マツダは8月8日に「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言 2030」という技術開発の長期ビジョンを発表したが、その中でガソリンエンジンで圧縮着火を世界で初めて実用化することになる「スカイアクティブX(SKYACTIV-X)」搭載車を2019年から導入すると宣言した。
その後、海外で一部のジャーナリスト向けに試乗する機会を設けたが、10月の上旬に改めてマツダの美祢試験場で大々的な試乗会(次世代技術説明会)が開催された。それに参加することができたので、その模様をお伝えしたい。
新たなアーキテクチャーを導入
まず、この試作車についてだが、スカイアクティブXを搭載していることはもちろんだが、もうひとつの新技術“スカイアクティブ ビークルアーキテクチャー”が採用されている。これは究極の“人馬一体”をめざしたもので「すべての乗員が快適で疲れず、ドライブ環境の変化に即座に対応できる」というものだ。
具体的には人間の構造を分析して歩行中の頭の動きなどから、クルマに乗ったときの最適な動的バランスを解析し、それをシートに採用するなどしている。「クルマのバネ上があたかも球面上を動くように連続的に滑らかであると、シートはバネ上の遅れなく連動して入力エネルギーを滑らかに骨盤に伝える」のだそうだ。
またボディについても新たな考えのもとに作られている。それは“力の伝わる経路の骨格を「多方向に環状構造」化”したもので、これによりボディへの入力が遅れることなく対角へ伝達され、結果的に人間の感性に合った乗り心地になるとのことだ。
さらにシャシーについても従来の「バネ上へ伝える力の大きさを低減する」という考え方から「バネ上へ伝える力を時間軸で遅れなく滑らかにコントロールする」というものに進化したという。また振動エネルギーの減衰についても新たな技術が投入されている。
以上のように、この試作車は単にエンジンが新しいだけではない、トータルでマツダの次世代技術を搭載したものなのだ。
何から何まで異なる
試乗はまず従来モデルの2.0スカイアクティブG車に乗り、続いて試作車に乗るというものだったが、その違いはあらゆる面で明らかだった。何から何まで試作車の方が優れていると感じられた。
それは走り出すとすぐにわかる。アクセルペダルを踏んだ瞬間からして試作車の方がスムーズに感じられ、足の動きに忠実にクルマが動いてくれる印象なのだ。もともとマツダ車はこのあたりのフィーリングが優れているが、それがいっそうよくなったようだ。
ゆっくりとアクセルペダルを踏んでいくと試作車の方が、低回転域でもトルクがあることがわかる。さらにスピードを上げていくと、エンジンは従来型よりどの領域でも一皮むけたような印象で気持ちよく走ることができる。
そして60〜70km/hくらいで曲がるコーナーでは、試作車はハンドルを切るとスッとスムーズに向きを変える。いわゆる“応答遅れ”というものはまったく感じず、人間の感性に合っている印象だ。さらにコーナリング中も従来型よりも姿勢の変化は少ないようで安定感も高い。そしてハンドルを戻すときも滑らかで自然だ。
商品戦略にも注目だ
全体的にマツダが言うように“人馬一体”のステージが確実に一段上がったというのが実感だ。そして、これが通常の2Lエンジンに対して20〜30%、現行のスカイアクティブGに対しても15%ほど燃費がよくなるということだから素晴らしいとしか言いようがないだろう。
気になるのはコストだが、試乗会場でエンジニアに聞いたところ、スカイアクティブXについては「ディーゼルエンジンであるスカイアクティブDよりは低く抑えられる」ということだった。それであれば十分な競争力を持てるだろうが、2019年にスカイアクティブXが商品化された後も、スカイアクティブGのアップグレード版が併売されるという。課題があるとしたら、そこかも知れない。
“X”と“G”の棲み分けをどうするのか。たとえば日本において、CX-3はスカイアクティブDのみでスタートしたように、“X”を際立たせる商品戦略をどう打ってくるのか。そのあたりも興味深く楽しみだ。(文:荒川雅之/写真:マツダ)