日本に最高峰サルーンを送り込んでいた名門は、いつしか中東の富豪に狙いを定めたコンプリートカーを制作するように。ロールス・ロイスの「レイス」をもとに作られた、世界で最も優雅なステーションワゴンがありました。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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至高の2ドアクーペをシューティングブレークに

日本中が空前の好景気に沸いた「バブル時代」を記憶しているクルマ好きなら、あるベルギーのコーチビルダーに特別な響きを覚えるはず。キャラット・デュシャトレ(Carat Duchatelet)は、メルセデス・ベンツの最高峰サルーンをベースに、贅の限りを尽くした内装と圧倒的な存在感を放つコンプリートカー(1000SELなど)を日本市場へ送り込み、目の肥えた富裕層や最高級車マニアたちを瞠目させた伝説の名門です。

画像: 2015年に完成したとされるキャラットとニールス・デザインのコラボモデル「シルバースペクター・シューティングブレイク」

2015年に完成したとされるキャラットとニールス・デザインのコラボモデル「シルバースペクター・シューティングブレイク」

時代の移り変わりとともに私たちの前に姿を現す機会は減りましたが、彼らの「超一級品の技」が途絶えたわけではありませんでした。中東をはじめとする世界のメガリッチ層へとターゲットを変え、オランダのデザインスタジオ「ニールス・ファン・ロイ・デザイン」と強力なタッグを結成。そうして生み出されたのが、世界に1台しか存在しない「シルバー スペクター シューティングブレーク」です。

画像: ロールスの2ドアクーペ「レイス」をベースにルーフとリヤコンパートメントを拡張。これ以上ないというくらい贅の極みを感じさせます。

ロールスの2ドアクーペ「レイス」をベースにルーフとリヤコンパートメントを拡張。これ以上ないというくらい贅の極みを感じさせます。

ベースに選ばれたのは、ロールス・ロイスが誇る至高の2ドアクーペ「レイス」。この気品あふれるクーペを、世界で最も優雅なステーションワゴン、すなわちシューティングブレークへと生まれ変わらせるという贅沢なプロジェクトは、まさにキャラットらしさ全開です。

Aピラーから後ろのボディは完全に再設計され、延長されたルーフには1枚物の大型カーボンファイバーパネルが奢られました。フロントから滑らかに下降するルーフラインは、ロールス・ロイスの佇まいを損なうことなく、見事なハッチバックのリアエンドへと着地。これほど大胆なモディファイを施しながらも、レイスの象徴である「コーチドア(後ろ開きのスーサイドドア)」をあえて残している点に、かつて数々の高級リムジンを手掛けてきたキャラットならではの美学を感じずにはいられません。

画像: インテリアのリッチな仕上げに関してキャラットは横綱クラス。主な顧客は世界の王族や超VIP達で、防弾仕様車も得意としています。

インテリアのリッチな仕上げに関してキャラットは横綱クラス。主な顧客は世界の王族や超VIP達で、防弾仕様車も得意としています。

そんな所まで星空仕様に……

もちろん、ドアを開けた先に広がる世界こそ、キャラットの本領発揮エリア。今やロールス・ロイスの代名詞ともいえる、天井に無数のLEDを散りばめた「スターライト・ヘッドライナー」ですが、通常のモデルであれば後席の頭上で終わる満天の星空が、このシルバー スペクターでは、新設された荷室の奥深くまで途切れることなく連続しているのです。そして、ラゲッジスペースに最高級のレザーとウッドが惜しみなく敷き詰められているのは言うまでもありませんが、その上空にまで広がる幻想的な光景は、まさにプライベートジェットそのもの。

画像: コンパートメントもこのとおりゴージャスな仕上がりで、メガリッチな顧客も満足すること請け合いです。

コンパートメントもこのとおりゴージャスな仕上がりで、メガリッチな顧客も満足すること請け合いです。

さらに、顧客のオーダーに応えたのか、6.6リッターのV型12気筒ツインターボエンジンにも手が加えられています。ベースのレイスでも十二分にパワフルですが、このワンオフモデルはさらにチューニングを受け、最高出力は実に690馬力にまで高められたといいます。

画像: ロールス・ロイスらしさあふれるスターライト・ヘッドライナーは、延長されたルーフに合わせてリアエンドまでキラキラしているのだとか。

ロールス・ロイスらしさあふれるスターライト・ヘッドライナーは、延長されたルーフに合わせてリアエンドまでキラキラしているのだとか。

4000万円はお手頃価格

ところで、「シルバースペクター」というそれらしいネーミングは、ロールス・ロイスの公式な市販モデルにはありませんでした。伝統的な命名規則(シルバーシャドウ等)へのオマージュとして、デザイナーがこのワンオフのために考案した独自の名称とのこと。もっとも、歴史を紐解けば、1910年の試作車に「シルバースペクター」の名が一度だけ使われた記録があります。が、厳格なロールスファンにとってはいささかやりすぎかもしれませんね。

また、現代には初の量産EVとして『スペクター(Spectre)』という最新モデルも存在しますが、今回のシューティングブレークは、それらとは異なる「現代のキャラットが中東の顧客のために仕立てた幻のスペクター」ということになるのかと。

画像: キャラットはリッチ&ゴージャスなカスタムで有名ですが、エンブレムはこのとおり控えめ。バブル期に目にしたことがある方も少なくないでしょう。

キャラットはリッチ&ゴージャスなカスタムで有名ですが、エンブレムはこのとおり控えめ。バブル期に目にしたことがある方も少なくないでしょう。

この唯一無二のモデルは、2024年にドバイで開催されたRMサザビーズのオークションに出品されると、約4000万円で落札され、世界中のコレクターの間で大きな話題となりました。ベース車両の価格はもちろん、2500時間以上という膨大なハンドメイドの製作期間を考えれば、なかなかお手頃なプライスだったといえるでしょう。

かつて日本のバブルを彩った伝説のコーチビルダーが、現代の最高峰ロールス・ロイスを素材とした、文字通り「幻の1台」。これは、失われつつある「究極の贅沢」の記憶を、未来へと語り継ぐための壮大なモニュメントかもしれません。

画像: リヤシートも前席と同じく3色のレザーが使われ、クーペとは思えないほど快適そう。

リヤシートも前席と同じく3色のレザーが使われ、クーペとは思えないほど快適そう。

画像: フェンダーにはニールスのエンブレム。オランダ発祥の新興コーチビルダーで、このモデルで一気に知名度が上がったのだとか。

フェンダーにはニールスのエンブレム。オランダ発祥の新興コーチビルダーで、このモデルで一気に知名度が上がったのだとか。

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