リンカーン MKX最大の魅力はスタイリング、とにかくカッコいい
いわゆる「選択と集中」というやつで、フォードはマスタングとSUVによって日本市場で生き残りをかける。かつてはモンデオ、フォーカス、フィエスタといった欧州フォードのクルマが導入されていたが、現在は「アメリカン」がキーワードになっている。
そうした戦略の中でプレミアム部門を担うのがリンカーンブランドだ。すでに第一弾として2008年5月に、あのド迫力SUV、ナビゲーターが導入されている。全長×全幅×全高=5295×2035×1995mmで車重が2730kgというこのクルマは、まさに「大きいことはいいことだ」というアメリカンテイストに溢れている。リンカーンブランドを日本市場へイメージづけるには、まずこのナビゲーターを導入という作戦は成功だったと言えるだろう。
そして、一定のブランドイメージが固まってきたところで、新たに日本へ投入されたのがここで紹介する「MKX」。2006年の北米国際自動車ショーで発表され、2007年からアメリカで発売開始、現在は中南米、中東でも販売されているリンカーンの最新モデルだ。
さて、ナビゲーターより小さいとはいえ、MKXは十二分に大きい。全長×全幅×全高は、4750×1925×1705mmで車重は2tを超える2060kgだ。マツダ CX-7とプラットフォームは共通だが、ボディサイズはMKXの方がひとまわり大きい。とくに幅が広いのが特徴で、迫力あるスタイリングの実現には貢献しているが、日本の狭い駐車場では少々苦労することになるだろう。
エクステリアでは、リンカーンスターを中心としたフロントグリルが個性を主張するが、最大の見せ場は左右一直線に伸びたリアコンビネーションランプだろう。これは全体がLEDで光るので、夜間などは実に美しい。とくにブラックのボディカラーに赤いLEDの輝きは妖艶なムードを醸し出す。
また、クロームの8スポーク18インチアルミホイールも豪華で力強い。さらにボディサイドのウインドウ下にまっすぐ伸びるクロームなどで、スタイリングについては文句のつけようがないほどいい。いかにも「近代のリンカーン」というムードに溢れている。
インテリアもゴージャスだ。ブラックのレザーシートと明るいメイプルウッドが、よいコントラストとなっている。装備類も「ないものはない」という奢りようだ。電動パノラミックルーフやヒーター&クーラー付きフロントパワーシート、そして地デジフルセグチューナー内蔵のHDDナビも標準装備する。とにかく付けられるものは全部付けて650万円、設定は1グレードとなる。
走行性能はどうか。269psの3.5L V6 DOHCに6速ATの組み合わせで、駆動方式は「インテリジェントAWD」というオンデマンド式4WDを採用している。本国にはFFもあるのだが、日本へは「とにかく一番ゴージャスな仕様で」ということなのだろう。
走り出すと、まず感じるのは「運転のしやすさ」だ。幅は広いがそう感じさせず、小回りも結構効く。乗り心地はしっかりしている。ナビゲーターのように、いかにも「アメリカンSUVです」という大らかなフィーリングではない。このあたりに、アメリカ国内だけでなく、より多くの国で売りたいというフォードの意図を感じる。
走りに関しては「アメリカン」なところはない。敢えて個性を出さずにオールマイティであることを狙っているようだ。となれば、そもそもこのクルマに4WDが必要だろうかと疑問に思う。オンロード中心の都市型SUVなのだから、軽いFFの方がいいだろう。
さらにMKXの最大の魅力はどこかと考えると、それはスタイルだ。ならばインテリアもこれほどまでに豪華でなくてよいと思う。スタイリングはこのままで駆動方式はFF、装備をもっと簡素にすれば価格は大幅に下げることができるだろう。そのうちそういう仕様が出てくるかも知れないが、そんなことを思うのも、スタイリングに感服したためだ。
この手の大きなSUVには強い逆風が吹く今日この頃、実績を上げるのは容易なことではないが、フォードの日本市場における「選択と集中」は戦略としては正しいと思う。次の一手は何なのか、楽しみにしたい。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:玉井 充)
リンカーン MKX 主要諸元
●全長×全幅×全高:4750×1925×1705mm
●ホイールベース:2820mm
●車両重量:2060kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3495cc
●最高出力:198kW(269ps)/6250rpm
●最大トルク:339Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:レギュラー・76L
●タイヤサイズ:245/60R18
●車両価格(税込):650万円(2008年当時)