至高のV8サウンドを、生に近い感覚で堪能できる
アクセルペダルをより深く踏み込むとエンジンが始動する。エンジンに電気モーターが、ではなく電気モーターにエンジンが加勢してくる感覚が新鮮で、何度も試したくなるが、さすがにこの動力性能を使い切るのは難しい・・・と感じた頃に、ちょうどワインディングロードに到着した。
「Sport+」にセットして、少しだけペースアップ。すると、ここで大いに唸らされることになった。意のまま感というのか手の内感というのか、アクセルに足が触れた瞬間に反応が返ってくるような感覚が、とにかく鮮烈なのだ。
もともとのV8ユニットも満足度は高かったが、S63のこの躍動感は何だろうか。後輪を主体に蹴り出す電気モーターが瞬間的にトルクを立ち上げるおかげで、右足ひとつで自在に姿勢をコントロールできる、この体躯にして・・・。ここには間違いなく快感がある。
車両重量は実に2730kg(*)。外寸も重さもスポーツカー的な世界とは180度反対にいそうなものなのに、絶対的な質量感を良い意味で保ちながら、エンジンは軽やかに、何のストレスも感じさせずに回転数を高めていく。
しかもサウンドがまた良い。あまり低音を炸裂させるのではなく、音量が適度なおかげで却ってV8らしい息吹を、生に近い感覚で堪能できるのである。
コーナリングも、ますます引き締まった感触を示す。ターンインから旋回に入り、リアの横力が出てくるタイミングが絶妙で、クルマとの一体感が半端じゃない。
じっくり観察すると、操舵に対してロールを抑え込み過ぎず、アウト側が絶妙に沈み込ませながら曲がり始めている。ここで得られた安心感のおかげで躊躇なくハンドルを切り込めるのだ。
見えてきた実力の片鱗。後席で過ごすだけではもったいない
立ち上がりでアクセルペダルを踏みつければ、リアが沈み込みながらクルマが前に進んでいく。そして、もうじきスキール音が鳴り出すかという、まさに良いタイミングで駆動力をフロントに寄せていって、結果としてS63はオーバーでもアンダーでもない絶妙な姿勢で立ち上がるのである。
高出力モーターはリアアクスルに搭載されているが、その力は後輪だけでなく、必要とあればドライブシャフト、トランスファーを経由し、前輪にまで伝達される。逆に回生も4輪で行われるわけで、その効率の良さ=速さにも十分納得できた。
ただし、そのブレーキは回生との協調にわずかに難があり、踏み込んだ後にペダルがさらに奥に入り込んでしまいがちだ。ここまで来たらもう一歩の進化を望みたい。
正直に言うと今回は、都心を走らせただけでは気づけなかったS63 Eパフォーマンスの本当の実力を知ることができた。どれだけのユーザーがそういう走りをするのかはわからないが、是非一度、最新技術によって彩られ、改めて魅力が浮き彫りになったV8に、鞭を入れてみてほしいと思わずにはいられない。
普段はもっぱら後席という方も、時にはドライバーズシートへ・・・そう誘う1台なのだ。(文:島下泰久/写真:永元秀和)
メルセデスAMG S63 E パフォーマンス 主要諸元
●全長×全幅×全高:5335×1920×1515mm
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2680kg(2730kg*)
●エンジン:V8 DOHCツインターボ
●排気量:3982cc
●エンジン最高出力:450kW(612ps)/5500-6500rpm
●エンジン最大トルク:900Nm(91.7kgm)/2500-4500rpm
●燃料・タンク容量:プレミアム・76L
●WLTCモード燃費:8.6km/L
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:140kW(190ps)/4450-8500rpm
●モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm)/150-4000
●システム最高出力:590kW(802ps)
●システム最大トルク:1430Nm(71.3kgm)
●駆動用バッテリー種類:リチウムイオン
●駆動用バッテリー総電力量:13.1kWh(グロス値)/10.5kWh(ネット値)
●EV時走行距離:37km(WLTCモード)
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:前 255/40R21、後 285/35R21
●車両価格(税込):35,760,000円