世界の高級車を再定義
CT6という車名からCTSの派生モデルと勘違いしている人もいるかもしれないが、CT6は新世代キャデラックの先駆けというべき基幹モデル。今後、サルーンは「CT」と数字が組み合わさせれた名称となる。
メルセデスベンツSクラスやBMW7シリーズに相当するのがCT6で、EセグメントにカテゴライズされるCTSはCT5、DセグメントにあたるATSはCT4になる。
CT6は従来のXTSの後継という位置づけになるが、駆動方式はFFからエンジン縦置きのFRに一新され、日本仕様に設定された「CT6プラチナム」はFRをベースとした4WDとなる。ちなみに日本仕様に搭載されるエンジンは3.6L V6DOHC自然吸気で、8速ATと組み合わされている。
高級車ブランドとして華やかな歴史を持つキャデラックは、自国に巨大な市場があり、また似た嗜好を持つ中国市場で高い支持を得ていることから好調を堅持、このところグローバル化が進んでいるものの、自らを変えることにまだまだ本気でなかったように思われる。
キャデッラックがグローバル化に本気になったらどうなるのか。現在、高級車の世界的なスタンダードになっているジャーマンプレミアムを研究し、クルマ作りの本質が変わりつつある中で登場したCT6は、そういう意味でも大きな注目を集めることだろう。
その内容は、XTSと比べればまさにすべてが新しい。ATS、CTSの流れを汲む部分もあるが、やはりガラリと変わった感が強い。
ボディサイズは驚くほど大きいわけではないが、堂々たる迫力があり、乗り込む際にはちょっと緊張する。しかし、心配はいらない。ハンドルがよく切れて回頭性もよく、すぐに大きさを感じなくなる。
4WDでありながら回頭性がいいのにはちょっとした秘密がある。後輪を操舵する「アクティブ リアステア」を採用しているのだ。ボディの大きさを感じさせないマジックはここにあり、最小回転半径は実に5.3mと発表されている。
4WDシステムは「アクティブオンデマンドAWD」と呼ばれるもので、走行モードや状況に応じて前輪に適切にトルクを配分する。
3つの走行モードが設定される足まわりはソフトではないが硬すぎることもなく、しっかりと芯があって好感が持てる。路面の凹凸の吸収には磁性体を使った可変ダンピングシステム「マグネティックライド」の最新仕様がよく効いている。
つまり、4輪を巧みに操舵し、4輪に最適な駆動力を伝え、4輪のダンパーの硬さを瞬時にコントロールするというわけだ。
アルミと高張力鋼板を組み合わせたマルチマテリアルの新開発アーキテクチャーが、強靱性と静粛性を実現するとともに、車重を1920kgに抑えているのも注目点だろう。
3.6L V6自然吸気エンジンも絶妙なセッティング。ことさらに存在を主張するタイプではないが、スムーズで軽快な加速を見せ、アクセルペダルを踏み込めば心地よいサウンドとともに力強いトルクを生み出していく。この余裕もクルマの軽さを感じさせる要素となっている。
世界のプレステージサルーンのひとつの規範となってきたラグジュアリーなインテリアは文句なし。上質なレザーやウッド、マッサージプログラムやパナレイのハイエンドオーディオ、大型モニターに最先端のインフォテインメントシステムなど、至れリ尽くせりだ。広大なリアレッグスペースや巨大なセンターコンソールなど、いかにもアメリカ車らしい部分も散見される。
端的に言って、キャデラックらしい豪華さがあり、快適そのもので、ほかのどのクルマとも似ていない。ただ、その俊敏性や軽快感など、かつてのアメリカ車を好む人は疑問を感じるかもしれない。
アメリカ独自の価値観から世界的価値観に少し歩み寄ったとも言えるが、それをどう評価するかはむずかしいところ。ドイツ車的価値観を覆し、キャデックが新しい世界のベンチマークとなるのだろうか。(文:松本雅弘/写真:永元秀和)
●主要諸元〈CT6 プラチナム〉
全長×全幅×全高=5190×1885×1495mm
ホイールベース=3110mm
車両重量=1920kg
エンジン=V6DOHC 3649cc
最高出力=250kW(340ps)/6900rpm
最大トルク=386Nm(39.4kgm)/5300rpm
トランスミッション=8速AT
駆動方式=4WD
タイヤサイズ=245/40R20
車両価格=9,980,000円