“新たな時代のスズキ軽自動車”の第一弾モデル
ワゴンR、パレットと並び、スズキの軽ハイトワゴン3本柱の一角を担うMRワゴンがフルモデルチェンジを行い、3代目へと進化した。
今回のFMCのトピックは、大きくふたつ。ひとつはシリンダーブロックやシリンダーヘッドなど基本構造から新たに設計したR06A型エンジンを搭載したこと、もうひとつは新たなプラットフォームを採用したこと。スズキの軽モデルは今後、MRワゴンに採用されたこのコンポーネンツをベースにしていく。つまりMRワゴンは“新たな時代のスズキ軽自動車”の第一弾モデル、ということになる。
先代モデルでは「ママワゴン」の愛称からもわかるとおり女性ドライバーを意識したエクステリアとなっていたが、新型は見てのとおり非常にプレーンな外装になっているのが特徴だ。それでいて愛らしく、どこか脱力系の姿は、ターゲットユーザーとなる20代男女の“整いすぎないバランス感覚”をキーワードにデザインされたという。美人か、そうでないかはともかくとして、たしかに親しみやすい顔つきではある。
室内はとにかく広い。新プラットフォームの採用によりホイールベースは従来比+65mmの2425mmを確保。これにより、室内長はスズキ軽で最大の2120mm。後席は前後160mmのスライドと6段階のリクライニングが可能だ。
手に触れる部分のインテリア質感もよく考えられている。決して華美ではないのだが、プラスチックの素材感を上手く生かし、好印象だ。またMRワゴンのひとつのウリでもあるタッチパネルオーディオは、iPhoneやiPadライクなタッチ&スライドの操作感が楽しいもの。バックモニターが標準装備されるのも嬉しい。
テレスコピックは装備されないが、チルトステアリングと調整幅の広いシートリフターのおかげで、軽自動車としては珍しくドライビングポジションは一発でしっくりと決まる。
「軽だから……」という諦めを感じない
スタートボタンを押しエンジンを始動させる。軽自動車初となる吸排気VVT機構を備えた自然吸気R06A型エンジンは、低速からトルクフルで街中で走りやすい。日産マーチなどにも採用されている副変速機付きのCVTとのマッチングもまたいい。CVTにありがちな、加速とエンジン回転の違和感もよく制御され、日常シーンでのもどかしさは皆無だ。これがターボエンジン車となると、加えて高速道路での合流のシーンなどでも気負うことなく普通に走ることができる。つまり余裕ができる。
NA/ターボとも素性の良いエンジンに感じたが、燃費性能もまた優れている。10・15モードで、自然吸気の2WDモデルは25.5km/L。従来モデルの22.0km/L(2WD・4速ATモデル)と比較して大幅な低燃費化を実現している。またターボ2WDモデルは22.5km/L。これは790kgというクラス最軽量のボディも利いている。
ホイールベースの長さはクルマの乗り心地にも影響している。また徹底した防音・防振対策を行っているとのことで静粛性は高い。
全体として非常に好印象だったMRワゴンだが、たとえば60km/h以上で走行したときの風切り音だとか、高速での段差乗り越えの際の収束性だとか、急ぎ目にハンドルを切った時のロールの抑え方だとか、今まで他の軽モデルでは気付きもしなかった部分に対しての要望を感じてしまった。
これはMRワゴンを運転する側からすれば「軽だから……」という諦めを感じないということ。これなら今後スズキの軽モデルは、ますます面白くなっていくはず。軽自動車のレベルアップ。そんな言葉がMRワゴンには相応しい。(文:Motor Magazine編集部/写真:井上雅行)
スズキ MRワゴン T 2WD 主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1625mm
●ホイールベース:2425mm
●車両重量:830kg
●エンジン:直3DOHCターボ
●排気量:658cc
●最高出力:47kW(64ps)/6000rpm
●最大トルク:95Nm(9.7kgm)/3000rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:139万3350円(2011年当時)