2006年に登場し、2007年には日本でもお披露目されたアルファ8Cコンペティツィオーネ。今回は2007年秋、開発最終段階のプロトタイプモデルに、幸運にもバロッコ・テストトラックで試乗がかなった時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)

何の前ぶれもなく我々の目の前に現れた「8C」

フィアット社があるトリノから、クルマで1時間30分ほど走ったところに、バロッコ・テストトラックがある。ここはかつてアルファロメオ社が所有していた。そして、数々の名車が鍛え上げられたことで知られており、アルフィスタにとっては聖地とも言えるところだ。アルファロメオ社がフィアット社傘下に入ってからすでに20年が経過し、このテストトラックはフィアット社の持ちものになって久しいが、それでもここはやはり「聖地」である。いくら時間が経過してもそのことに変わりはない。

そもそも今回、日本のプレス陣がここを訪れたのは、グランデプント・アバルトに試乗するためだったのだが、フィアット社の粋な計らいでアルファロメオ8Cコンペティツィオーネのステアリングを握る機会に恵まれた。500台限定生産のうち70台が日本向け、その数は本国イタリアに次いで2番目というのだから、日本人プレスにはチャンスがあれば乗せてあげようと思ったとしても、それは自然なことかも知れない。

さて、8Cは何の前ぶれもなく我々の目の前に現れた。テストトラックであるがため、そこには様々なクルマが走っている。時に、ボディに偽装を施したクルマが甲高いエグゾーストノートを響かせて、すぐ向こうを通り過ぎたりするのだが、中でも8Cが現れる直前に響き渡ったエグゾーストノートは、格別なものだった。

思い起こせば4年前、2003年のフランクフルトショーでその勇姿を露わにして以来、世界のモーターショーで、たびたびお目にかかる機会はあったが、それはあくまでも静的なものでしかなかった。ここにこうして、音を発し躍動する姿を目の前にすると感無量と言う他はない。そう、アウトドアで見るのも初めてだ。

ブラックとレッドの2台が用意されていたが、とくに、「コンペティツィオーネレッド」と名付けられたこの赤いボディの輝き、深みがある艶の美しさには、筆舌に尽くしがたいものがある。見る者を圧倒する「美」があるのだ。8Cを前にして、多くの日本人プレスは、ただただ「うーん」と唸るばかりだった。

これまで数多く現代のスーパーカーを見てきたが、これほど興奮させられたことはない。決して価格の問題ではない。8Cの2259万円よりも高いクルマはいくらでもある。やはりこれは、アルファロメオというブランドが持っているオーラなのだろう。

画像: アルファロメオの血脈が生み出したスーパースポーツカー、8Cコンペティツィオーネ。V8ユニットをフロントに搭載する2シーターFRモデル。

アルファロメオの血脈が生み出したスーパースポーツカー、8Cコンペティツィオーネ。V8ユニットをフロントに搭載する2シーターFRモデル。

最大の注目点と言える軽量で低重心なボディ

アルファ8Cコンペティツィオーネのプロフィールを改めて確認しておこう。

このクルマはアルファロメオのデザインと、マセラティのテクノロジーが融合することで誕生したものだ。具体的にはアルファ・マセラティ・スポーツセンターの手によって生産車として仕上げられた。

エンジンとトランスミッションは、マセラティクーペのものが使われている。とは言ってもあくまでもベースであり、エンジンはコンセプトモデル段階では4.2Lだったが、生産車は4.7Lになっている。試乗前のプレゼンテーションでも、プロジェクトチーフのバニアスコ氏は、「このクルマのためのニューエンジンである」と胸を張っていた。

駆動系レイアウトはFRで、トランスアクスルを採用している。デフギアとセミATトランスミッションを一体化したユニットを後方に配することで、前49:後51という理想的な重量バランスを実現している。

そして、このクルマの最大の注目点はボディ構造にある。プラットフォームは、ねじり剛性に強いスチール製で、ボディパネルには軽量高剛性なカーボンファイバーを使用しているのだ。この構造のメリットは大きいと言える。低重心で軽量にできるからだ。

ただこれを作り上げるにはかなり手間がかかるそうだ。バニアスコ氏によれば、まずトリノの工場でスチールとカーボンファイバー部分をボルトと接着剤で合体、そして特別な技術を持ったところへ塗装に出す。カーボン部分は低温で焼き付けないといけないためだ。塗装したら、ファイナルアッセンブリーのためにマセラティの工場へ持って行くとのことだ。

インテリアにもカーボンファイバーが随所に使われている。こう言うとレーシーな雰囲気だと思われるかも知れないが、アルミパネルとのコントラスト(色の違い)を巧みに利用して、ゴージャスに仕立てている。エクステリア同様にインテリアも、実にアルファらしい妖艶な魅力が満ちあふれている。さらにオプションで、よりグレードの高いレザーシートや、カーボンファイバー製ステアリングなどを選ぶこともできる。

画像: この美しいボディは数千時間に及ぶ風洞テストの結果、生まれたもので、エアロダイナミクスも非常に優れている。確かにボディ表面に空気の流れを妨げるような突起物はなにもない。

この美しいボディは数千時間に及ぶ風洞テストの結果、生まれたもので、エアロダイナミクスも非常に優れている。確かにボディ表面に空気の流れを妨げるような突起物はなにもない。

驚くべき絶対性能の高さ、しかも気持ちいいのが凄い

さて、いよいよ試乗だが、まずは助手席に乗る。アルファロメオのテストドライバーがステアリングを握り、テストトラックへ進入、そして、一気に加速する。その後、ブレーキング、初めのコーナーを曲がったあたりで、すでに8Cのポテンシャルの高さに驚嘆していた。優美なスタイリングとは裏腹に、その気になればかなりレーシーに走ることができる。日本人プレスに、バロッコで試乗させてやろうとアルファロメオのPRマンが思ったわけがよくわかった。公道ではこのレベルまではとても試すことができない。しかし、8Cの持つポテンシャルをぜひ知って欲しい、ということだったのだろう。

コースを1周したあと、いよいよ自分でステアリングを握る。まず驚いたのは非常に運転がしやすいということ。オートマチックマニュアルシフトのシフトアップダウンは、予想よりショックは少ないし、アクセル、ブレーキペダルともに踏み込みに対する反応は自然だ。また、ボディが大き過ぎないのもいい。さらにステアリングフィールは絶秒、路面からのインフォメーションが、しっかりと感じられる。

コーナーはまるでミッドシップカーのようにクリアする。前49:後51という重量バランスの良さと、軽量、低重心であることが効いているのだろう。エンジンの吹き上がりは抜群によい。4.7Lもあるのでトルクも十分なのだが、アクセルペダルを踏むと、そんなことを意識する間もなく、あっという間にエンジン回転は上がり、グイグイと加速する。

テストトラックを2周することができたが、1周目はマニュアルシフトで走り、2周目はオートモードで走った。慣れないコースではオートモードの方が楽しめるし、またクルマの良さも十分に味わえた。

それにしても、アルファ8Cコンペティツィオーネ、畏るべし、だ。世界に500人誕生するオーナーが羨ましい限りだが、アルファロメオには、どういう形にしろ、この8Cコンペティツィオーネに続いて、次の一手を期待したいものだ。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2007年12月号より)

画像: スタイリングも見事なものだが、カーボンファイバーやアルミパネルなど、素材の特徴を活かしたこのインパネまわりのデザインも、素晴らしいの一語に尽きる。

スタイリングも見事なものだが、カーボンファイバーやアルミパネルなど、素材の特徴を活かしたこのインパネまわりのデザインも、素晴らしいの一語に尽きる。

ヒットの法則

アルファロメオ アルファ 8C コンペティツィオーネ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4397×1892×1340mm
●ホイールベース:2646mm
●車両重量:1575kg(EU)
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4691cc
●最高出力:450ps/7000rpm
●最大トルク:470Nm/4750rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AMT
●最高速:290km/h以上
●0→100km/h加速:4.2秒以下
※欧州仕様

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