BMW 1シリーズ Mクーペの登場に刺激されて開発?
噂によれば、RS3の企画はお蔵入りしそうになっていたが、BMW M社が1シリーズ Mクーペを発表したことに刺激されて復活したと言われている。その試乗会は、発表から1カ月も経ていない1月初旬、デトロイトモーターショーの開幕と同じタイミングで行われた。
「さすがはアウディ!」とモントリオール郊外のテストコースへ向かうと、そこにはたった1一台の試乗車しか用意されていなかった。しかも試乗時間はランチを挟んでおよそ1時間である。「やはりこの商品企画は泥縄だったのだろうか?」という疑問がレポーターの頭の中をよぎる。
それでも一面の銀世界に登場したRS3の姿は、どこから見ても即席とは思えない完成度の高いスポーツモデルに仕上がっていた。
フラットシルバーで縁取りされたシングルフレームグリルと、その両脇に大きく口を開けたエアインテークはすべてハニカム状のメッシュでカバーされ、スポーティな演出ができあがっている。アルミ調カバーのドアミラーは、RSモデルのアイコンのひとつ。リアエンドは、ディフューザー風のフィニッシャー左側からツインエキゾーストパイプがパワーを象徴するかのように突き出ている。
インテリアは、基本的なデザインこそS3に準ずるが、ステアリングホイールのリムやハンドブレーキグリップ、シフトノブは滑り止めと汗の吸収に優れたバックスキンで覆われ、ハードボイルドな雰囲気に満ちている。
RS3に搭載されるエンジンはTT RSと共通の5気筒2.5TFSIで、1600〜5300rpmで最大トルクの450Nmを発生する。組み合わされるトランスミッションは7速Sトロニックである。
実用性と操縦安定性の高いパフォーマンスを体感
0→00km/h加速が4.6秒、最高速度は250km/hでリミッターが介入する。しかし絶対性能をどうしても楽しみたいというオーナーにはリミッター解除の可能性が残されており、その際は280km/hまでの最高速度が約束される。
夏期にはレースやドライビングトレーニングが行われるコースだが、冬の時期はすっかり雪に覆われ、走行ラインは圧雪路となっている。まずはアクセルペダルを慎重に、控えめに踏み込んでいくが、思ったほどパワー展開は唐突ではなく、ジェントルな加速が始まる。
しかしちょっと右足に力を入れて前輪が路面を空しく蹴り始めると、より大きなエンジントルクがハルデックスカップリングを介して瞬時に後輪へ伝達される。しかしその挙動はまったくスムーズで、ドライバーは加速が鋭くなったことで理解できるだけだ。
その間に後方からは5気筒独特の低い、バラついたようなサウンドが耳に飛び込んでくる。さらに踏み込んでいくと、それはむしろ澄んだバリトンのように雪原に響き渡る。
やがて雪面を脱して、アスファルトの表面が出たドライコースに入る。ここでは雪上で硬めなセッティングのシャシがパッセンジャーを突き上げていたことがウソのように、スムーズな乗り心地を提供してくれた。コーナーではリアよりもワイドなフロントタイヤのおかげでプッシングアンダーが消され、オンザレール感覚のニュートラルなハイスピードコーナリングが楽しめた。
RS3はドイツを中心に4月からデリバリーされるが、価格は19%の付加価値税込で4万9900ユーロ(約575万円)と、1シリーズMクーペ(5万0500ユーロ)より若干安い。さらにボディの実用性の高さと4WDのもたらす操縦安定性を考えると、お買い得感は確かにある。
もし問題があるとしたら、2年後にはベースモデルのA3そのものがフルチェンジしてしまうことだが、次期A3にRS3バージョンが登場するという確約はない。それゆえにユニークな存在価値が十分に保障されることは確かだ。ただし、日本への上陸や時期については、まだ発表されていない。(文:木村好宏/写真:Kimura Office)
アウディ RS3 スポーツバック 主要諸元
●全長×全幅×全高:4302×1794×1402mm
●ホイールベース:2578mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2480cc
●最高出力:250kW(340ps)/5400-6500rpm
●最大トルク:450Nm/1600-5300rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:4.6秒
※EU準拠