むほどにトルクはもりもり湧き上がってきて、踏み込み量に比例したトルク感と加速感を感じることができる。

このいわゆるリニア感は、ステップトロニックを使ってマニュアルモードにするか、使いやすいパドルシフトを操って運転しているときの方が感じることができる。

とはいっても箱根のワインディングロードをDレンジのまま苦もなく走れるのもクーパーの資質だろう。上り坂、下り坂での補正プログラムが組み込まれているから、無駄なシフトアップはしないし、余計なシフトアップも控えてくれる。そしてシフト時間は短くスパッと決まるから十分に気持ちよく走れる。

そのコーナリングは、ONEよりもさらにゴーカートフィーリングが楽しめる。試乗車はオプションのタイヤサイズ195/55R16 87Hを履いていたが、この効果もあるだろう。コーナーの入り口でのターンインはちょっとシャープなハンドル応答性を生かしてスパッと切っていっても遅れなくきれいに曲がれるが、カーブに沿って丁寧なハンドル操作することでより美しいコーナリングラインを描くことができる。

コーナリング中も路面に吸い付くように走る。ちょっとコーナーを攻めるような走り方をしても、タイヤはなかなかグリップ限界に達しない。結果として、非常に安定したコーナリングが可能なのだ。

さて最後にクーパーSだ。クーパーと同じ1.6Lエンジンながらターボチャージャーを装備することで240Nmものトルクを1600-5000rpmの間の広いゾーンで発生することができる。

このエンジンの場合、トルクフルというよりもパワフルといった方が似合っている。それはアクセルペダルに対するレスポンスが良いからだろう。走っている間はほとんどタイムラグを感じることなくターボパワーを使える。今回の試乗車は6速MTだから低いギアを使って引っ張り気味で走っていればレスポンスは相当よくなる。AT仕様だとしても、たった1600rpmから最大トルクを発揮できるわけだから、走ってさえいれば、アクセルを踏んだらすぐにこの回転数になる。

しかしONEやクーパーで味わえなかった「じゃじゃ馬」の顔も覗かせる。それは、トルクステアだ。ドライブシャフトは左右で等長になっているが、路面のミューが左右のタイヤで若干違うとか、路面の細かい凹凸などの条件によって、アクセルペダルを床まで踏み込んで加速しようとした場合には少しハンドルを取られることがある。それほど、パワーがあるということだ。

クーパーSといっても新型MINIはさほど硬いサスペンションを採用していない。硬くすればクセがでて逆に扱いにくくなるケースもあるし、限界付近では急な挙動変化が起きやすい。また乗り心地面でも高いレベルを求めるとなると難しくなる。クーパーSは、ボクの予想よりソフトで良い乗り心地だった。

コーナーを攻めていくと基本的にはゴーカートフィールなのだが、最後のところでフロントが重い感じになりロール角も増える。車重を調べるとONEとクーパーが1130kgなのにクーパーSは1210kgと80kgも重くなっている。この差はフロント部分にあるとすると、クーパーSはタイトターンが多いワインディングロードより高速サーキットの方が向いているのかもしれない。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年8月号より)

画像: MINI クーパー。クローム仕上げのラジエターグリルが特徴。ルーフはブラック、ドアミラーカバーは艶ありのブラックが標準だが、無料オプションでホワイトルーフ、ホワイトのドアミラーカバー、さらにホワイトのホイールも選択可能。

MINI クーパー。クローム仕上げのラジエターグリルが特徴。ルーフはブラック、ドアミラーカバーは艶ありのブラックが標準だが、無料オプションでホワイトルーフ、ホワイトのドアミラーカバー、さらにホワイトのホイールも選択可能。

画像: MINI クーパーSは専用のブラックハニカム仕様グリルを装着。クーパーSはボンネット上にエアインテークを装備する。

MINI クーパーSは専用のブラックハニカム仕様グリルを装着。クーパーSはボンネット上にエアインテークを装備する。

ヒットの法則

MINI ONE 主要諸元

●全長×全幅×全高:3700×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1130[1170]kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1396cc
●最高出力:95ps/6000rpm
●最大トルク:140Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速MT[6速AT]
●駆動方式:FF
●車両価格:218万円[231万円](2007年)

MINI クーパー 主要諸元

●全長×全幅×全高:3700×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1130[1170]kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:120ps/6000rpm
●最大トルク:160Nm/4000rpm
●トランスミッション:6速MT[6速AT]
●駆動方式:FF
●車両価格:251万円[264万円](2007年)

MINI クーパーS 主要諸元

●全長×全幅×全高:3715×1685×1430mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1210[1230]kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:175ps/5500rpm
●最大トルク:240Nm/1600-5000rpm
●トランスミッション:6速MT[6速AT]
●駆動方式:FF
●車両価格:295万円[308万円](2007年)

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