激闘前の和やかさが漂う記者会見で、想定外のビッグニュースが・・・
驚くほど多くのメディアが集った富士スピードウェイ クリスタルルーム8の会見場・・・予定通りにう始まった「スーパー耐久富士24時間レース 記者会見」は、なんとも和やかな雰囲気に包まれていた。
佐藤恒治トヨタ自動車社長に加え、マツダの毛籠勝弘新社長、スーパー耐久機構事務局(S.T.O.)の桑山晴美事務局長が笑顔でならび、さらにACO(Automobile Club de l‘Ouest/フランス西部自動車クラブ)会長であるピエール・フィヨン氏がサプライズゲストとして登壇している。
同じ「24時間」つながりということで、100周年を迎えるル・マン24時間レースに対するエールとして開催された感のある記者会見だったが、その雰囲気をガラッと一変させたのは、フィヨン会長のさりげないけれどとっても重要な発言だった。
それは、2026年からという具体的な期限を区切ったうえで、水素を燃料とする内燃機関搭載車(以下、水素エンジン車)を、ル・マン24時間レース参戦車として公認する、というもの。フィヨン氏の発言はとってもさらっとしたものだったが(翻訳がさらっとしていた、というべきか)、司会者が一瞬絶句してしまったほどにその内容は、実は重要な変化を示していた。
ル・マン24時間レースを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)はかねてから、トップクラスのハイパーカーカテゴリーに水素燃料電池車を公認することを明らかにしていた。「MissionH24」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げ、当初、2024年シーズンからのFCEV投入を目指してデモンストレーションを行っている。しかし、コロナ禍の影響などで2度にわたって実施時期が延期されている。
そんな中で日本では、2021年のスーパー耐久シリーズから水素エンジンを搭載したトヨタ カローラが実戦投入をスタート。ST-Qクラスというメーカーの開発車両が参加する「実験」的なカテゴリーが生まれ、他のカーボンニュートラル燃料とともに実戦での切磋琢磨が始まっている。
2030年にはすべてのハイパーカーが水素で走るかも
もともとル・マンは歴史的に技術の多様性には非常に寛容で、文字通り「走る実験室」として機能しているだけに、日本における水素エネルギー車導入にも注目していたのだろう。実際、フィヨン会長は2022年に富士スピードウェイで開催されたWEC(世界耐久選手権)の際に来日、水素エンジンを搭載したカローラクロスを試乗したこともある。
いずれにせよST-Qクラスという挑戦的な取り組みが、今回の発表につながったことは間違いない。フィヨン会長はさらに、2030年までにはトップカテゴリー(現行のハイパーカークラス)に参戦する車両すべてが、水素燃料由来(FCEVもしくは水素エンジン車)のレーシングマシンに切り替わることを目指すと語り、メディアや関係者から拍手喝さいを受けていた。
この発言を受けて、トヨタ佐藤社長は「(この発言を)前向きに受け止めています。将来的には笑顔で、いい発表ができるように取り組みたい」と、回答。断言は避けつつも、積極的に考慮していく意向を表明している。
マツダ毛籠新社長も、「ロータリー水素の可能性を開いていただいたと考え、前向きに受け止めたいと思います」と笑顔でエール。今年のル・マンでは787Bをデモンストレーション走行させることにかけて「昔のクルマではなく将来のクルマを走らせたい」と、やや踏み込んで期待感を明らかにした。
S.T.O.の桑山事務局長は記者会見の冒頭、スーパー耐久シリーズのST-Qクラスについて、「試行錯誤の場を提供する」ことが重要な役割にあることを強調し「ル・マンの背中を追って、アジアから耐久レースを盛り上げながら未来のクルマ作りに少しでも役立ちたい」と語っていた。
今回のフィヨン氏の言葉によって、その理想が早くも現実になろうとしている。100周年を迎えた今年のル・マンはもちろん楽しみだけれど、2026年に向けた「進化」と「変化」の行方からも、目を離せそうにない。(写真:井上雅行)