文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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縦置きエンジンに横置きミッションとは……
滅多なことは言えませんが、ポルシェが2004年に鳴り物入りでリリースしたカレラGT、これを手放しで褒め称える風潮には違和感しかありません。なぜなら、誕生の背景を工学的に、そして歴史的に紐解いていけば、そこに「純粋なポルシェスピリット」など微塵もなく、当時の経営陣が犯した自動車史上で「最も醜い失敗と帳尻合わせのドラマ」が見えてくるからです。

2005年モデルのカレラGTは希少性が手伝ってオークションでは5億円程度が相場。新車価格は5000万円程度なので、暴騰気味ではあります。
そもそも、カレラGTに搭載された5.5リッターV10エンジンからして、ボツになったプロジェクトから流用された代物。名エンジニアだったハンス・メッツガー設計によるF1用V12を祖先とする、といった表記もあるものの、あれはご承知の通り大きく、重たい失敗作。当のメッツガーもそれを認め、ル・マンのプロトタイプレース用にV10を作り直したほどのもの。ただし、このレースも後述する当時の社長、ヴェンデリン・ヴィーデキングによって突然キャンセルされており、本番での活躍はさせてもらえなかったのです。
無論、カレラGTに搭載するにあたって、後継エンジニアが5.5リッターにスープアップしたり、セラミッククラッチ(乾式)と組み合わせたりするなど機軸を新たにしたものの、パッケージングはお世辞にもスポーツカーとは言い難い仕上がり。著名な自動車評論家が指摘した通り、全長とホイールベースの帳尻を合わせるために、縦置きエンジン+横置きミッションという配置を取らざるを得なかったのです。

理想的ホイールベース比率が53〜55%とされるのに対し、カレラGTは無理をしたわりに59.1%と決して褒められるものではありません。
無理やりな配置によって重心高は上がり、またリヤからの衝突ではミッションケースがエンジンをキャビン側に押し出す危険性まではらむわけで、ポルシェのミッドシップスポーツカーとしては完成度があまりに低い。ちなみに、クラッチを小径化できるセラミッククラッチもこの配置のために無理やり採用したわけで、半クラが使えないシビアな操作性をカバーするためにギヤを重くしたり、電子制御ローンチシステムを載せたりしたのは「泥縄」と思われても仕方ありません。

980/01エンジンは612ps/590Nmを発揮しつつ、単体重量214kgとかなりの軽量。インテークやギアボックスなどはさすがにマグネシウムを多用しています。
カイエンにリソースを集中しつつ、お蔵入りエンジンも捨て置けなかった
あくまで推察に過ぎませんが、2013年に映画「ワイルドスピード」の人気俳優、ポール・ウォーカー氏がカレラGTの助手席で事故死した悲劇も、このクルマの物理限界特性や、ロードカーとしての安全マージンの低さと無関係とは思えません。
この破綻ともいえるパッケージングの全責任は、ずばり当時の最高経営責任者(CEO)、ヴェンデリン・ヴィーデキング氏にあるといっても過言ではないでしょう。
彼は1990年代にポルシェを救った優秀な経営者でしたが、その本質は冷徹なコストカッター。ル・マン参戦を直前で白紙撤回し、全リソースを大衆受けするSUV「カイエン」へ集中させたのは彼にほかなりません。しかし同時に、お蔵入りしたV10エンジンの開発費をドブに捨てることも許さなかったのです。

当初1500台の予定が1270台に終わったのは北米のエアバッグ規制に対応するコストを惜しんだからとまことしやかに語られています。
もしポルシェが金儲けの帳尻合わせに走らず、スポーツカーメーカーとしての正攻法を貫いていたなら、もっと正しい選択肢があったはず。たとえば、カイエンに搭載した挟角V6をベースに、ツインターボ化(ようやく2代目で実現)。これなら、カレラGTのディメンションを崩すことなくハイパーカーと呼ぶにふさわしいモデルとなったはず。

最高速:330km/h、0-100km/h:3.9秒が公称データ。純粋なMTだけに、加速データはセミオートマにわずかに遅れを取るようです。
ポルシェ・ショック! だがカーボンモノコック生産技術は残った
とはいえ、ヴィーデキングは最後には手痛いしっぺ返しをくらい、ポルシェをクビになっています。彼はカレラGTで求めた「開発費の帳尻合わせ」だけでなく、カイエンがもたらした莫大なキャッシュを原資に、自社の数十倍の規模を持つフォルクスワーゲンの買収を画策しました。法の抜け穴をついたデリバティブ取引で秘密裏に株を買い占め、市場を大混乱に陥れた、自動車史上最も醜い乗っ取り劇でした。一時はVW株を暴騰させ「ポルシェ・ショック」を引き起こしたヴィーデキングでしたが、無理な巨額の借金を重ねた挙句、リーマン・ショックの直撃で資金ショートに陥ったのです。
さらに、この暴挙は「自動車界のドン」でありポルシェ一族の最高権力者、フェルディナンド・ピエヒ会長の逆鱗に触れてしまいました。ピエヒは金融、および政界への圧力でポルシェへの融資を完全にストップさせ、ヴィーデキングは八方ふさがりとなり、ついには即時解雇。ポルシェは逆にVWグループに丸ごと呑み込まれる(逆買収)という、歴史的な大失敗をしでかしてしまったのです。
それでも、虎は死んで皮を残すの例え通り、出来はどうあれV10ミッドシップのハイパーカーとして生まれたカレラGTは、ポルシェの社内にカーボンモノコック生産施設という財産を残しています。当時のライバルだったマクラーレンSLRやフェラーリF50がカーボンシャシーを外部の専門業者に委託していたのに対し、技術的アドバンテージを生み出していたのです。のちに、918スパイダーや919ハイブリッド、あるいは911GT3 Rのカーボン骨格はすべてカレラGTの忘れ形見抜きには完成しなかったはず。
全世界1270人いるはずのカレラGTのオーナーは、多少リスクはあるもののアナログなドライバビリティに加え、そうした貢献を心の支えにしているのかもしれません。

380mm径カーボンセラミックローター+6ピストンキャリパー、F: 265/35 ZR 19、R: 335/30 ZR 20の異径サイズがチョイスされています。

ミッドシップゆえにカーゴスペースはフロントフード下に用意。カーペットをめくるとカーボンの骨格が見えてくるはず。

ディテールを見れば、ダブルバブルのフェアリングや可動式リヤウィングなど、ポルシェのアイコンはそこかしこに散見できます。




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