2010年7月、日産のコンパクトカー「マーチ」がフルモデルチェンジして登場した。4代目となるマーチは世界各国で生産されるグローバルカーで、日本市場でタイ生産の車両が輸入されることになった。世界中どの工場で作っても同一の品質を確保する設計が採用されたが、果たしてどんなクルマに仕上がっていたのか。ここでは発表間もなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年10月号より)

海外生産となると気になるのが価格設定と品質

日産は2010年8月のこの時期に、これだけの円高(1ドル=約85円)になることをまるで予想していたのではないかと思わせる。デビューのタイミングとしてはベストだろう。これだけの円高であれば、海外生産のメリットをユーザーに説明しやすいというものだ。そう、1982年の初代デビュー以来、4代目となるこの新型マーチについての話題は、何と言っても国内生産ではなく、タイ生産の輸入車であるということだろう。

そういう視点に立つと、まずチェックしなくてはならないのは、価格設定と品質ということになるだろう。

価格について分析するのは非常に難しいので、ここは日産の商品企画担当者の説明から考えてみることにしよう。それは「価格は先代マーチとほぼ同じですが、アイドリングストップ機能が付くなどで低燃費になっています」というものだ。確かにユーザーにはそれなりのメリットはあるが、日産もここまで円高が進むとは想定していなかったのだろう。単純に円とドルの為替レートから“20%くらい安くなってもいいのでは”というユーザー心理を満足させるのは難しいだろう。しかし、そもそも、タイの通貨はバーツでありドルではないわけだから、価格についてはユーザーにそれなりのメリットはあるということにしておきたい。

次に品質だが、インテリアデザインを見て、“なるほど”と思った。パネルとパネルの繋ぎ目を極力少なくして、そもそも組立方法による品質の差が出にくい構造になっているのだ。実際に決して悪くはない。デザイン自体もいかにもマーチらしいポップな感じだし、機能的でもある。ただオーディオはすべてオプションだが、このインパネまわり全体によく馴染むデザインなのはCD一体AM/FM電子チューナーラジオで、純正ナビは取って付けたようで違和感がある。

画像: いかにもマーチらしく溌剌としたインパネまわりのデザイン。

いかにもマーチらしく溌剌としたインパネまわりのデザイン。

グローバルカーとしてよくできているが個性が薄くなった感も

さて、エクステリアはどうだろうか。品質ということでは日本メーカー製コンパクトカーとして標準的なところだと思ったが、そうであるがため、余計にこのスタイリングデザインが気になった。まるで“無国籍料理”のようではないだろうか。

全体のフォルムは先代モデルのイメージを踏襲しているが、フロント/リアまわりとの一体感に乏しい。マーチらしい溌剌とした爽やかさがあまり感じられない。グローバルカーであることを意識し過ぎて、結果的に本来持つ個性を失ってしまったように思う。高価なデバイスで他車と差別化ができないコンパクトカーこそ、スタイリングで個性をアピールしなくてはいけないはずなのだが……。

肝心な走りは副変速機を持つ新世代エクストロニックCVTと新開発の1.2L 3気筒DOHCによってかなり洗練されている。さらに最大のセールスポイントであるアイドリングストップ機能は、あらゆる状況で自然に作動し違和感はまったくない、よい仕上がりだ。これで10・15モード燃費が26km/Lというのだから、なかなかのものだ。特別な技術を使うことなく既存のものを煮詰めていくことで、ここまで基本性能を高めたことは大いに評価すべきだろう。

さて、エクステリアはどうだろうか。品質ということでは日本メーカー製コンパクトカーとして標準的なところだと思ったが、そうであるがため、余計にこのスタイリングデザインが気になった。まるで“無国籍料理”のようではないだろうか。

全体のフォルムは先代モデルのイメージを踏襲しているが、フロント/リアまわりとの一体感に乏しい。マーチらしい溌剌とした爽やかさがあまり感じられない。グローバルカーであることを意識し過ぎて、結果的に本来持つ個性を失ってしまったように思う。高価なデバイスで他車と差別化ができないコンパクトカーこそ、スタイリングで個性をアピールしなくてはいけないはずなのだが……。

肝心な走りは副変速機を持つ新世代エクストロニックCVTと新開発の1.2L 3気筒DOHCによってかなり洗練されている。さらに最大のセールスポイントであるアイドリングストップ機能は、あらゆる状況で自然に作動し違和感はまったくない、よい仕上がりだ。これで10・15モード燃費が26km/Lというのだから、なかなかのものだ。特別な技術を使うことなく既存のものを煮詰めていくことで、ここまで基本性能を高めたことは大いに評価すべきだろう。

さて、日産から登場した新しいグローバルカーは、これからどのように育っていくのだろうか。世界に受け入れられるには、日本メーカー車であるという個性を大にすべきだと思う。日産もそう考えていると思うのだが、最近、日産というメーカーがまるで日本メーカーではないように感じることがある。となると、いったいどういうことになるのだろうか。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:玉井 充)

画像: スタイリングは好みの問題ではあるが、歴代のデザインコンセプトを受け継ぎつつ、本来持つ個性を失ってしまったように思う。

スタイリングは好みの問題ではあるが、歴代のデザインコンセプトを受け継ぎつつ、本来持つ個性を失ってしまったように思う。

日産 マーチ 12G 主要諸元

●全長×全幅×全高:3780×1665×1515mm
●ホイールベース:2450mm
●車両重量:960kg
●エンジン:直3DOHC
●排気量:1198cc
●最高出力:58kW(79ps)/6000rpm 
●最大トルク:106Nm(10.8kgm)/4400rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:146万8950円(2010年当時)

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