グリップを失うシチュエーションを「楽しく」経験
2022年になって早々、大寒波の到来によって各地で大雪が降り積もった。都心でも積雪・凍結によって、いくつもの事故が発生したことは記憶に新しい。普段雪が降らない地域では、慣れない雪道にスリップして立ち往生してしまうことも少なくない。
かくゆう筆者もまた雪とは無縁の地域で生まれ育ったため、普段は、そうしたニュースを見るとクルマに乗る気も起きない。だが、今回参加したのはなんと氷上試乗会。日産が毎年開催しているメディア向け取材会「NISSAN Intelligent Winter Drive」に、参加することになったのだった。
先進運転支援システム(ADAS)を含む「インテリジェントドライビング」や、次世代パワートレーンの普及を目指す日産。氷上や雪上という運転が難しい環境において、駆動方式やシステムによりクルマの挙動や乗りやすさ、運転のしやすさがどのように変化するのかを体験してもらうのが、本イベントの狙いでもある。日常と違って滑りやすい路面で行うユニークな走行会なのだ。
氷上というコンディションで知る、電気モーターのポテンシャル
今回用意された車両はノートの4WD「X-FOUR」、「オーテック・クロスオーバーFOUR」と、2WDの「ニスモ」の3台、ノート オーラは2WDの「G」と4WD「G FOURレザーエディション」の2台、さらに「リーフe+」、「キックス」、そして「GT-RプレミアムエディションTスペック」が用意された。
コースはスラローム、8の字、そして外周路があり、まずは8の字から体験した。ゆっくり慎重に歩かないと転んでしまいそうになる凍結路面では、最新のスタッドレスタイヤを履いているにも関わらずとにかく滑る。そもそもゼロ発進からトルクが太いe-パワーは、このような滑る路面は得意としていないのではないかと想像していたのだが、いざ走り出してみると良い意味での驚きがあった。
ノート オーラで走ってみると、前後重量配分が優れているためもあるのだろう、クルマの挙動変化に唐突感がなく、あくまで自分が操作した範囲で動いてくれる。さらにe-4ORCEが電気モーターによる鋭い加速を瞬時に細かく制御してくれるので、十分なパワーを感じさせながらもしっかり安定感があり、スムーズに素早く発進させることが可能だ。
路面は確かに滑りやすいが変な怖さみたいなものを感じることはなく、ラインを変えてみよう、とかコーナリングスピードを速くしてみようなど、初心者ながらいろいろとチャレンジができるくらい、心に余裕を持つことができた。
クルマを運転していると、どうしても加速性能に目がいきがちだが、ノート オーラは回生ブレーキの効きや制御性能もすごい。アクセルペダルから足を離すだけでタイヤをロックしないように、しかもしっかり減速してくれる。減速がイメージよりも控えめになって、慌ててブレーキペダルを踏み足して結局制御不能になる、などということも防いでくれる。電動パワートレーンの試乗会を氷上で実施する意味が、理解できた気がする。
ノートやオーラを体験した後に・・・
幸いにしてクラッシュすることもなく、氷上で日産の電動パワートレーンの駆動制御技術を堪能することができた。無事に終わり安堵したのも束の間、同行した先輩編集者から思いも寄らない指令が下った。曰く「よし、準備運動はここまでだ。次、あれ乗るぞ!」。そう言って指差した先にあったのは、日産が誇るスーパースポーツカー「GT-R」・・・。
標準グレードにあたるピュアエディションでさえ車両価格は1000万円をオーバーする。しかも今回用意されたのは標準モデルではなく、カーボンセラミックブレーキやカーボン製リアスポイラーなどを装着した特別仕様車「GT-R プレミアムエディション Tスペック」、その車両価格1590万円也。
いくら最強のスポーツ4WDシステム「ATTESA E-TS」がサポートしてくれるとはいえ、搭載される3.8L V6ツインターボエンジンは、570ps/637Nmを発生させるシロモノだ。舗装路ですらスーパーカーに乗ったことのない筆者にとって、氷上で初試乗とは正直ハードルが高い気もするが・・・。
そんな筆者の心配をよそに、着々とスタートの準備を進める先輩は助手席に陣取った。緊張感に押しつぶされそうになりながら、シフトポジションを「D」にセットして恐る恐るアクセルペダルに力を込める。と、高鳴る胸の鼓動と同調するようにエンジンの回転が高まっていく。
スポーツエンジンらしい回転音と排気音を響かせてスタート、そして加速するのだが、強烈なパワーをかけてもタイヤは空転することなく、確実にグリップしながら快走していることに驚く。
やはりこちらも予想していた「怖さ」を上回ることはなかった。一気にアクセルオフした時などはバランスを崩しそうな場面もあったが、ペダルコントロールに気を使いつつ駆動力をちゃんと残していれば、コース上での挙動は安定している。
車両価格1590万円というスーパーカーを未経験の氷上でドライブするハードな任務を終え、無事に駐車スペースまで戻ってこられた新米編集部員。寒いはずの女神湖でひや汗をかき、体を冷やしてしまったことは言うまでもない。(文:河村大志/写真:井上雅行)