BMWのルーツをあえて振り返ってみる
車体以外に使うエンブレムも一新されたことだし、ここでいま一度、BMW史を軽くひも解いておきたい。創業時のBMWといえば、ファンならずとも耳タコで「バイエルンのエンジン製造会社」だった。しかしながら、そのルーツはなかなかに複雑だ。
グスタフ・オットーの航空機製造会社は1910年に創業したものの年に倒産しBFW(バイエルン航空機製造)として再出発していた。同じくエンジン製造会社として年に「ご近所」で興ったRAPPはというと、17年にBMWという名に実は改称していた。ちなみにRAPPがBMWになったとき、現在のエンブレムの元祖が生まれている。
第一次世界大戦の結果、航空機製造を禁じられると、後者はベルリンのブレーキ会社、クノール・プレムゼに吸収されて、一時的にBMWの名は表舞台から消えた。22年、BFWとクノール・プレムゼ両社の主要な株主だったカミッロ・カスティリオーニがBMWの名称を購入すると、BFWの方を現本社地ミュンヘンはミルバーツホーフェンへと移転、BMWという名で再スタートさせて二輪車(23年)の、さらにはディキシーを買収して四輪車(28年)の製造へと乗り出した。
いずれにしても、エンジンと乗り物の製造をメインビジネスとする会社として誕生したことは間違いないので、通常はそこまで細かく歴史を振り返ったりはしない。
それにもうひとつ。混乱に満ちた黎明期を振り返っただけでは、BMWの現在地へと至る直接的なルーツを辿ったことにはまったくならないから、という理由もある。いまあるBMWと第二次世界大戦前後のBMWとの間には、法人としての継続性こそあったものの大きな溝が横たわっている。
現代のBMWにつながる転換点がノイエクラッセ
戦後のBMWラインナップといえば、今のビジネスに例えるなら7&8シリーズとMINIだけといった極端さ。自動車販売がこれから伸びようとする正にその瞬間に、売れ筋となるモデルがなかった。経営は一気に傾き倒産寸前、ライバルによる買収かとなった時に、それを救ったのが現オーナーのクヴァント家だ。
そして大いなるテコ入れで誕生したのが、32年のノイエクラッセ(=ニュークラス、後の5シリーズ)であり、66年の02シリーズ(後の3シリーズ)だった。ここにキドニーグリルとホフマイスターキンクの両方をもつサルーンが誕生したというわけで、現代のBMWビジネスは事実上、キドニーグリル以外は60年前から始まったと言える(キドニーグリルの重要性も、強調してし過ぎることはない)。
なかでも3シリーズは、BMWのビジネスの主力であり続けてきた。日本マーケットのこの年間において、もっとも売れたセダン&ワゴンのひとつであったことは間違いない。3シリーズは、ブランドにとっても日本のファンにとっても最重要なモデルである。
3シリーズとしては7世代目となる現行型=G20シリーズのワールドプレミアは2018年秋、パリサロンだった。翌年から生産が始まって、当然のようにベストセラーカーの仲間入りを果たす。「当然のように」ということは、極端な失敗作がこれまでなかったことを表す。逆に言うと、作り手にとって3シリーズほどモデルチェンジの難しいモデルはない。
その後、20年にプラグインハイブリッドグレードの強化などわりと大掛かりな改良が行われた。
内外装の変更で印象をリフレッシュした最新型
なにしろ直前まで好調に売れていたからだろう、22年のビッグマイナーチェンジでは主に内外装のデザイン変更と装備のアップグレードがメインとなった。それが証拠に、パワートレーンのラインナップそのものは変わっていない。
エクステリアの変更点はフロントマスクに顕著だ。バンパーグリルまわりの立体感が強く表現され、押し出しが増した。LEDヘッドライトもより薄くシャープに。前期型と見比べたなら幅広になった印象さえ抱く。リアのコンビネーションランプもワイド感をより強調するデザインとなり、バンパーまわりも車体を低く見せる造形へと変更された。
デザイン面でより注目すべきはインテリアである。新型7シリーズと同じBMW最新のデザイン言語が導入された。見るべきポイントはふたつある。まずはダッシュボードの巨大なカーブドディスプレイだ。12.3インチのメーターディスプレイと14.9インチのコントロールディスプレイを一体に組んで湾曲させ、BMWの伝統というべき「ドライバーオリエンテッド」なダッシュボードデザインをモダンに再構築する。
もうひとつが、Mモデル以外は長らく使われてきたシフトセレクターを小さなレバースイッチに変更、指先で操作できるようになったことだ。積極的にギアチェンジしたい向きのため、全グレードにパドルシフトを装備した。
このG20(ワゴンはG21)を代表するグレードといえば、多くの人が4WDの320d xDriveかM340i xDrivex、もしくはFRでOHEVの330eをピックアップするだろう。これらにM3を加えれば、日本における3シリーズのイメージはほぼ完成する。今回は、とくにパフォーマンス重視のガソリンエンジン搭載3車を選んでテストした。