大活躍したフェラーリ「550GTS」に刺激された富裕層がアルファロメオのワークスチューナーに制作させたのが「550GTC」でした。耐久レース向けのノウハウが不足していたことなどにより目立った成績は残していませんが、のちにGTレース不振が噓だったかのような活躍を見せることになりました。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
▶▶▶写真はこちら|フェラーリ「550GTC」(画像11枚)

せっかくV12フェラーリが復活したのだし……

1990年代にV12エンジンのFRフェラーリ復活となった550マラネロは、ティフォシならずとも記憶に残っているクルマ好きはたくさんいらっしゃるかと。また、イギリスの勝たせ屋、プロドライブが作ったGTレーサー「550GTS」の大活躍も実に印象的ではありました。が、当のマラネロが製作したマシン「550GTC」となると、印象どころかマニアすら知らないマシンかもしれません。

画像: 久々に復活したV12のFRフェラーリ、550をベースにしたGTレーサー「550GTC」は2台しか作られなかった幻のマシン。

久々に復活したV12のFRフェラーリ、550をベースにしたGTレーサー「550GTC」は2台しか作られなかった幻のマシン。

なにしろ、2台のみの試作に近いもので、GTレースではさしたる戦績も納めていないのです。が、その存在感やGT引退後の活躍となると話は別。ますます550が好きになること請け合いです。

1990年代のフェラーリといえば、スクーデリアがシューマッハを擁して破竹の勢いを誇っていたタイミング。すべてのリソースがF1に傾けられ、GTレースには目もくれない、あるいは「そんな暇ねーよ」状態だったのです。とはいえ、前述の通りV12のFRフェラーリが復活して、レース大好きなプライベーターが550をレースで走らせたくなるのは当然の流れ。

これをくみ取ったのがプロドライブで、2001年にFIA GT選手権に向けたマシン「550GTS」を製作。GT選手権を制したばかりか、2003年のル・マンではLM-GTSクラスで優勝するなど、素晴らしいリザルトを飾ったのはご存じのとおりです。

ポテンシャルはあったけれど

この活躍に刺激を受けたのが、マラネロと懇意にしている太客でした。フランスやイタリアの金満プライベーター達が「オレたちも550でレースやりたい!」ついては、ファクトリーで製作してほしいと猛烈なラブコールを投げかけたのです。これも立派なビジネスですから、フェラーリも重い腰をあげたものの、GTマシンをゼロから作り上げるにはリソースがまったく足りませんでした。そこで、白羽の矢を立てたのが、ツーリングカー選手権で実質的にアルファロメオのワークスチームとして活動していたNテクノロジー(当時はNORDAUTOと名乗っていました)でした。

画像: アルファロメオ156をETCCのチャンピオンに仕上げたNテクノロジーが、フェラーリから、ほぼ丸投げされて仕上げた1台。

アルファロメオ156をETCCのチャンピオンに仕上げたNテクノロジーが、フェラーリから、ほぼ丸投げされて仕上げた1台。

画像: FIA GTのレギュレーションに沿って作られているだけに、ロールケージやシーケンシャルミッションなど、どれをとっても本物のレーサー。

FIA GTのレギュレーションに沿って作られているだけに、ロールケージやシーケンシャルミッションなど、どれをとっても本物のレーサー。

同社はアルファロメオ156でヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETCC)のチャンピオンシップを総なめしたばかりか、世界選手権でもBMWを相手に熱いバトルを繰り広げるなど「ハコ車を作らせたら当代随一」と評価された腕っこきのファクトリー。どうやら、親会社のフィアットがフェラーリに紹介したらしく、マラネロも渡りに船とばかりにほぼ丸投げした模様。ですが、やっぱりハコのレースとGTは勝手が違ったらしく、プロドライブのようには勝てなかったのでした。

GTレースでの550GTCは、ほとんどがエンジントラブルでのリタイヤに終わっています。トップを走るポテンシャルはあったものの、Nテクノロジーがチューンしたエンジンはほぼノーマルで、ECUの調整、吸排気のリファイン程度だったとか。すると、高負荷&長時間のレースではどうしても限界があったのです。

画像: ほとんど見えませんが、5474ccの排気量はそのままに、ノーマルから約100馬力アップの580~600馬力までチューンされたV12エンジン。

ほとんど見えませんが、5474ccの排気量はそのままに、ノーマルから約100馬力アップの580~600馬力までチューンされたV12エンジン。

ちなみに、プロドライブはブロックやクランクシャフトをオリジナルに作り変える大改造。オイルと冷却経路を新造するなど、耐久レースに備えた作りとなっていたのです。また、プロドライブはタイヤへの負担を軽減するためにトレッドを広げたことも公表しています。直進安定性を高め、最高速域でのドライバビリティにフォーカスしており、これは後にフェラーリ本家が作った575GTCでも踏襲されたことで効果効能を示しているのかと。

画像: 2003年のFIA GT、スウェーデンのアンダーストルプレースウェイで、総合19位(クラス8位)をゲットしたレース。後ろはバイパーGTS。

2003年のFIA GT、スウェーデンのアンダーストルプレースウェイで、総合19位(クラス8位)をゲットしたレース。後ろはバイパーGTS。

ヒルクライムレースに参戦した結果

もっとも、Nテクノロジーをかばうとしたら、当時は予算も時間もカツカツ、さらにマラネロからの情報開示も最低限だったとする証言もあり、なかなか難しい状況だったといえるでしょう。そんな鳴かず飛ばずの550GTCでしたが、GTレース引退後に大きな転機が訪れました。しばらく、マラネロの倉庫で眠っていたマシンを、イタリアのレース好きプライベーターが買い取り、ヨーロッパではとても盛んなヒルクライムレースに参戦し始めたのでした。

すると、通算40回以上のクラス優勝を達成。さらに、最上位カテゴリーであるGTMクラスにおいて、2005年、2006年、そして2014年と、足かけ9年の間に3度もシリーズチャンピオンに輝くという無双ぶり。耐久レースでの不運が嘘のように、550 GTCはイタリアの山々で「最強の帝王」として君臨し続けたのです。ヒルクライムは、わずか数分間の間に、峠道のタイトなコーナーを圧倒的な瞬発力で駆け上がるスプリントの究極形。短時間であれば、Nテクノロジーのエンジンも真価を発揮でき、また拡げられなかったトレッドが逆にシャープなハンドリングを見せたのではないでしょうか。

画像: 同レースで後ろにプロドライブ製の550GTSを従える550GTC。悔しいことにプロドライブは2/3/4/5位に入賞しています。

同レースで後ろにプロドライブ製の550GTSを従える550GTC。悔しいことにプロドライブは2/3/4/5位に入賞しています。

画像: ほとんどノーマルのスタイルを維持している550GTC。リヤにそびえるGT仕様のウィングがレーシングカーを物語ります。

ほとんどノーマルのスタイルを維持している550GTC。リヤにそびえるGT仕様のウィングがレーシングカーを物語ります。

ともあれ、この世に2台しかない550GTCはさすがにマラネロが作らせただけあって、プロドライブにはないオーラをまとっているような気がしてなりません。オークションに出品されるや、およそ3億7000万円という落札価格となったのも大いに納得です。レースでのリザルトはともかく、フェラーリV12のFRレーサーは未来永劫、クルマ好きの憧れに違いありません。

画像: オークションで落札された際、マラネロからクラシケ認定書も付けられ、550GTCが真正フェラーリであることが証明されています。

オークションで落札された際、マラネロからクラシケ認定書も付けられ、550GTCが真正フェラーリであることが証明されています。

おすすめ関連記事

This article is a sponsored article by
''.