VCターボ×e-POWERはお互いの良さを引き立てている
タフじゃなければ生きていけない。やさしくなければ、生きていく資格がない。
(レイモンド・チャンドラー著 生島治郎訳「プレイバック」より)
そんな、フィリップ・マーロウの少しばかり芝居がかっているけれど男の子的にはめちゃくちゃカッコいいと思える名言を、新型エクストレイルを運転しながらぼんやり思い浮かべていた。
そもそもそこには、現代のSUVと言われるクルマすべてに通じるものがあるような気もする。みんなそろって「タフで優しくありたい」と思っているに違いないのだから。けれど、4代目の進化の方向性を見て、乗って、体感してみると、ことさら新型エクストレイルにぴったりの「キャッチフレーズではないか」と思えてくるから不思議だ。
たとえば、新たに搭載された「VCターボ×e-POWER」と「e-4ORCE」がもたらすフィーリングは、まさに「タフで優しい」としか表現のしようがない。
そもそも、日産が世界に先駆けて開発した可変圧縮比エンジンは、ノートのそれと比べて倍近いレベルまで性能が向上している。しかもバッテリーの充電量を精密に観測しながら、負荷の状況に応じて動作、停止、回転数の上下動に至るまで最高の効率を求めている。
最良のタイミングでもっとも美味しいところを狙っているから、日常的な領域から実に躾けがいい。作動時、停止時の振動などはほとんど感じとれないし、フル加速でもエンジン音の高まりが耳につくようなことはなかった。
さらに試乗車の前後に搭載された電気モーターもまた、これまでにない力強さを発生している。前150kW/330Nm、後100kW/195Nmを使い切る全開加速では、そうとうにダイナミックで刺激的な加速感を体験できる。
そのスムーズな伸び感は、ドライバーの思い通りの「速さ」を演出してくれる。欧州の技術陣がこだわり抜いたという「リニアチューン」の恩恵もあるのだろうか。アクセルの踏み込みと加速の盛り上がり感とが、シンクロしているイメージだ。それもまた、ドライバーコンシャスな魅力の一面。新型エクストレイルが秘めた、優しさに他ならない。
20インチは迫力満点。だが乗り味はやや大雑把な印象
今回、テストコースで試乗したのは2台とも4WDモデルだったが、ことパワートレーンの魅力に関しては、大きな違いは感じられなかった。ただしそれ以外の部分では、思ったよりも印象が変って来る。
最初にハンドルを握ったのは「X e-4ORCE」。新型エクストレイルのラインナップは大きくわけて、ベーシックな「S」から「X」、「G」と上級シフトしていく。つまりX e-4ORCEはポジション的には中間と考えていい。これが想像以上に走りのバランスが良いことに驚かされた。
ハンドリングがまず、適度に軽快でスムーズだ。操舵フィールは重すぎず軽すぎずニュートラルで、しなやかにクルマの挙動を操ることができる。新開発のプラットフォームが剛性感に優れているだけでなく、ボディそのもののしっかり感も伝わってきた。
抜群に良い印象を生んでいるのは、おそらくタイヤだろう。18インチのファルケンを履いていたが、接地感の伝わり方もリニアでわかりやすい。全長4660×全幅1840×全高1720mmと、けっして取り回しやすいサイズと言えない新型エクストレイルを、よどみなく自然な感覚で操ることができる。
というように、試乗の印象は極めて良かったのだけれど、素直に「X推し」とはいかないのには、理由がある。ちょっと残念なことに、「上質さ」がやや控えめなのだ。標準仕様としてはメッキ系パーツが多めな上級のGと比べると、エクステリアのキラキラ感が非常に少ない。いい意味で言えば、比較的シンプルで独特の無骨感が魅力的、とも言えるけれど。
ましてやもう1台、試乗用に用意されていたのがメタル調フィニッシュやダーククロームモールを巧みに使いこなした「AUTECH e-4ORCE」だったこともあり、よけいに地味な印象を受けてしまったのかもしれない。なんと言っても、シリーズ最大の20インチホイールはさすがに目を惹く。
ただこの20インチが、実は好みが分かれるところだった。18インチのすっきりとよどみない味わいを体感した後で乗ってみると、255/45R20のタイヤは新型エクストレイルの魅力をややスポイルしているように思えたのだ。
直進状態からハンドルはやや重めで、微小舵角での反応にも「間」を感じる。幅が太くて扁平率も低いのだから当たり前だが、乗り味は硬めだし、ノイズも路面のざらつきをより素直に伝えてくるようだった。コーナリングでもグリップはしっかり出ているものの、よりストレスなくラインコントロールしやすいのは18インチの方だ。