文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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“44.3インチ”でも美しく

2004~2006年の生産台数は当初4500台が予定されたものの、結局は4038台と未達に終わっています。
2006年型フォードGTのスタイリングを一目見れば、誰もが息を呑むはず。それは単なるレトロモダンではなく、ル・マンを4連覇したGT40のシルエットを見事なまでに現代へとアップデートしているから。オリジナルモデルの車高が「40インチ(約1016mm)」であったのに対し、現代の安全基準や居住性を考慮した2006年型は、ひと回り大きい「44.3インチ」へと拡大されています。が、そのプロポーションの美しさは微塵も損なわれていないといっていいでしょう。
ルーフまで回り込んだ象徴的なドアカット、フロントフードのエアアウトレット、そして地を這うようなミッドシップの佇まい。キャロル・シェルビーをはじめとする先人たちの情熱と、フェラーリへの執念が、40年の時を経て最新のデザインテクノロジーによって見事に蘇ったのです。
デトロイトの巨人よ、ふたたび
このクルマが誕生した2000年代初頭、フォードを取り巻く環境は決して平坦ではありませんでした。日本の低燃費車による猛追や、迫りくる環境規制。後にリーマンショックへと繋がる足音が、すでにデトロイトの未来を脅かしていたのです。その暗雲を切り裂くために打ち出されたのが、ブランドの原点を再定義する「リビング・レジェンド(生ける伝説)戦略」でした。
ご承知の通り、マスタングの原点回帰に続き、フォード創立100周年の記念碑として企画されたのが、このフォードGT。「デトロイトの巨人には、まだ世界を震撼させるエンジニアリングと、何よりも熱い情熱が残っている」と、世界に証明するために採算度外視で開発され、まさにフォードの「意地と底力」を打ち出したのでした。

5.4リッターのV8はモジュラープロジェクトから生まれた新設計エンジン。ここにリショルム式スーパーチャージャーを加えて550hp/6500rpm、678Nm/3750rpmを発揮。
その走りのメカニズムも、じつに硬派で魅力的。背後に横たわるのは、5.4リッターV8 DOHC「モジュラー・エンジン」にリショルム・スーパーチャージャーをコンバイン。550馬力という暴力的なパワーを受け止めるのは、当時最先端のFSW(摩擦攪拌接合:熱による歪みがほとんど出ず、非常に高い強度を保ったまま接合可能)などを駆使した、総アルミ製のスペースフレーム。捩じれ剛性値は27100 Nm/degにおよび、カーボンモノコックのポルシェ・カレラGT(26000 Nm/deg)さえ上回る強さを誇ります。また、極太のセンタートンネル内部には、17.5ガロン(約66リッター)の燃料タンクを内蔵し、車体バランスの最適化まで実現しています。
フォードがロマンを追求できた最後の1台になるか

コクピットのデザインやメーター類のレイアウトはGT40をオマージュしたもの。トグルスイッチの採用など、再現度は非常に高いもの。
コクピットに滑り込み、重厚なクラッチを踏み込んでリカルド製6速MTのギアを入れると、伝わってくるのは、現代の電子制御やパドルシフトに守られたスーパーカーとは全く異なる「人間と機械のリアルな対話」だと評されます。また、過激なスペックながら、不思議なほどしなやかに路面を捉える足回りには、本物のGT(グランツーリスモ)としての洗練も息づいているのだとか。

60年代にはなかった装備として、シャシー下面からリヤエンドに設けられたディフューザーがあり、330km/hの最高速にも貢献しているのかと。
2006年、フォードGTは惜しまれつつもその生産を終了しました。効率主義と電動化へのシフトが加速する現代から振り返ると、このクルマはまさに、フォードの「意地と黄金期の終焉」が生んだ奇跡であったと感じずにはいられません。

ドアやリヤの開き方はGT40をモチーフにしつつ、フロントには小さなトランクスペースが用意されています。
ガソリンの匂い、五感を刺激するメカニカルノイズ、そしてドライバーの腕を試すような潔いパッケージング。これほど濃密な「自動車のロマン」を凝縮したモデルは、もう二度とお目にはかかれないかと。無論、市場も先刻ご承知で、オークションでは70万~85万ドル(約1億1200万~1億3600万円)の予想落札価格が提示されています。効率という言葉とは無縁の場所で、デトロイトのプライドが作り上げた至高のマシンとしてはじつに真っ当なものでしょう。

マフラーの溶接痕を見れば、1台ずつ手作りされていることが読み取れます。なるほど、1億円オーバーも納得です。

タングステンと名付けられたカラーは2006年モデルのみの設定で、25台が作られました。ストライプを省いた仕様もオプションであり、人気が高かったとか。

66年当時、フェラーリのドライバーはどんな思いで追いかけたのか、そんなことを思い出させるオリジナル同様の丸いテールランプです。





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