急ぐのが無駄に思えるほど心地良い旅が楽しめた
「苦しいこ〜ともあるだろさ、悲しいこ〜ともあるだろさ、だけど僕らはくじけない〜、泣くのはいやだ、笑っちゃおっ、進め〜♪」
今回の取材は、東京から北海道までボルボV90クロスカントリーで約1000kmのドライブ。その行程は東北道で青森港を目指し、そこから函館まではフェリーで移動して一泊。翌日は夜の飛行機で新千歳から東京に戻るまで、道内を移動しながら試乗していくというものだった。
青森-函館間は3時間40分ほどフェリーに乗るとは言え、一日で移動する距離としてはかなり長い。クルマで移動する距離ではこれまでで最長になるかもしれない……。そう考えたら頭の中に冒頭のフレーズ(注:ひょっこりひょうたん島の歌詞)が流れてきたのだ(苦笑)。
だが、結果を先に言ってしまえば、青森港までの700kmあまりの道中があっという間だったものだから、ビックリだ。おかげで途中から、V90クロスカントリーとのドライブがどうしてこんなにも心地良いのかを探る旅となっていた。
心地良い移動空間の実現は安全運転にも繋がっている
ボルボV90クロスカントリーのカジュアルダウンぶりは絶妙だ。ベースとなるV90に対し地上高が55mm高く、デザインの美しさはそのままに、リアバンパーに刻まれた〝CROSS COUNTRY〞の文字も効果的な意匠変更がされている。おかげで自然や大地の匂いを連想させ、実際にそんな場所へ喜んで連れて行って欲しいとすら思えたほど。今回の北海道までのドライブにはピッタリのパートナーではないかと感じた。
さて、V90クロスカントリーの心地良さを探る旅は、大ぶりかつエルゴノミクスなシートからスタートしたい。フレキシブルな調整が利く8ウェイパワーシートは、あっという間に〝マイサイズ〞にフィッティングができる。さらに〝サマム〞グレードのフロントシートにはベンチレーション/ヒーターに加え、マッサージ機能も備わる。ただ気持ち良いだけでなく、背中や腰のコリをほぐせば血液の流れも改善されるだろう。
これはリフレッシュ効果はもちろん、眠気予防にもなり安全運転にも繋がるはずだ。私は〝いざ〞というときにこの機能を使うつもりだったが、その〝いざ〞というときは最後まで訪れなかった。青森までが近く感じた理由のひとつはこのシートにある。つまりボルボのシートがエルゴノミクス性能に優れていることが改めてわかる旅となった。
そんなシートに収まり移動する空間についても触れてみたい。様々なボルボのラインナップで味わえるスカンジナビアンデザイン。フラッグシップのV90シリーズでは質の高さも魅力だ。というのも、スイッチ類を極力減らされたクロスカントリーのフロントパネルのパネル面積の広さといい大ぶりのボリューム感といい、ボルボにとってはデザインを形状と素材感でもたっぷりと表現できるわけだ。高級な内装は世の中に様々あるが、このデザインには豊かさが感じられる。
またこのデザインを機能的に成立させているのが9インチのタッチスクリーンと二色のレザーが巻かれたステアリングホイール(なんてオシャレなのっ!)の中央にあるスイッチ、そして音声認識システムを使った“ボルボセンサス”。
車両、ナビ、エンターテインメントの基本的な設定や変更はここで行えるのだけど、ドライバーにとっては運転中頻繁に操作を行うのは安全ではない。センサスの操作はステアリングホイール上のスイッチでしたいことを選んだり、音声で具体的な指示を伝えたい。スムーズな手順を把握するには少々慣れが必要だけれど、わかり合えたらドライバーにとって頼もしい相棒になる。時間的に余裕のあるロングドライブならではの発見がここにもあった。
その点では、ドライブフィールにもクロスカントリーならではの魅力があった。T5に採用されるパワートレーンは245ps/350Nmを発生する2L直4エンジンに8速ATが組み合わされている。駆動方式はAWDである。
長い距離を走れば走るだけV90クロスカントリーの良さがわかる
クロスカントリーにはT6のラインナップもあるが、クロスカントリーの等身大のパフォーマンスはまずT5にあり、と思えるほど十分である。街中はもちろん高速走行時でも実用トルクの厚みもあり、レスポンスもいい。またそれを受け止めるシャシの絶妙なしなやかさが走りの質を上げている。この原稿を書いていたら、あ~、乗り味が蘇ってきた。
ボルボ90シリーズのラインナップのなかでクロスカントリーが一番優しい。V90はカッチリ&スッキリとした印象があり、XC90は思いのほか軽快であり、それを受け止めるボディやシャシには堅牢な頼もしさがある。クロスカントリーはそんな2モデルの間をとるように、身のこなしには柔軟さが備わっているのだ。そこでさらに思い出すのがV70だ。あの大らかな印象と似ている。
クルマに信頼があるからこそ会話が弾むドライブとなる
道中は、安全・運転支援システム「インテリセーフ」の機能のひとつ、アダプティブクルーズコントロールの存在は絶大だった。カメラやミリ波レーダー、超音波センサーを搭載し、140km/h以下であれば走行中の自車を車線の中央を走るようにステアリングアシストをするパイロット機能も備わっている。
盛岡ICの手前から岩手の最高峰、岩手山が視界に入り、近づくにつれ残雪のある姿がますます大きく見える様子にワクワクした。運転席にいながらゆったりと流れる景色を楽しめたのは、クロスカントリーが直進安定性に優れていることも大きい。すると会話もはずむ→ドライブがますます楽しくなるとなるのだ。
さらに「インテリセーフ」には大型動物なども検知する自動ブレーキやブラインドスポットインフォメーションシステムも含まれ、車線変更時の見落としに対するサポートもより頼もしく強化されている。北海道内はもちろん高速道路上でも動物飛び出し注意のサインを見かけた。できれば遭遇したくはないけれど、こうした機能は万一の際の転ばぬ先の杖となり得る。
ところで、高速ドライブを有意義なものにするために、ときどきのカフェインチャージも兼ねて、東北道上の蓮田SAから津軽SAまで10カ所すべてのSAに立ち寄ってみることにした。菅生SAでは牛タン専門店と出会うこともできた。この出入りも影響してか燃費は12.0km/Lをわずかに切ったが、JC08モード燃費が12.9km/Lということや、この有意義な高速ドライブを思えば、決して悪くはないのではないか。
函館では異国情緒溢れる港町の元町を訪ね、八幡坂をクロスカントリーで下ると正面にはその港と海が見えた。T5のパフォーマンスは長い上り坂もなんのそのだし、そしてこのパワートレーンや大らかな乗り味は、優しくて安心感がある。
V90クロスカントリーと出かけた二日間のロングドライブは快適な理由を探りながら、最新のボルボの〝いま〞を知るいい機会になった。急ぐのが無駄に思えるほど心地よい時間が過ごせたことが一番だった。もし「またどうぞ」、と言われたら「はい」と即答できる。今度はもっと遠くまで足を伸ばしてみたいと思う。
V90クロスカントリー T5 AWD サマム主要諸元
●Engine=型式:B420 種類:直4DOHCターボ 総排気量:1968cc ボア×ストローク:82.0×93.2mm 圧縮比:10.8 最高出力:187(254)kW(ps)/5500 rpm 最大トルク: 350(35.7)Nm(kgm)/1500-4800rpm 燃料・タンク容量:プレミアム・60L JC08モード燃費:12.9km/L
●Dimension&Weight=全長×全幅×全高:4940×1905×1545mm ホイールベース :2940mm トレッド前/後:1650/1645mm 車両重量:1850kg ラゲッジルーム容量:560-1526L
●Chassis=駆動方式:4WD トランスミッション:8速AT 変速比1/2/3/4/5/6/7/8/R :5.250/3.029/1.950/1.457/1.221/1.000/0.809/0.673/4.015 最終減速比:前3.229/後2.583 ステアリング形式:ラック&ピニオン サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク ブレーキ前/後:Vディスク/Vディスク タイヤサイズ:235/50R19
●Price=車両価格 7,540,000円