伝説的レーシングドライバーと伝説を作った愛車との「別れのドライブ」
物語は、人気の途絶えたロンドン市街の風景から始まる。疾走する1台のクラシックなレーシングマシン・・・「722」のゼッケンが描かれたメルセデス・ベンツ300SLRだ。ミッレミリア1955年大会でスターリング・モス選手が駆った、ウイニングマシンである。
3分30秒のムービーは、その伝説的な勝利と、スターリング卿と愛車とのラストランを讃えるトリビュートだ。シルバーアロー722号車が終の棲家となるメルセデス・ベンツ博物館に向かう前に、モス自身がハンドルを握ってロンドンを走ったエピソードを、レースシーンやスターリング卿のインタビューといった貴重な記録映像を交えながら展開していく。
そこかしこに光るセンスの良いオマージュ
ドライブの出発点は、とある日曜日の早朝。寺院から始まり、国会議事堂、トラファルガー広場、王立自動車クラブ、リッツホテルを通過する。途中、「722」はスターリング卿自身の300 SL ガルウィング(1955年にロンドンからミッレミリアまで移動した車)とすれ違い、やがてメイフェアにあるスターリング卿の自宅の前でひとときの「別れの旅」が終わりを告げる。
自宅前に待っているのは、息子のエリオット・モス。父親が長年着用していた手首の時計を見ている。時間は、ちょうど午前7時22分。これは、モス選手とナビゲーターを務めたデニス・ジェンキンソンが、ミッレミリア大会にエントリーした時刻であり、車のレース番号の由来となった時間だ。そこで300 SLRは最後にもう一度停止し、エンジンが切られる。
最後の、そして驚くほど楽しい時間はあっという間。メイキング映像も面白い
撮影は2021年9月末にロンドンで行われた。サー・スターリング・モスはこの町に60年以上住んでいたという。
彼が愛してやまなかった街で、伝説をともに作り上げた愛車との最後のドライブ・・・タイトルの「The Last Blast」は、直訳すると「最後の爆発」になってしまう。けれど調べてみると「Blast」にはスラングとして「驚くような楽しい時間」という意味があるのだそうだ。
なるほどそれなら納得。
まさに「驚くほど楽しい3分30秒」を作ってくれたメルセデス・ベンツ・クラシックに、感謝したい。そしてもちろんサー・スターリング・モスに、心からの賛辞を送ろう。(文:Webモーターマガジン編集部 神原 久/写真:DAIMLER)