創始者であるブルース・マクラーレンが自ら設計した「マクラーレン・エルヴァM1A」が、60年の時を経てスピリットを継承──。そんなスーパーカーがマクラーレン・エルヴァです。マクラーレン・セナをも超える軽量ぶりとハイパワー、そして風圧マネジメントが魅せる世界観とは、どんなものなのでしょう。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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60年前のスピリットを現代のテクノロジーで再現

今を時めくマクラーレン・カーズですが、最近のユーザーはこのブランドがブルース・マクラーレンという稀代のレーサー兼エンジニアによって創設されたことをあまり気にしていない様子。と思ったのかどうか、2021年にマクラーレンは限定149台のエルヴァを発売。これは、1960年代にブルースが設計した伝説のオープンレーシングカー「マクラーレン・エルヴァM1A」をモチーフとした痛快なモデル。徹底的なまでにオープンエアと軽量化にこだわったマクラーレンの決定版と呼んでも差し支えないでしょう。

画像: 2021年に発表と同時に限定149台が即座に完売したマクラーレン・エルヴァ。創設者の記念すべきマシンにちなんだ命名です。

2021年に発表と同時に限定149台が即座に完売したマクラーレン・エルヴァ。創設者の記念すべきマシンにちなんだ命名です。

エルヴァというその名に反応するのは、やはり1960年代のモータースポーツが好きなベテランファンかと。今を遡ること60年以上前、1960年代にブルース・マクラーレン自らが設計し、当時のCan-Am(カンナム)レースなどで大暴れした伝説のオープンレーシングカーマクラーレン・エルヴァ M1Aこそが、本作のモチーフであり、スピリットの源流に違いありません。

当時は現代のような高度なシミュレーターなどなく、ドライバーは文字通りむき出しのコクピットに身を置き、吹き付ける猛烈な風と路面からのダイレクトなフィードバックに背骨をふるわせながらマシンをねじ伏せていました。それを現代の最高峰テクノロジーをもって再現したらどうなるか? という、いささかロマンチックな挑戦からこのプロジェクトはスタートしたとされています。

見えないフロントガラスが機能する

とはいえ、現代のハイパーカーが発揮するスピードは1960年代のそれとは次元が違います。最高出力815馬力を誇る4.0リッターV8ツインターボを搭載し、0-100km/h加速はわずか2.8秒。フロントガラスがない状態でこの領域に達すれば、ドライバーは風圧で息をすることすら困難。通常なら「ヘルメットの着用」を義務付けることで解決しそうなものですが、マクラーレンのエンジニアはそこで妥協しませんでした。

画像: フロントスクリーンはきれいさっぱり省かれたものの、ヘルメットを着用せずとも高速クルージングが可能という空力性能。

フロントスクリーンはきれいさっぱり省かれたものの、ヘルメットを着用せずとも高速クルージングが可能という空力性能。

彼らが開発したのが、世界初となる「AAMS(アクティブ・エア・マネジメント・システム)」というF1由来の空力技術。これは、走行中にフロントインテークから吸い込んだ空気が、ボンネット上のダクトへ導かれ、乗員の頭上を飛び越えるようにして吐き出されるという仕組み。超高速の気流が文字通り「空気の壁(あるいは見えないフロントガラス)」となり、コクピット内は風の巻き込みが極めて少ない空間が作り出されるとのこと。ヘルメットを被らずともブルースが見た世界を体感できるという、執念じみた技術開発こそ、彼らがブルースへ抱くマッドリスペクトの賜物といえるでしょう。

画像: フロントフード上のダクトがあたかもエアカーテンのように機能して、乗員への風当たりをコントロールする仕組み。

フロントフード上のダクトがあたかもエアカーテンのように機能して、乗員への風当たりをコントロールする仕組み。

さらに、ブルース・マクラーレンが何よりも重んじた哲学が「軽量化」でした。どんなに大パワーのエンジンを積んでも、車体が重ければクルマの動きは鈍くなる。このレーシングカーの鉄則を、エルヴァは公道仕様車としてこれ以上ない形で体現しています。シャシーや外板パーツはもちろん、ダッシュボードやシートの骨格に至るまで、徹底的にカーボンファイバーを採用。その結果、乾燥重量はわずか1148kgに抑えられました。

画像: コンストラクションは徹底的な軽量化を目指してほとんどカーボンとなり、その結果1148kgという軽自動車並みの車重を実現。

コンストラクションは徹底的な軽量化を目指してほとんどカーボンとなり、その結果1148kgという軽自動車並みの車重を実現。

これは、あの伝説のライトウェイト・ハイパーカー「マクラーレン・セナ」よりもさらに軽く、マクラーレンのロードカー史上最軽量の数値を誇ります。驚異的な軽さと、815馬力の強心臓。これがもたらす走りが、並大抵のレベルに収まるはずがありません。カタログ値では0-100km/h:3秒未満とされ、メディアによる実測値は2.8秒の俊足を見せました。また、オープンボディでは不利とされる最高速も326km/hと、815馬力をしっかり活かしたスピードを記録。軽くてハイパワーという素性を存分に発揮したと言えるでしょう。

画像: ダッシュボードも解放感にあふれたものながら、タッチパネルモニターなど現代のハイパーカーらしさ満点。

ダッシュボードも解放感にあふれたものながら、タッチパネルモニターなど現代のハイパーカーらしさ満点。

新車超えの価格もやむなし?

ともかく、マクラーレン・エルヴァは、ただの超高級な限定コレクターズアイテムではありません。最先端のハイテクをまといながらも、そのコアにあるのは、60年前にブルース・マクラーレンが、ただひたすらに速さを追い求めたあの時代の「荒々しくも純粋な情熱」そのもの。それだけに、中古車は滅多に出回らないのですが、レッドに伝統的なセンターフラッシュが入ったこちらのサンプルは120万~150万ドル(約1億9000万~2億4000万円)と新車価格1億8000万円(北米の価格)を上回ることが予想されています。

画像: シート後方のバルジがロールケージの役目を担う強度がもたらされています。なお、ソフトトップの類いは潔く省かれています。

シート後方のバルジがロールケージの役目を担う強度がもたらされています。なお、ソフトトップの類いは潔く省かれています。

ステアリングを握る幸福なオーナーは、風の壁の向こう側に、今も微笑むブルースの魂を感じられるに違いありません。

画像: レトロな書体によるロゴは1960年代のマクラーレンをリスペクトしたもの。

レトロな書体によるロゴは1960年代のマクラーレンをリスペクトしたもの。

画像: F: 245/35 ZR19 R: 305/30 ZR20のタイヤはピレリP-ZERO。ホイールはマクラーレン自社製の鍛造ワンピースを装着。

F: 245/35 ZR19 R: 305/30 ZR20のタイヤはピレリP-ZERO。ホイールはマクラーレン自社製の鍛造ワンピースを装着。

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