八ヶ岳の自然とポップアートが織りなす、異次元の心地良さ
キース・へリング。彗星のごとく現れたストリートアートの先駆者。 31歳で早逝したこの天才ポップアーティストの作品は、時代を超えて愛されてきた。記号のようにもマークのようにも見えるカラフルで力強いアート作品に、親しみや魅力を感じた人も多いのではないだろうか。1980年代後半には日本でもブームになったし、最近では、先代スズキ ハスラーのCMに作品が起用されていたことは記憶に新しい。
そんなキース・へリング作品の持つ魅力をより身近に感じ、楽しめるホテルがある。ゴルフ場や乗馬場などを有する「小淵沢アート&ウエルネス」内の「ホテルキーフォレスト北杜」だ。彼の作品を集めた世界で唯一の美術館「中村キース・へリング美術館」に隣接しており、そのアートと自然をゆったりと楽しむために作られた、6室だけの小さなホテルだ。
ホテルは小淵沢IC近く、八ヶ岳高原ライン沿いにある。その前衛的な姿は清々しい林間にあって目を引くもの。建物は非常に凝った姿で、たとえば特徴的な台形型の窓はひとつとして同じ形はない。設計は美術館と同じ建築家・北川原 温氏による作品である。館内はモダンながら、木材などの素材や意匠がそうさせるのだろう。外観からは想像できないほど明るさと温もりがあり、居心地が良い。
それにワクワクするような雰囲気もある。施設のデザインに加え、ロビーや廊下に展示されるキース自身の作品に、縁あるアーティストの作品、そしてモダンな空間の中から望む八ヶ岳の自然が、混然一体となって、非日常の世界を作り出しているのだ。
縄文人の視点でデザインされた建築物
ホテル各所の意匠は、一見するとキースの作品にインスパイアされたものと思いがちだが、「八ヶ岳周辺は縄文文化が栄えた場所。もし縄文人が現代に建物を作ったら・・・、という視点で設計されたものです」と副支配人の原さん。キース由来のように見えた意匠は、実は縄文期の土器や当時の文字であったであろうと伝わる「ヲシテ文献」から引用されているそうだ。
それを暗示するかのように縄文土器も静かに展示されている。稀代の天才が生んだNY発のポップアートとこのエリアが発するプリミティブな文脈、その根底は同じなのかもしれない、と思えるほどマッチしているから不思議だ。
6室の客室名にも「ウヲセ(光)」「カセ(空)」といった古代語由来の名前が付けられる。いずれも広々とした作りで、その名の意味を表現した家具が備わり、自然を満喫できるテラスとゆとりあるバスルームが付く。
小さなホテルだが、リラックスするための施設やサービスもしっかり揃う。ビンテージウィスキーをコレクションした「中村ウィスキーサルーン」に眺望抜群のスカイテラス、少し離れたスパ施設内にはゲスト専用の天然温泉掛け流しの露天風呂もある。レストランも隣接するが、メルセデス SクラスやSUVによる送迎が利用でき、近隣の名店で気がねなく食事も楽しめるといった具合である。
自由さと快適さを担保するサービス、そしてアートの刺激と清々しい自然の融合・・・、ここでのひと時には、異次元の心地良さがある。(文:小倉 修)