タイヤに泣いたトヨタは完敗
カレンダーの再調整によって急遽シリーズに加わったラリー・エストニアは、サービスパークへの出入りを制限し、通常のWRCよりも距離を短くして実質2日間のスケジュールにするなど、新型コロナウイルスの感染対策を万全にした上で「有観客」で開催された。
選手権リーダーとして再開された待望の一戦に臨んだトヨタにとって、エストニアはチームの本拠地を置くフィンランドの隣国。昨年からは世界転戦の前線基地も置かれ、グラベル(未舗装路)のラリーステージもヤリスWRC向きの高速セクションが中心と、有利な条件が揃ったラリーだった。
唯一の不安は、3人のワークスドライバーが選手権の1位、2位、4位を占めるため、ラリー序盤のスタート順が不利なこと。しかし、実際に走り出してみると、それ以上に相次いだタイヤトラブルが進撃を阻んだ。
まず、3人の中では最もスタート順が有利で土曜日午前のSS2で首位に立っていたカッレ・ロバンペラが、次のSS3でリヤタイヤをバーストさせ早くも優勝戦線から脱落。さらにサービスを挟んだ午後のSS7ではエルフィン・エバンスもリアタイヤをバーストさせ、オジェも左リアタイヤがリムから外れた状態となってしまう。スペアタイヤは1本しか搭載していないため、2台は残るステージをタイヤを労わりながらのアタックとなってしまった。
さらにこの日最後のSS11では、摩耗しきったタイヤでスタートしたオジェがコースオフして大きくタイムロス。この段階で先行するライバルのヒュンダイを逃してしまった。
最終日日曜日はセッティングを変更してトヨタ勢が全ステージでベストを叩き出すも、ヒュンダイとの差は大きく、逆転は叶わず、トヨタの3人は結局3、4、5位でフィニッシュ。ラリー全体を通してヒュンダイより多いSSベストタイムを記録しただけに、速さを結果につなげられない悔しい結果となった。
同じヤリスWRCで5番手走行と大健闘していた育成プログラムの勝田貴元は、日曜日に転倒して無念のリタイアとなっている。
ヒュンダイに移籍したタナックが貫禄の勝利
優勝したのは、母国エストニアのステージを知り尽くし、8月半ばに開催された前哨戦のサウス・エストニア・ラリーでもトヨタ3台を相手に完勝していたヒュンダイのオィット・タナックだった。
本格的な「開戦」となった土曜日のオープニングのSS2でこそスローパンクチャーでペースが上がらなかったものの、続くSS3で圧倒的なベストタイムをマークして首位へ。そこからは無理してベストタイムを追わず、リスクを上手くマネージメントしながら徐々に差を広げる王者らしい走りを見せた。
日曜日は安全策をとってスペアタイヤ2本積みにする余裕を見せ、最終パワーステージも3位(=ボーナス3点)で走り切ってヒュンダイ移籍後初の優勝を達成した。
これでタナックはドライバーズランキングでも首位オジェに13点差、2番手エバンスに4点差に急接近。ダークホース的存在だったチームメイトのブリーンが2位に入るなど、ヒュンダイi20クーペ WRCは明らかにパフォーマンスを向上させており、シーズン残り3戦、マニュファクチャラーズ選手権でも5点差に詰め寄られたトヨタはうかうかしていられない状況になってきた。
次戦WRC第5戦ラリー・トルコは、2週間後の9月18~20日、トルコ・マルマルリスを起点としたラフなグラベルステージで開催される。
2020 WRC 第4戦ラリー・エストニア 結果
1位 O.タナック(ヒュンダイ i20クーペ WRC) 1h59m53.6s
2位 C.ブリーン(ヒュンダイ i20クーペ WRC) +22.2s
3位 S.オジェ(トヨタ ヤリス WRC)+26.9s
4位 E.エバンス(トヨタ ヤリス WRC) +41.9s
5位 K.ロバンペラ(トヨタ ヤリス WRC) +1m18.7s
6位 T.スニネン(フォード フィエスタ WRC)+2m39.6s
7位 E.ラッピ(フォード フィエスタ WRC) +2m52.0s
8位 G.グリーンスミス(フォード フィエスタ WRC)+4m.53.8s
9位 O.ソルベルグ(フォルクスワーゲン ポロ GTI R5) +7m.38.6s
10位M.オストベルグ(シトロエン C3 R5) +8m17.3s