ラグジュアリーなSUVの元祖であり、今もなおそのトップであり続けるランドローバー レンジローバー。伝統と最新のテクノロジーが融合したその新型モデルに西川 淳氏が試乗。都内から自宅のある京都まで往復するロングランでレンジローバーの真の実力をみた。(Motor Magazine2022年11月号より)

ディーゼルモデルのD300で都内から京都までを往復

レンジローバーといえば英国王室御用達、ロイヤルワランティを思い出す。先だってお亡くなりになったエリザベス女王のドライブシーンは何度となくニュースになったし、今回の弔問で天皇陛下が空港からホテルまで向かわれたのもレンジローバーの後席だった。

画像: 背が高くても安定に満ちたフラットなフィーリング。

背が高くても安定に満ちたフラットなフィーリング。

今のようにSUV中心の世の中になる前から、ランドローバーおよびレンジローバーは悪路にめっぽう強いクロスカントリー4WDとしてその名を世界に知られ、なかでもレンジローバーは砂漠も走破可能な高級車の代名詞でもあった。正直に言って今やロールスロイスカリナンだけは別格かもしれないが、それ以外の世界の高級ブランドが次々とハイエンドSUVを輩出する時代において、レンジローバーはいまだに孤高の存在であり、彼ら自身もそうあろうと意識しているのだと思う。

それゆえここ3世代はモデルチェンジのたびに自動車における新たなラグジュアリーの方向性を提案する、つまりは我々の想像を超えたハイエンドモデルとなって登場した。レンジローバーらしい佇まいと性能と守りつつ、そしてこれも重要なポイントなのだが、旧世代となる既納客をさほど落胆させることなく刺激する新しさをまとっていたのだ。

先走りすると、第5世代に当たる新型は、シンプルの極みというべきデザインエッセンスとさまざまなパワートレーンに対応可能なプラットフォームを得て、またしてもSUV界の頂点に上り詰めていると言っていい。

軽井沢で開催された“ちょい乗り”メディア試乗会ののち、筆者はグリーンのスタンダードホイールベース(SWB)D300を都内で借り受け、いつものように自宅のある京都までの往復テストドライブを敢行した。マイルドハイブリッドの3L直6ディーゼルターボユニットを積む仕様である。

現時点で日本市場には「帰ってきた」BMW製の4.4L V8ガソリンツインターボ(P530)とこのD300が導入されていて、直6エンジンにプラグインハイブリッドシステムを加えた本命というべきグレードは「また今度のお楽しみ」状態になっている。

つまり、京都へ乗って帰るグレードを選ぶに際して、P530にするかD300にするか、さらにホイールベース仕様もSWBかLWBかというチョイスがあった。V8グレードにオーダーストップが掛かっていたことと、燃料費高騰の折ということもあってD300をチョイス、さらに軽井沢で乗り比べた際にSWBの乗り味の方が好みだったので、写真の個体を選んだというわけだ。個人的にこの色味も好みだったりする

確かに巨体。けれど一体。

都内を転がし始めると、改めてその大きさに「ああ、でかい」とため息が出る。多くのクルマが行き交う街道に出てみると、視線の高さを否応なしに実感するからだ。おそらく小型トラックの視線も然りというやつで、凡百の大型SUVやミニバンが、なんならジムニーかワゴンRくらいの存在に見えてしまう。過去にそんなふうに感じた乗用SUVはカリナンかキャデラックエスカレードの新型くらいしか思い浮かばない。

画像: レザーに代わるウルトラファブリックなどサステナブルな素材を使用する。試乗車のインテリアはエボニーとの組み合わせ。

レザーに代わるウルトラファブリックなどサステナブルな素材を使用する。試乗車のインテリアはエボニーとの組み合わせ。

それで運転に不安が生じるかというと、そうではないあたりが新型の美点のひとつだ。巨大な箱型車にありがちな、上半身(ボディ)と下半身(シャシ)が分かれて動く感覚がまるでなく、どんな速度域でも一体感がある。自分の思いどおりに動いているという確信を持つことができるため、狭い路地でも気にせず入っていけるのだ。低速域で足が多少ゴツゴツすることとサイドミラーの付け根あたりに割と大きめの死角があること以外、街中での乗りやすさはこのサイズを考えると異例だろう。

高速道路に入るとその美点が俄然、輝きを増す。否、正確にいうと高速道路に進入する前、インターチェンジで続く大きなコーナーで新型レンジローバーは感嘆のドライブフィールをみせた。

思いどおりに動く、というレベルではない。背の高いクルマであるにもわらず、視線の高さ以外にそれを感じさせることなく、安心に満ちたフラットフィールでもって本線を目指す。アクセルペダルを少し緩めたならば、気持ちよい時間差(速すぎず遅すぎず)でノーズが内側を向き、コーナー曲率の変化をものともしない。

しっかりとしたクッションと堅牢なボディがドライバーへの不安の伝達を一切封じ込めたようだ。こうなればもはやボディサイズの数字を思い出すことなどなく、ただただ自由に操ることのできる見晴らしのいいクルマというほかなくなる。

もちろん、高速道路でのクルージングは圧巻のひと言だ。ドライバーの操作に対してボディからの無用に大きな反応がなく、前後左右に気持ち悪い揺れを感じることなど皆無だった。本当にこれがSUVのドライブフィールなのか!と驚愕したという点ではカリナンブラックバッジと双璧をなす。

驚異的なツーリング性能。レンジローバーはGTだ

ディーゼルエンジンはいつ何時でも力強く重量級の車体を引っ張り、それでいて普段は低回転域で必要十分な力を供給し続けてくれる。クルージングの際に低回転をキープしてくれることがロングドライブの安楽を何よりもアシストする要素で、長距離ヘビーユーザーがディーゼルを好む理由は、何も燃費の良さだけにあるのではなかったと改めて思い知った。

画像: 高速道路でのクルージングは圧巻だった。

高速道路でのクルージングは圧巻だった。

京都までのドライブは(他のモデルに比べれば)本当にあっという間だった。もちろんそれは時間の短さをいっているのではない。精神的に早く着けたという意味だ。普段と同じ5時間半をクルマによっては6時間以上に感じることもあるし、レンジローバーのように4時間程度で着いたような感覚になる場合もある。もちろん、後者の方が疲れは少ない。

京都の街中で再びその大きさを実感すれば、そこまで驚異的なツーリング性能を見せたという事実を俄に信じることができなくなってしまいそうだ。それでもクルマから降りてすぐさまオフィスに向かう気力と体力があったということは、新型レンジローバーが優れたGTであることの、何よりの証であったと思う。(文:西川 淳/写真:永元秀和)

ランドローバー レンジローバー オートバイオグラフィー D300 SWB主要諸元

●全長×全幅×全高:5065×2005×1870mm
●ホイールベース:2995mm
●車両重量:2580kg
●エンジン:直6DOHCディーゼルターボ+モーター
●総排気量:2993cc
●最高出力:221kW(3000ps)/4000rpm
●最大トルク:650Nm/1500-2500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・80L
●WLTCモード燃費:10.6km/L
●タイヤサイズ:285/45R22(取材車はオプションの285/40R23)
●車両価格(税込):2031万円

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