文:Webモーターマガジン
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コンパクトで凛とした佇まいと極上の味わいの足まわり
マクラーレン MP4-12Cが発表され、最初の販売代理店が開設されたのは昨年2011年の6月。それからわずか1年で、世界22カ国38店舗におよぶ正規販売代理店ネットワークを確立し、販売台数はすでに1000台を超え、まずは順調な滑り出しを見せた。日本においては今年2012年3月に大阪ショールーム、そして6月に東京ショールームが開設されている。
超高性能スポーツというカテゴリーへの挑戦。マクラーレンとしては1969年の「M6 GT」や1990年代の「マクラーレンF1」など、GTカテゴリーレースでの使用を前提とした公道走行可能な市販車や、メルセデスブランドの「SLRマクラーレン」といった歴史もあるが、自社ブランドでの量産ロードスポーツモデルは初めて。MP4-12Cはエンジンからシャシまで、すべて専用設計、専用開発されたものとなっている。日本でもこの7月からデリバリーが開始されたのを機に、日本のメディア向けの試乗会が英国で開催された。ちなみに今回はプロトタイプではなく、プロダクトモデルの試乗となる。
イギリス・ヒースロー国際空港から南に約50kmの場所にダンスフォール飛行場がある。その滑走路を利用したテストトラックがあり、ここがMP4-12Cが開発された場所となる。英BBCの人気自動車番組『トップ・ギア』が使用していることでも知られ、元々ロータスなども車両テストに使用していたという。
そのダンスフォールテストトラックで我々を待っていたのはメタリックオレンジ、レッド、イエローに彩られた3台のMP4-12C。うち1台は右ハンドル仕様だ。
試乗したのはイギリス・サリー州にあるダンスフォールテストトラック。BBCの自動車番組『トップ・ギア』が使っているサーキットで、MP4-12Cもここで開発された。試乗当日は雨。7月なのに肌寒かった。
ディへドラルドアが閉められた状態でのエクステリアは、ことさらに高性能を主張することはなく、むしろ凛としたシンプルな佇まいを見せる。価格的にも性能的にもライバルとなるフェラーリ458イタリアの、外に発散させるようなデザインに対し、内に凝縮させるようなイメージだ。過剰な演出感がないからだろうか、458イタリアよりもコンパクトに感じる。
ドアを開けるのには儀式がいる。ドアパネルのエッジ下部を撫でるようにするとタッチセンサーが反応し、ドアが数cmポップアップ。そのまま上方に持ち上げる。それほど力は必要ないが、センサーを反応させるのにコツは必要だ。
幅広のサイドシルをまたぐようにしてシートに腰を落ち着かせる。全幅が1909mmもあるのにセンターコンソールは細く、助手席との距離は非常に近い。中央寄りに座らせるのはもちろんパフォーマンスのためだが、かといって室内にスパルタンな印象は皆無だ。シートやダッシュボードなどにも質感の高い本革をふんだんに使っている。ボルボのようなフローティングセンターパネルを採用し、そのパネルの奥にはドリンクのスペースまで用意している。

右ハンドル仕様のインパネ。世界的に見ると9:1で左ハンドルモデルの方が多いという。
トランスミッションはSSGと呼ばれる7速デュアルクラッチ式。ブレーキを踏みインパネ中央にあるスタートボタンを押すとエンジンが始動。Dボタンを押し、軽くアクセルペダルを踏むと、パーキングブレーキが自動解除され、スルスルとクルマを前へ進める。難しいことは何もない。
まずはテストコースを出て一般道を走る。郊外の道は日本よりも路面が荒れているのだが、非常に乗り心地が良い。重厚でしっとりと、そしてしなやかに路面を捉え、いやな振動を室内に届かせない。お世辞的表現ではなく、日常使いも難なくこなすスーパースポーツだ。この手のモデルにしてはボディの見切りが良く死角も少ないので、その意味での不安もない。こういうシーンでは、オートマチックモードで「流す」のも楽しい。
軽快で扱いやすく、底知れぬ性能を見せる
MP4-12Cの意外なコンフォート性能の高さに感心しつつ、次はテストコースに戻り、存分にその性能を味わってみる。アクセルペダルを踏む右足に力を入れると、野太いサウンドとともにリニアに加速していく。F1マシンと同様、シーソータイプのパドルシフトを使い8500rpmのレブリミット直前まで引っ張ると、頭がヘッドレストに押し付けられるほどの加速感。あっという間に速度計は200km/hを指した。
そこからハードブレーキング、そしてターンイン。バックミラーを見るとリアウイングがせり出したのがわかる。これがマクラーレン・エアブレーキで、ダウンフォースを生み出すことで四輪の接地が高められ、フロントダイブすることなく自然な姿勢で制動するのだという。身のこなしはしなやかで、そして軽やか。コーナリング時も軽いロール感のまま、ドライバーを中心にしてクルリと車体をインに向けていく。この感覚、なぜかマクラーレンとホンダがF1で蜜月関係にあった当時に発売された軽オープン「ホンダ ビート」を思い出す。軽快でとにかく扱いやすい。
カーボンモノセルと呼ばれるカーボン製のモノコックが採用されるため、ボディは他に味わったことのない剛性感。DIN規定で1434kgという軽量なボディに、600ps/600Nmを発生する3.8L V8ツインターボを搭載、パワーウエイトレシオは2.3kg/psと聞くと、誰しも「腕がないと操れないじゃじゃ馬」の印象を持つかもしれないが、違う。ドライバーのスキルに応じて底知れぬパフォーマンスを見せてくれるマシン、それがMP4-12Cだ。

エンジンは600ps/600Nmを発生する3.8L V8ターボをミッドシップに搭載。開発はマクラーレンが行い、生産はイギリスのエンジンメーカー、リカルド社が行っている。
今回、助手席に乗りドライビングアドバイスをしてくれたのは、28歳の若きレーシングドライバー、フィル・クワイフ氏。開発も担当した英国人だが、曰く「運転する人の気分に合わせてくれる感じでしょう。技術は緻密ですが、人のパッションを忠実に受け止めるようなマシンです」。逆に、彼に印象を尋ねられた。「奥ゆかしい」という日本語が浮かんだが、それを上手く伝えることはできなかった。
スーパースポーツ市販車カテゴリーへの新たなる挑戦に向けて、圧倒的なパフォーマンスを誇ることは必要条件だが、顧客を満足させるには、目の前の商品性だけでなく「歴史」であり「物語」であり「ブランド」が必要になる。ライバルであるフェラーリやポルシェはモータースポーツとの関わりの中で、市販車の各モデルに常にストーリー性を加えている。
では、新規参入のMP4-12Cはどうか。マクラーレンの栄光の歴史とも言えるF1参戦の道程。その長い過程で培った技術、それはカーボンモノセルであり、アクティブサスペンションの「プロアクティブシャシコントロール」であり、トルクベクタリングデフと同様の働きをする「ブレーキステア」であるのだが、それらF1のDNAをMP4-12Cに惜しみなく投入することで、新モデルながら物語を背負うことに成功した。最新技術の搭載と、イージードライブにも繋がる新しいスポーツ感覚。それらが世界で認められたからこそ、この1年、幸先のよいスタートを切ったと言える。
今後はオープンのスパイダー、そしてハイパワー版とバリエーションも増やす予定。マクラーレンのこれからの展開にも注目したい。(文:Motor Magazine編集部)
マクラーレン MP4-12C 主要諸元
●全長×全幅×全高:4507×1909×1199mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1434kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:3799cc
●最高出力:441kW(600ps)/7000rpm
●最大トルク:600Nm(61.2kgm)/3000-7000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●車両価格:2790万円(2012年当時)
※EU準拠
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