2007年、アバルトブランドが復活した。3月のジュネーブオートサロンで復活を宣言すると、トリノに1号店をオープン、その後一気に欧州12カ国に60拠点を設けた。そして、アバルト復活の第一弾として登場したのが、グランデプント アバルトだった。Motor Magazine誌ではさっそくイタリア・トリノで行われた国際試乗会を取材している。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)

やることなすことすべてに勢いが感じられる

世界の自動車メーカーの中で「いま一番活きがいいのはどこか」と聞かれれば、何のためらいもなく「フィアット」と答えるだろう。もちろん業績もいいのだが、何よりもやることなすことすべてに勢いが感じられる。この「アバルト復活」などはそのよい例だろう。

一時の深刻な経営不振から、復活の狼煙となったのはグランデプントだが、その成功を確認するや、間髪をおかずこの夏にはフィアット500(チンクエチェント)を現代に蘇らせた。さらには往年のスポーツブランド「アバルト」を復活させるというテンポの良さは爽快だ。自らの強みをよく理解した上で打つ手には、ためらいがなく、回りの人間を巻き込む勢いがある。

さて、アバルトを名乗るモデルが登場するのは、リトモ130TC以来、24年振りということになる。それがつい昨日のことのように感じられてしまうオールドファンは多いと思うが、それだけこのブランドは印象深い。レースで活躍し、続いてプロトタイプ、改造キットと、クルマ好きの若者へ向けて、強烈なメッセージを発信していた。

復活したアバルトも同様だ。実はすでに、2006年からグランデプント・アバルトS2000というマシンで、イタリアと欧州ラリー選手権に参戦している。そして、2007年3月のジュネーブショーで正式に「アバルト復活」を宣言、その第一弾のモデルとして、グランデプント・アバルトが発表された。さらに9月のフランクフルトショーでは、往年のスペシャルバージョンと同名の「エッセエッセ(スーパースポーツの意味)」もお披露目した。

試乗に先立って、ホテルに滞在する日本人プレスを訪ねてきたのは、フィアットブランド社長のルカ・デ・メオ氏。フィアットグループ社長マルキオーネ氏の右腕で、フィアット復活の立役者となった人物だ。そして、このルカ・デ・メオ氏が新生アバルト社の社長も兼任する。フィアット社のアバルトへの力の入れようが、このことでもわかる。

同氏によると、グランデプントに続いて500アバルトも投入するが、完璧に仕上げたかったので当初の予定より遅れて、その時期は2008年になるとのこと。そして「将来的には、500アバルトでサーキットレースをやりたい」とも言っていた。また、アバルトを扱うディーラーは2008年末までに欧州12カ国に60拠点、プラス日本に数カ所設けるそうだ。

画像: アバルト復活の第一弾として登場したグランデプント・アバルト。その出で立ちは華美ではなく大人っぽい。しかし、それでいて危険な薫りもある。アバルトの味は絶妙だ。

アバルト復活の第一弾として登場したグランデプント・アバルト。その出で立ちは華美ではなく大人っぽい。しかし、それでいて危険な薫りもある。アバルトの味は絶妙だ。

ハイチューンながら非常に運転しやすい

試乗はトリノ郊外にあるバロッコ・テストトラックで行われた。まず、155ps仕様に乗ったが、このエンジンは1.4L 4バルブDOHCにギャレットIHI製ターボをドッキングしたもの。自然吸気では95psなので、ハイレベルなパワーアップだ。アクセラレーターはドライブバイワイヤで、機械的な繋がりはない。組み合わされるトランスミッションは6速MTとなる。

ホイールはノーマルより2インチアップされ、タイヤは215/45R17サイズのピレリPゼロを履く。ブレーキもフロントにはブレンボ製キャリパーを装着するなど強化されている。サスももちろん専用セッティングで車高はノーマルより10mm低い。

初めはちょっと構えた。これだけのハイチューンだから、操作は繊細にしなくてはならないだろうと思ったのだ。そして、ギアを1速に入れて、ゆっくりとクラッチを繋ぐ。するとどうだろう。実にソフトで滑らかにクルマが動き出した。これは非常に運転がしやすい。センシティブなところはまったくない。

そのまま2速、3速へとシフトアップをしていくが、シフトフィールはしなやかだ。カチカチと入るような感じではなく、回転が合うとそのギアにスッと引き込まれるようなイメージだ。エグゾーストノートも、過度ではなく適度な演出がいい。

テストトラックなので、ある程度ハードに走ってみたが、サスペンションは粘り強く、リアの追従性がよい。パワーが過剰ではないので、その点でも扱いやすい。ゆっくり走れば快適で、その気になれば十分速い。実に懐が深い、大人の味と言える。

じっくり見ると、内外装のデザインも華美ではなく上品、大人っぽくてよい。若かりしころに、勝手にイメージしていたアバルトとは少々異なった印象だった。しかし、この現代のアバルトの味は絶妙だ。昔のアバルトのことも知っている40歳以上のオールドファンには、かなり受けるのではないかと思う。

180psエンジンを搭載するエッセエッセにも試乗したが、上質さを削がない範囲の運動性能向上が図られており、なかなかよかった。これはキット販売なので、155ps仕様に後付けできる。こうした配慮もアバルト流で嬉しいところだ。

「アバルト」は、フィアット社の元気を象徴する中身の濃さだった。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2007年12月号より)

画像: エンジンは1.4L 4バルブDOHCにターボをドッキングして、最高出力155ps、最大トルク200Nmを発揮。

エンジンは1.4L 4バルブDOHCにターボをドッキングして、最高出力155ps、最大トルク200Nmを発揮。

ヒットの法則

グランデプント アバルト主要諸元

●全長×全幅×全高:4060×1725×1480mm
●ホイールベース:2510mm
●車両重量:1240kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1368cc
●最高出力:155ps/5500rpm
●最大トルク:200Nm/5000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速MT
※欧州仕様

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