悠久の大地、初夏の大北海道大陸を気の向くままに走り抜いた12日間のクルマ旅 第2話! 素晴らしき森のキャンプ場で目覚め、山上湖の湖底に沈んだ集落の物語に思いを馳せる。
心地よい森での目覚め
瓜時(かじ)の月。
朝ぼらけ。
森で目覚めるということはかくも心地よきものか。
あまたの野鳥が囀り、木々や草花の香り漂う樹林の朝は、市街での生活ではうつろで他愛なきボクのお脳を、至極活性させるのだった。
20代の頃より30余年愛用するミロのパーコレーターで珈琲を沸かし、苫小牧に上陸した際に深夜営業のスーパーで購入した食パンをメキシカンホーローの平皿に並べ、レタスを無造作に切って、真空パックのベーコンを敷く。其処に小分け包装のプチマヨをひねり出せば、なかなかよろしい仕様の朝食が即座に完成される。
二食分を造り、一食分を平らげ、残り一食は川釣りのお昼ご飯にするために、ラップで包んで、フィッシングベストの背中へ収納する。
もぐもぐと咀嚼しながら、
「そういや、昨日の夜にロフトテントの直ぐ下で、エゾジカが凄い音を立てて咀嚼してたっけ・・・」
と、昨晩のちょっとした出来事を思い出す。
漆黒の森にモグッ! モグッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! という怪しい音が響き、その須臾、何ごとかとロフトテントのモスキートネットから下を覗いたボク。
見ると、T-4ウェスティの周囲はエゾジカの群に囲まれているではないか!
草が刈られているキャンプ場のテントサイトは、草花の新芽や山菜を捕食しやすく、草食動物の格好の餌場になるのだ。
「ありゃ、壮観だったね」
昨晩は夜討ち朝駆けのためにその後睡魔にいざなわれ、撮影を忘れ直ぐに寝てしまったことを悔いつつ、ボクはエゾジカの群と同じように咀嚼音を立て、サンドイッチにがっつくのだった。