文: 小林 淳
▶▶▶写真はこちら|ホンダ「5代目 オデッセイ」(画像5枚)
両側スライドドア採用で上級ミニバンへ劇的進化
1994年、空前の「ミニバンブーム」の火付け役として彗星のごとく登場したホンダ・オデッセイ。乗用車同等の走りと高いユーティリティを融合させたこのモデルの歴史の中で現行モデル(5代目)ほど、時代の波とメーカーの戦略に翻弄されたモデルは他に存在しないのではないだろうか。
2013年11月に登場した5代目オデッセイは、従来の「低全高ミニバン」というコンセプトから一転、全高を高め超低床プラットフォームを採用することで、従来モデルをはるかにしのぐ広い室内空間を確保。さらに歴代初となる「両側リヤスライドドア」や、2列目シートに「プレミアムクレードルシート」を採用するなど、乗員快適性を強化することで、上級ミニバンへと進化を遂げている。

初期(5代目)のオデッセイアブソルート。大開口グリルと専用エアロを身に纏うことで、オデッセイらしいスポーティなスタイリングを実現している。
それでいて走りへのこだわりぶりも健在で、足回りにはザックス製振幅感応型ダンパーを採用することで、高全高化しながらもオデッセイらしい「走りの質感」を堅持。走りの良さでオデッセイを選び続けたというユーザーも多かったのは間違いないところ。

初期型の2列目はプレミアムクレードルシートを採用。現行RC5型と比べるとプレーンに思えるが、座面が持ち上がる構造や内蔵式オットマンを備えるなど、当時としては最上級の寛ぎ感が提供されている。
さらに2016年2月には2モーターハイブリッド「SPORTSHYBRID i-MMD(現e:HEV)」モデルも追加されるなど、ハイブリッド化の大波にもいち早く対応。全盛期には及ばないまでも、ホンダミニバンの中核モデルとして確固たる地位を守っている。

2016年2月に追加されたハイブリッドモデル。2モーターシステム「SPORTS HYBRID i-MMD」を搭載し、優れた環境性能と滑らかで力強い走りを実現。上級ミニバン市場での存在感を一気に高めた。
突然の生産終了から前代未聞の中国生産車逆輸入へ

2013年11月に登場した5代目オデッセイは、革新的な超低床プラットフォームにより低重心を実現。硬めのサスチューンとの相乗効果でミニバン離れした走りを披露する。
このように順風満帆に見えた5代目だったが、2020年代に入ると運命の歯車が大きく動き出す。
2020年11月に大開口グリルやシーケンシャルウインカー、日本初のジェスチャーコントロール・パワースライドドアを採用する大規模マイナーチェンジを実施。ホンダセンシングの後方誤発進抑制機能も追加され、商品力を大幅に強化する。
ところがその直後、ホンダはオデッセイを製造していた狭山工場の閉鎖を発表したのだ。これは最新の生産設備が整った寄居工場への移管を目的としたものだったが、オデッセイは移管対象とならず、2021年中の生産終了となり翌年の2022年には在庫分も完売となった。長い歴史と熱烈なファンを持つ人気モデルでありながら、その歴史に一度幕を閉じるという、ファンや業界を揺るがす波乱の撤退劇となったのだ。

2020年11月に行われた大規模マイナーチェンジ後のモデル。厚みを増した重厚なマスクが印象的だが、この発表後まもなく狭山工場の廃止が発表されることに…。
ただ、ホンダらしい個性の塊でもあったオデッセイには、その後に大きな展開が待っていた。ホンダの上級ミニバンを求めるユーザーの声は予想よりも多かったようで、ホンダは2023年12月、中国の生産拠点「広汽本田汽車(広州ホンダ)」で製造されるオデッセイを輸入販売する決断を下す(RC5型)。ちなみに中国からの四輪車輸入はホンダ初の試みでもある。

2023年12月に異例の「逆輸入」として復活を果たした現行オデッセイRC5型。中国の広汽本田で生産され、水平基調の5本メッキバーグリルなど最新のデザイン言語を纏い、堂々たる装いで日本市場へと再投入された。

RC5型の大きな魅力である2列目の4ウェイパワーシート。オットマンやリクライニングの操作が電動化されたほか、折りたたみテーブルやシートヒーターも備え、ファーストクラスさながらの快適性を実現している。
2013年の初期型とこのRC5型を比べると、その進化は目を見張る。パワートレーンはガソリン車を廃止し、最新ハイブリッドの「e:HEV」へ集約。エクステリアは、水平基調の5本バーグリルで個性的な雰囲気を高めたほか、よりシックな「BLACK EDITION」の投入で存在感も強めている。

RC5型の先進的なコクピット。シフトバイワイヤ構造のエレクトリックギアセレクターや大型ディスプレイを採用。「Honda CONNECT」にも対応する。上質で洗練された運転環境へとブラッシュアップされている。
売りであるインテリアも大きくブラッシュアップ。快適な2列目シートは、オットマンやリクライニングが電動化された4ウェイパワーシートに進化したほか、シフト操作も従来のレバー式から「エレクトリックギアセレクター」に変更。コネクテッドサービス「Honda CONNECT」やアクセルオフ時に速度コントロールを容易とする減速セレクターも採用されている。基本骨格などは初期型から引き継ぎつつも、利便性とプレミアム感は時代に合わせて大きく引き上げられている。
再度の販売終了へ。時代の波に翻弄された名車の足跡
ある意味、奇跡の復活劇を遂げた現行RC5型オデッセイだが、2026年6月に年内での生産終了が報じられた。ホンダから正式なアナウンスは出ていないものの、すでに販売店レベルでは告知がされており、オデッセイが国内ラインナップから消えるのは確定的だ。
再びの撤退となった理由としては、為替変動や物流コストの上昇といったハードルが厳しいことや、絶対王者アルファード/ヴェルファイアが君臨する上級ミニバン市場の壁が分厚いことが想像できる。さらにホンダ身内のステップワゴンの上級化が進み、これまで以上に価格帯とターゲットユーザーが重なってきたことも大きいのだろう。
超低床パッケージがもたらした圧巻の走り、工場閉鎖による不運な生産終了、そして前代未聞の中国からの逆輸入。これほどメーカーの都合や市場の激変に振り回されながら、それでもユーザーから熱く支持されたクルマはそうそうない。
「家族のための移動手段」でしかなかったミニバンに、ハンドルを握る愉しさや上質な移動空間という新しい価値を吹き込んだのは、間違いなくオデッセイだった。

現行オデッセイの前モデルとなる4代目は、オデッセイ伝統の低全高フォルムがもたらす乗用車感覚の走りとスタイルを極めた一台だった。
ホンダ オデッセイ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4860×1820×1695mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:1920kg
●エンジン:直4 DOHC+モーター
●総排気量:1993cc
●最高出力:107kW(145ps)/6200rpm
●最大トルク:175Nm(17.8kgm)/3500rpm
●モーター最高出力:135kW(184ps)/5000-6000rpm
●モーター最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0-2000rpm
●トランスミッション:e:HEV
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:レギュラー・55L
●WLTCモード燃費:19.9km/L
●タイヤサイズ:215/60R17 96H
●車両価格(税込):545万500円(諸元と価格はe:HEV ABSOLUTE)
おすすめ関連記事





