そもそも、チョイスに迷わなくてすむシンプルスタイルが潔い
新型シエンタの初期受注が、好調だ。ららぽーと豊洲に特設された「SIENTA DOGPARK」でお披露目された段階で、すでに2万4000台のオーダーを受けているという。
さすがに、立ち上がり時にはすでに合わせて7万台ほどのバックオーダーを抱えていたハイト系定番ミニバン、ノア/ヴォクシーには及ばないものの、大健闘と言っていい。そもそも車種展開のバリエーションだけ見ても、新型シエンタはきわめてシンプルだからだ。
基本情報としておさらいしておくと、新型シエンタのスタイリングは1種類のみ。上から「Z」「G」「X」の3グレードで構成されるが、一見してわかる大きな差別化は施されていない。たとえばすべてのグレードのタイヤサイズは185/65R15で共通化されているほか、ホイールはZ用標準タイプとG/X用標準タイプ、そしてZ/G用オプションの3種類を設定する。
もちろん最上級のZは、さすがに豪華装備が揃う。Bi-Beam LEDヘッドランプのほかターンランプ、クリアランスランプをLED化、デュアルパワースライドドアがハンズフリーで操作できたり、ハイブリッド車のシフトがエレクトロシフトマチックだったりと、随所で先進感と上質感が演出されている。
しかし、基本となるスタイルだけでも3種類が用意されているノア/ヴォクシー(ノアにスタンダードとエアロの2タイプ+ヴォクシー)と比べると、新型シエンタの個性はすっきりしていて潔い。シンプルな選択肢で2万4000台という初速は、やはり立派なものだ。
5ナンバーをキープ。カスタム系路線はモデリスタにお任せ
2022年1月、一足先に4代目にフルモデルチェンジを果たしたノア/ヴォクシーは、すべてのグレードが3ナンバー化されている。全長4695mm、ホイールベース2850mmという数値は先代から変わらないものの、全幅は1730mmある。全高は1895mm。長さ50mmのシャークアンテナを含めて、先代よりも70mm高くなった。
しかもノア×2タイプ+ヴォクシー=3車型の基本スタイルは程度こそ違えど、すべてがいわゆる「イカツい」系のシャープ感を追求している。ホイールも16インチを基本に、ノア/ヴォクシーとしては初の17インチサイズまで拡大されるなど、明らかに上級志向の変貌を遂げた。
対して、ほぼ半年遅れでフルモデルチェンジとなった3代目シエンタは、5ナンバーサイズをしっかりキープ。全高1695mmこそ20mmほど従来よりも高くなったが、4260mmの全長、1695mmの全幅は変わらない。プラットフォームはTNGAのGA-Bベースで、GA-Cベースのミニバン専用プラットフォームを持つノア/ヴォクシーと比べると、非常にコンパクトにまとめられている。
それどころか「シカクマル」シルエットのように、あえて大きく見せない方向でデザインされているのは、ストレートに大きさ=強さを見せつけたいノア/ヴォクシーと文字どおり対照的だ。いわゆるカスタム的なスタイルが設定されないことも、シエンタの温和なキャラクター性を物語っていると言えるだろう。
効率の良い空間性能、という意味ではハイト系を凌ぐゆとりを演出
開発者によれば、新型シエンタの本質にあるのは「気がねなく使えるツール感」という主張なのだという。意味するものは、そもそも身体になじんだ良質な道具というものは、人に見せて自慢する類のものではない、ということだろうか。
ノア/ヴォクシーやアルファード/ヴェルファイアのように、背の高さの大きさを誇るモデルには、ライバルを凌ぐ迫力が求められる。だが、シエンタのようにちょうどいいバランスが求められるミニバンは、「見せつける」のではなく自分なりに使って便利であり、自分にとって心地よくフィットするものであれば十二分、というスタンスなのだそうだ。
限られたサイズで確保された室内空間のゆとりも、魅力だ。ノア/ヴォクシー比で435mmも差がある全長に対して、室内長は260mmほどに短縮幅が抑えられている(7人乗り)。ホイールベース比では100mmほど短いものの、前後オーバーハングを切り詰めるなど、効率的な広さを実現しているわけだ。室内幅にいたってはあくまで数値上ながら、新型シエンタのほうが60mmほど広い。
室内高はさすがにノア/ヴォクシーより105mm低い1300mmとなるが、これも200mm低い全高を考えれば立派なゆとりが確保されている。スライドドアや荷室開口部の高さを拡大するなど、セミハイト系である新型シエンタの使い勝手は、ますますハイト系に近づいていることは確かだ。乗り込み口の高さも330mmと低めで、お年寄りや子供にも優しい。