文: 石川順一
▶▶▶写真はこちら|細長っ! 西川精機製作所「Blue Jay」(画像4枚)
雨の日だけ、外との隔たりを感じる
免許を返したあとも、晴れた日ならさほど困らない。近所のスーパーくらいは歩けるし、天気がよければ少し遠回りしたっていい。
問題は雨の日だ。たとえば片道1.5km。晴れていれば20分ほどの道のりが、傘と荷物を抱えた途端にまったく別の距離になる。帰りは袋が重く、片手はふさがったまま。路面は滑る。そういう日は、出かけるのをやめる。
代わりの足がないわけではない。ただ、どれも雨には弱い。シニアカーは道路交通法上は歩行者として扱われるため、おおむね6km/hを超える速度を出せない。屋根もない。電動キックボードは路面の突き上げがきついし、転倒も怖い。屋根があって、免許が要らなくて、歩くよりは速い。そんな乗り物があればいいのに。
屋根とドアを持つ、免許の要らない四輪
そんな悩みに答えを出そうとしている一台が、東京都江戸川区の西川精機製作所が開発する「Blue Jay(ブルージェー)」だ。

雨の日でも濡れずに移動できる外装ボディと、4輪構造を備えた全天候型モビリティ「Blue Jay」
区分は特定小型原動機付自転車。16歳以上であれば運転免許は要らない。四輪なので、止まっていても車体は自立する。操作系はバーハンドルではなく、自動車と同じ丸ハンドルとアクセル・ブレーキ。長く車を運転してきた人ほど、手が覚えている操作で動かせる。
いちばんの特徴は、車体を覆うキャビンだ。外装ボディを標準装備し、乗降用のドアは左側に1枚。後方へスライドして開く。雨も風も、車体の外で止まる。
大きさは全長1,900×全幅600×全高1,500mm。この全長と全幅は、駐輪場の設計で普通自転車1台分として使われる幅600mm×長さ1,900mmという寸法とちょうど重なる。自転車1台分の駐輪スペースが確保できるなら、置き場所はほぼ十分ということだ。乗車定員は1名。最高速度は20km/h程度としている。
真横から強風を当てても、タイヤは浮かない
屋根付きの小さな乗り物と聞いて、まず心配になるのは横風だろう。加えて居住性を確保するためか、Bluejayはかなり縦長のボディだ。壁のように風を受ける面積がある上に、車体は軽い。座って乗れるのに転倒したらそれこそ本末転倒だろう。
この点について、メーカーは日本大学理工学部航空宇宙工学科の菊池准教授の協力を得て、風洞実験で確かめている。さまざまな角度から風を当て、最終的に真横から当てる手順で実施。結果はどの角度でも、風速15.1m/sでタイヤが浮き上がることはなかったという。15.1m/sは、人がまっすぐ歩くのが困難になるほどの強風にあたる。
そもそも幅600mmという細さの中に丸ハンドルの操舵機構を収めること自体も、簡単な話ではない。それについても同学部の入江研究室の支援を受けて考案し、コア技術については特許1件を取得。さらに現在4件を出願中だという。
【画像キャプション案 3】風洞実験の様子。横からの強風に対しても優れた安定性を見せる技術検証。
アーチェリーの弓を削る手が、四輪をつくる
西川精機製作所は東京都江戸川区で、金属や樹脂の切削・板金・溶接・組立を一貫して手がけてきた、60余年続く町工場だ。スーパーコンピュータ関連の治具、メッキ用や検査用の治具、医科・理科学機器。精度を求められる仕事が本業で、それに加えてアーチェリー弓具では国内唯一の開発製造企業でもある。カヌースラローム用具も手がける。
そんな町工場が新しい乗り物を量産するには壁がある。工場を建てる資金と、全国へ運ぶ輸送費だ。自動車メーカーのような資金力があるわけではない、同社単独での捻出は難しい。
そこで代わりに選んだのが、車体を特別な設備なしで組めるモジュール設計にしたうえで、全国の自動車整備工場や町工場をフランチャイズ加盟店として組織化するという道だ。本社が担うのは設計・開発と部品供給、そしてクラウドでの一元管理。組み立ても、納車も、点検も、修理も、地元の加盟工場が完結させる。同社はこれを「モノ・コト地産地消型」と呼んでいる。
新しい乗り物を手に入れるとき、壊れたらどこへ持っていけばいいのかは、値段と同じくらい気になる部分だ。この仕組みがうまく回れば、その答えは「いつもの整備工場」になり、全国どこでも安心したサポートが受けられるようになる。

免許もガソリン代もいらない。量産化の先にある、あきらめない日常
そんなBluejayだが、現在は実証実験の段階にある。開発は日本大学理工学部や東京都産業技術研究センターなどを含む産学官の連携体制で進められており、モーターやタイヤ、駆動機構、軽量化といった解決すべき課題が残されている。
現状検討されているパワートレインは、モーターとリチウムイオンバッテリーに加えて、充填圧1メガパスカルという低圧のカートリッジ式水素タンクを組み合わせる構成だ。バッテリーで走るBEVと、燃料電池のFCVの2タイプが開発されている。FCVは水素タンク1本あたり約20kmを走るとしており、カセットガスのような感覚で交換する構想だという。BEVの航続距離はまだ明かされていない。
価格は、2026年2月の時点で50万円前後を想定、オプションを装着して100万円という数字が示されているが、確定した金額ではない。販売開始もBEVが2026年秋頃、FCVはその2年後を目指す、という目標の段階となっている。
2026/09/25(金) 18:00までは株式投資という形でのクラウドファンディングも実施中だ。移動を理由に自宅に閉じこもる必要のない日常が、職人技と新たなネットワークの手でまもなく形になろうとしている。

株式会社西川精機製作所 Blue Jay 主要諸元
・区分免許: 特定小型原動機付自転車(16歳以上免許不要)
・寸法・重量: 全幅0.6m(600mm)制限準拠(4輪構造、外装ボディ標準装備)
・走行性能: 横風耐性 風速15.1m/s(日本大学理工学部協力の風洞実験による測定値)
・バッテリー・充電: 家庭用コンセント(100V)充電対応(将来的に低圧水素キャニスター方式FCVモデルも構想中)
・装備: 外装ボディ(キャビン)、丸ハンドル
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