一見奇抜なデザインだったり、そこまでしなくてもと思うほどの走行性能だったり、使い切れないほど多機能だったり・・・ここでは国産車にはない強い個性を持つ欧州車にスポットライトを当ててみよう。今回は、腕時計でお馴染みのスウォッチのアイデアから始まった2座のマイクロカー「スマート」を紹介する。
MCCスマート(1998年〜2007年)
初代スマートは全長2.5mという小さなサイズからして「変」だった。
何しろ2台縦にピタッと連なってもメルセデス・ベンツSクラス1台分で、フツーの駐車スペースなら収まりが悪いほど余裕あり、なのである。
「こんなに小さくって、ちゃんと走るんかいな」と不安になるのも無理はない。ところがどっこい、ちょっと高めのシートに収まり、ハンドルを握って走り出せば「小っちゃい」ことは忘れてしまう。いたってフツーのクルマ感覚なのだ。
全幅は1.5m強、全高は1.55m。振り返って初めて全長の短さを痛感する。ただ、日本の立体駐車場は微妙なサイズだった。
この小ささはRRだから実現できた。1960年代のヨーロッパの小型車や日本の軽自動車がそうだったように、スペース効率を突き詰めるとRRに行き着く。なぜならパワーユニットを極力小さくできるからだ。
それはスマートに影響を受けて登場したと思われるスズキのツインを見ても明らかだった。スズキ・ツインはFFのため全長を2.735mまで詰めてもホイールベースは1.8mが限界。ところが2.5mのスマートはちょっと長めの1.81mを可能にしていた。たとえ小さくてもフツーに走れる肝はここにあったのだ。
RRはトラクションがかかりやすく、前輪は操舵に専念できるのも利点だった。
2トーンボディには深い理由が。軽自動車枠も存在していた
スマートはもともと腕時計でお馴染みのスウォッチのアイデアから始まった。プラスチックの外板を腕時計と同じように着せ替えして楽しもうという(実際は無理だった)ものだ。スウォッチはこの企画をまずは小型車作りを得意とするフォルクスワーゲンに提案するもまとまらず、話はメルセデス・ベンツに持ち込まれた。
CO2削減問題に直面していたメルセデス・ベンツはこの企画に共感、話はとんとん拍子で進み、1995年のフランクフルトショーで発表、1997年にフランスのハンバッハに専用工場を設立して、1998年の秋から本格的に市場に投入する運びとなるのだった。
スマートの特異な2トーンのボディには理由があった。シルバー部分はトリディオンセーフティセルと呼ばれる強固なケージで、衝突時に乗員を守る役を担っていた。前後にクラッシュボックスを備え、フロアはサンドイッチ構造として、メルセデス・ベンツ基準の安全性を確保していた。
当初のエンジンは61psとした599cc版直3SOHC(何とツインプラグ)ターボで、これにゲトラグ製6速AMTを組み合わせていた。この6速シフトは奥でアップ、手前でダウンのシーケンシャル操作が可能で、ナリは小さくてもしっかりスポーティな走りが楽しめた。
日本では、リアフェンダーを狭めて軽自動車枠に収めた「スマートK」も出現する。
エンジンは2002年のマイチェン時に698ccへアップ。この年にはフルオープンのクロスブレードを限定販売。2003年にはスポーツカーのロードスターとロードスタークーペを加え、2004年には4シーターとしたスマート・フォーフォーを登場させる。これを機に2シーターのモデル名は「スマート・フォーツー」に改められる。
この時期「スマートは毎年1台の新型をリリースします」と大胆にアナウンスしたが、勢いはここまでだった。それでも2007年には三菱製エンジンを搭載した2代目が登場、さらに2014年には3代目となってルノーのトゥインゴとメカニズムの共有化が図られた。そして遂には、バッテリーEVへと進化することになる。
マイクロコンパクトカーの草分けたるスマートは常に、時代を先駆けて来たのだった。(文:河原良雄)