2011年2月、生産開始が目前と迫っていたマクラーレンMP4-12Cのプロトタイプ国際試乗会がポルトガルで行われた。2010年3月に発表されたMP4-12Cは世界的に大きな反響を呼び、初年度2011年の生産予定台数1000台を大きく上回るオーダーがすでに入っていた。生産が開始される前から大人気となっていたわけだが、今回はこのプロダクション・プロトタイプの国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年4月号より)

ターゲットはフェラーリV8&ランボルギーニV10

マクラーレンが新たなスーパーカーを作ったというニュースよりも、マクラーレンがフルラインナップのスーパーカーメーカーを目指す、というニュースの方が実はインパクトは大きかった。その第一弾がMP4-12C。ターゲットはフェラーリV8ミッド&ランボルギーニV10ミッドで、もっともコアなスーパーカー市場である。将来的には、その上とその下にMP4シリーズは展開されるということらしい。

もっとも、その計画が最後まで実行されるかどうかは、12Cの成否にかかっている。その仕上がりをチェックするため、ポルトガルで行われたプロダクション・プロトタイプのメディア試乗会に参加した。

ポルティマオのアルガルヴェサーキットに用意された試乗車は全部で4台。耐久テストを兼ねてイギリスから陸地を自走でやってきたという

ドアの峰をすーっとなでるとロックが解除され、ドアが少し持ち上がる。そのまま峰を持って上げる。カーボンモノコックボディ“モノセル”は小さく、ドアがサイドシルごと上がる感覚なので、足下が広い。モノセルを跨ぎ、尻からストンと小振りなシートに身を落とす。

最新モデルの中ではずば抜けて着座位置が低い。低いが、NSXのように視界が良い。そして、この手のスーパーカーの中では相当に中央寄りに座っている。まるで高級なロータスエリーゼのよう。すべては運動性能と軽量化のためである。

7速のデュアルクラッチシステムとドライバーの間には、独自設計の3.8L 90度V8ツインターボエンジンが収まっている。その性能は、600ps/600Nm。

画像: 600ps、600Nmを発生するV8ツインターボエンジンをミッドに搭載、カーボンモノセルを用い乾燥重量1336kgに抑えられたボディで異次元の走りを見せる。

600ps、600Nmを発生するV8ツインターボエンジンをミッドに搭載、カーボンモノセルを用い乾燥重量1336kgに抑えられたボディで異次元の走りを見せる。

誰もが強烈なエンジン性能を楽しめるミッドシップスポーツ

まずはウォーミングアップを兼ねて、サーキットを後にする。一般道では、「乗り心地とハンドリングを新次元で両立した」という開発陣の主張を確かめなければならない。乗り心地で彼らがベンチマークとして選んだのは、なんとBMW5シリーズ。

さすがに最新の528iのノーマル足と比べれば劣るが、逆にいうとそれ以外、例えばドイツの高性能ブランドとは「いい勝負」だ。数多くのスーパーカーの中では極上の部類で、これはアウディR8も上回る。

素晴らしい乗り心地であるにもかかわらず、前輪の動きはまるでフォーミュラカーのようで、両腕から先、ステアリングシステム、シャシ、タイヤが気持ちよく一体化する。

しばらくオートマチックモード×ノーマルダンパーセッティングでゆっくり走る。変速は極めてスムーズで、妙なしゃくりもガサツな音もない。もちろんショックもなし。トランスミッションから少しだけ摩擦音が出ていたが、市販時には改善されるという。

直線路で加速を試みた。室内で聞く限り決して官能的なエグゾースト音ではないが、フラットプレーンカウンターのエンジン音にはメカニカルなノートがはっきりとあり、それを背後に聴くのは気分がいい。

もちろん加速は激烈だ。「弾き飛ばされたよう」という表現がぴったり。けれども加速中に恐怖感はなく、それゆえだんだんと速度感が薄れていく。発進時のトラクション性能の高さに始まり、淀みなくフラットに出るエンジントルク、スタビリティの高さ、ボディの強さと応答性の良さ、そしてエアロダイナミクスが利いている。まるで4WDのR8のように、安心して踏んでいけた。

試しにハンドリングモードをスポーツにしてみたが、乗り心地、スタビリティの高さはそれほど変わらない。このモードに固定されていても、AMGのスポーツセダンより乗り心地はいいと答えただろう。 

サーキットでは、ハンドリング/パワートレーンの両モードをハイパフォーマンスにし、マニュアル操作で楽しんでみることに……。パドルはマクラーレンF1と同じロッカーアーム方式。右引く/左押すがアップ、右押す/左引くがダウンだ。

初めてのコース、600psの後輪駆動ミッドカーにもかかわらず、どんどん平均車速が上がっていく。わずかな時間にクルマと絶大な信頼感で結ばれたから、という他ない。

強力なブレーキと、楽しませる電子制御、そしてブレーキステアの助けを借りて、強大なパワーと俊敏なハンドリングを目いっぱい楽しむ。走っている間中、ずっと笑っていたような気がしたが……。案の定、上がってきた写真をみれば、どの場面でもみっともなく歯がむきだしに。

12Cは誰もがその性能をしっかり使って“楽しめる”ミッドシップスーパーカーだ。そういう意味では、ライバルを完全に、置き去りにしたと言える。(文:西川 淳)

画像: 着座位置は低く、車体中央寄りに座る形となる。メータークラスター中央にセットされる回転計のレッドゾーンは8500rpmからとなる。

着座位置は低く、車体中央寄りに座る形となる。メータークラスター中央にセットされる回転計のレッドゾーンは8500rpmからとなる。

マクラーレンMP4-12C 主要諸元

●全長×全幅×全高:4507×1909×1199mm
●ホイールベース:2670mm 
●車両重量:1509kg 
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:3799cc
●最高出力:441kW(600ps)/7000rpm
●最大トルク:600Nm/3000-7000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●0→100km/h加速:3.3秒
●最高速:330km/h
※EU準拠

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