文: 中村圭吾/写真: 井上雅行
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商用車と乗用車、その境界を越える電動バン

試乗したのは最上級モデル「PV5 パッセンジャー プラス」。ボディカラーはオーロラブラックパール(メーカーオプション)で、前席パワーシートやベンチレーションなどが付いたコンフォートパッケージが装着されていた。
キアといえば、ヒョンデ・モーター・グループの一員であり、電動車の開発にも力を注いできたメーカーだ。その技術を、人や荷物を運ぶバンへと展開したのがPV5である。
日本市場ではまだ、軽商用BEVを除くと、電動バンの選択肢は限られている。乗用モデルとしてはフォルクスワーゲン ID. Buzzがまっさきに思い浮かぶが、PV5は乗用と商用の両方を用意し、幅広い用途に応えようとしている。
Kia PBVジャパンの代表取締役社長、田島靖也氏によれば、「商用なのに乗用並のクオリティであること、そして乗用なのに商用車並のフレキシビリティを持つこと」がPV5の強みだという。単にバンを電動化するだけでなく、仕事や日常、レジャーにどんな価値を提供できるのか。PV5の狙いは、そこにある。
大きなボディに、用途で選べるふたつのバッテリー

パッセンジャー、カーゴともにボディサイズは共通で全長4695✕全幅1895✕全高1925mmとなる。ホイールベースは2995mmで、タイヤサイズも全車215/65R16。
PV5は、専用BEVプラットフォーム「E-GMP.S」を採用したモデルだ。国内仕様のボディサイズは、全長4695×全幅1895×全高1925mm。ホイールベースは2995mmと長く、四隅にタイヤを配置したようなプロポーションが特長となる。
スタンダードとロングレンジの駆動用バッテリー容量は、それぞれ51.5kWhと71.2kWh。前輪をひとつのモーターで駆動し、最高出力はスタンダードが89kW、ロングレンジが120kW、最大トルクはいずれも250Nmだ。数値だけを見れば、やや控えめだが、こうしたクルマで大切なのは、毎日の移動や荷物を運ぶことで、そこでどれだけ扱いやすく走れるかだろう。
視界はトラックのよう。でも、走りは身構えなくていい

「PV5 パッセンジャー プラス」のインテリア。ディープネイビー✕テラコッタブラウンのカラーコーディネイトで上質感あふれる。12.9インチのセンターディスプレイに各機能を集約し、メーターディスプレイは7インチと小ぶりながら、視認性に優れる。前席の着座位置は高く、前方はもちろん左右の見晴らしも良く、視界も良好。
実車を前にすると、全幅1895mm、全高1925mmの体格にはなかなかの迫力がある。個性的な顔つきも含め、好みが分かれるところではあるだろう。
グリップをつかんで運転席に乗り込むと、カーゴとパッセンジャーに共通して印象に残るのは、厚みのあるシートと高めの着座位置だ。左右の縦長のサイドウインドウから見える景色は、トラックのようで、一般的な乗用車では味わえないものだ。
一方で、ハンドルの前後調整幅は大きく感じられ、運転姿勢は合わせやすい。見た目の大きさに身構えても、シートに収まれば落ち着いて運転できそうだ。
ハンドル右側のセレクターレバーでDレンジを選ぶと、静かに、滑らかに走り出す。モーターならではの反応の良さはあるが、いきなり背中を押されるような加速ではない。日常で扱いやすい感覚だ。
むしろ印象的だったのは、コーナーリング時の身のこなしである。床下にバッテリーを配置した低重心設計が効いているのだろう。背の高い箱型のクルマから想像する以上に、落ち着いて向きを変えていく。前輪駆動ながらハンドリングは自然で、アクセルペダルの操作による速度の調整もしやすい。思わず、走ること自体を楽しんでしまいそうになった。
カーゴとパッセンジャーで異なる乗り味

こちらは商用モデルの「PV5 カーゴ」。荷物を積むことに特化して、2名乗車と割り切り、前席と荷室には仕切りも用意される。バックドアはルノーカングーのような観音開きで、荷室フロアは低床仕様となる。
両車を乗り比べると、乗り味には用途の違いが表れていた。当然と言えば当然だが、カーゴの足まわりはやや硬めに感じられる。試乗車は荷室にウエイトを積んだ状態だったため、空荷での跳ね方や満載時の挙動までは判断できないが、乗用モデルとの違いは感じ取れた。
対するパッセンジャーは、乗り心地と走りの良さのバランスが取れている。路面からの入力の受け止め方にも快適さがあり、当然、人を乗せて移動するなら、こちらの仕立てがしっくりくる。
静粛性の高さは両車に共通する魅力だ。エンジンをはじめとする駆動系統の振動がなく、従来のガソリン車やディーゼル車のバンとは移動中の感覚が異なる。長時間の運転でも、疲労を抑える方向に働きそうだ。
ハンドリングの良さは嬉しい発見だったが、このパッケージを選ぶユーザーにとって、より大切なのは、ゆったりと快適に走れることだろう。PV5は、その期待にも応えてくれそうだった。
便利さを実感したのは、前車に合わせる回生ブレーキ

7インチのメーターディスプレイ。シンプルな表示だが、視認性に優れ、必要な情報はすぐに読み取れる。
運転支援装備も充実している。前方衝突防止アシスト、車線逸脱防止アシスト、車線中央走行補助に加え、ストップ&ゴー機能付きのスマートクルーズコントロールを装備。周囲を映すサラウンドビューモニターや、ウインカー操作時に側方の死角を映すブラインドスポットビューモニターも備える。
なお、後側方衝突防止アシストなど、一部の装備はモデルやオプションによって設定が異なる。
試乗中に使いやすさを感じたのが、回生ブレーキの自動調整だった。回生をオートに設定して走っていると、前車に近づいた際に減速が強まる。これは「スマート回生ブレーキシステム」によるものだという。流れに合わせて減速を補助してくれる感覚は極めて自然。こうした細かな配慮は、毎日ハンドルを握る人ほどありがたく感じるはずだ。
安心にかかわる情報も整理しておきたい。国内の一般保証は5年または10万km、高電圧バッテリーの保証は8年または16万kmとなる。また、2025年のユーロNCAPでは、カーゴが商用バンの安全評価で5つ星、パッセンジャーが乗用車の安全評価で4つ星を獲得している。
仕事だけではもったいない。キャンパーにも広がる可能性


上がカーゴで下がパッセンジャーの荷室。2名乗車と5名乗車という違いはあるものの、いずれも広大なスペースが広がる。荷室寸法は前者が荷室長2255✕荷室幅1450✕荷室高1520mm、後者は1311✕1524✕1193mmとなる。この空間を何に使うか、どう使うかで自ずと選択肢が変わってくるはずだ。
カーゴのビジネスユースはもちろんだが、個人的に可能性を感じたのはキャンパー仕様だった。当日も架装車が展示されていた。広い空間に寝床や収納を組み合わせればPV5の使い方は一気に広がる。静かな移動と、車内で過ごせるスペース。その組み合わせは、車中泊やアウトドアにもよく似合う。
さらに電化製品へ給電できるV2Lと、住宅への給電に使うV2Hも用意されている。利用には対応する機器や設備などが必要だが、移動先で電源として活用できることは、BEVならではの強みだ。
一方で、これだけ個性的なデザインなのだから、もう少し遊び心を前面に出した仕様があってもいいと思った。パッセンジャーにはソフトミントやフロストブルーなどのボディカラーも用意されるが、内外装を含めて、さらにポップな提案があれば楽しそうだ。
もちろん、オーナーが購入後に自分好みに仕立てる余地もある。仕事の道具として使うのか、家族との移動を楽しむのか。用途を考えるほど、この「箱」の魅力が見えてくる。仕事にも遊びにも使える電動バンとして、これからユーザーとともに、どんな姿へ育っていくのか。楽しみにしたい。
キア PV5 パッセンジャー プラス 主要諸元
●全長×全幅×全高:4695×1895×1925mm
●ホイールベース:2995mm
●車両重量:2140kg
●モーター種類:交流同期電動機
●最高出力:120kW/4600-9000rpm
●最大トルク:250Nm/4400rpm
●駆動用バッテリー容量:71.2kWh
●WLTCモード一充電走行距離:521km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:215/65R16
●車両価格:769万円





