タイロッド前引きはフロントミッドシップの証?
ラック&ピニオン式でもボールナット式でも、ステアリング機構のためにはステアリングギヤボックスとナックルアームとをつながるタイロッドが必要だ。よくクルマを観察すると、それが前輪の前にある方式(前引き)と後ろ側にある方式(後ろ引き)があることがわかる。
これは主にエンジンの搭載位置と関連している。FR車の場合、前引きと後ろ引きの両方のパターンが考えられるが、一般的に後ろ引きが多く用いられる。とくにフロント縦置きエンジンのFR車で前後重量配分を50:50に近づけようとすると、フロント側にスペースができるからだ。
具体的な車名を挙げると、トヨタのA80/A90系スープラ、マツダ RX-8やロードスターなどスポーツ性能を重視したクルマは、フロントミッドシップ的なエンジン搭載位置となり前引きとなっている。ちなみにグランドツアラー的な性格の強い日産のZ34フェアレディZは後ろ引きだ。
その一方、エンジン横置きのFF市販車はほぼ後ろ引きと考えていい。これはエンジンが前輪の前方に搭載されているためで、タイロッドをそこに配置できないからだ。ただし、FFと同じくフロントにドライブシャフトを持つスバル WRXなどは前引きとする例もある。ちなみに、同じ水平対向4気筒を搭載したFRのBRZ(及びトヨタ 86)はなぜか後ろ引きとなっている。
リアにエンジンを搭載するミッドシップの場合、フォーミュラカーなどのレーシングカーも含めて前引きとなる。もちろんスペース的に後ろ引きも可能で実在もした。ただ、基本的にレーシングカーは安全性のためにレギュレーション上、「前車軸はペダルより前方になければいけないと」定められており、ステアリング機構は前輪の前となる。
タイロッドの位置は、ブレーキキャリパーの位置に関係してくる。それは、ナックルアームとブレーキキャリパーが干渉してしまうからだ。例外はあるものの前引きならばブレーキキャリパーはローターの後ろ側に、後ろ引きならばローターの前側に置かれることになる。
これはブレーキの冷却性能に関連してくる。一般道を走行するのであればほとんど影響ないが、ブレーキキャリパーがローターの前側にあるより、後ろ側にあった方が冷却風がブレーキキャリパーに当たるため、冷却性が高い。冷却用のダクトを装備しない場合、ブレーキキャリパーの位置が前後どちらかによって、ブレーキパッドの摩耗に大きな差が出る。(文:FAN BOOK編集部 飯嶋洋治)