石焼き芋販売車はキッチンカーではない。いもの加熱は調理ではない。
2021年6月1日から施行される改正・食品衛生法によると、車内で調理を行うには所定の設備を整えることが求められる。特に設置する給排水タンクの容量により、調理方法と提供品目数が規定されるのが目新しい点だ。ちなみに法律で定めるキッチンカーとは、イベント会場などで見かける、主にトラックの荷台にキッチンを作り付け、食品を調理・販売する車のことだ。
ところで日本には、昭和時代から続く食品調理販売車がある。石焼き芋販売車だ。今回の食品衛生法改正で、石焼き芋販売車に対する疑問が浮かんできた。
1、石焼き芋販売車はそもそも車検に通るのか?
2、石焼き芋販売車は走行中に薪を燃やして、道路交通法上の違反にならないのか?
3、石焼き芋販売車は調理設備を積んでいないが、さつまいもを加熱調理していいのか?
こうした疑問について調べてみると、石焼き芋販売車は法律上とても合理的な存在であることがわかる。それぞれを解説しながら紹介しよう。
石焼き芋販売車はそもそも車検に通るのか?
トラックにキッチンを備え付けた車両を食品衛生法ではキッチンカーと呼ぶのに対し、石焼き芋販売車の正式名称はない。というのも、石焼き芋販売車は車体をキッチンカーのように改造していないからだ。荷台にある芋を焼くための「窯」は、ただ乗せてあるだけの積載物に過ぎないからだ。
関東運輸局によれば、車検は積載物をすべて降ろした状態で受けるもの。石焼き芋販売車が搭載する石焼き芋窯も当然降ろした状態、車検場では一般的な軽トラックとして検査を受けるということだ。荷台に焼け焦げた跡を発見した旨の報告もないそうで、どの軽トラックが石焼き芋販売車か、見分けるのは困難とのこと。つまり石焼き芋窯は、内部で燃焼していても車体に損傷を与えておらず、安全な積載物と言えるだろう。
石焼き芋販売車は走行中に薪を燃やして、道路交通法上の違反にならないのか?
加熱中の石焼き芋窯を搭載して走行すると道路交通法違反になるかというと、ならない。道路交通法に規定される積載物の制限は重量、長さ、危険物だけで、積載物の温度変化や積載物の内部の燃焼を規制する項目はないのだ。
・石焼き芋窯の重量について:種類にもよるが、おおむね70kg程度と軽トラックの最大積載重量350kg以下であることから問題ない。
・石焼き芋窯の長さについて:荷台の内側に収まる程度のサイズであれば問題ない。
・危険物について:構造内で燃焼させている石焼き芋窯は、危険物に当てはまらない。
→道路交通法や道路運送車両法で規定される危険物とは、有害化学物質や爆発物、放射性物質などであり、石焼き芋窯のようにその構造内で燃焼する物体は危険物と規定されていない。一般通念で危険と感じても、道路交通法に規定がないのだ。
とはいえ、道路走行時には積載物をしっかり固定し、周囲への飛散を防止するのが運転者の義務だ。石焼き芋窯の焼き芋を出し入れする蓋や燃料の薪をくべる蓋を開けたまま走行すると、安全注意義務違反となる可能性がある。
蛇足だが石焼き芋窯の燃料に薪を使うと煙を排出するが、これも違反ではない。自動車が排出する煙の規制は排気ガスに限られるためだ。