タイヤ荷重を自由に操り
どこでも気持ちよく走る
スポーツドライビングに興味があれば、「荷重移動」という言葉を聞いたことがあるだろう。クルマには4つのタイヤがあり、それが路面と接している唯一の部分とは良く言われるところだ。ハイスピードドライビングでは、どれだけ上手にタイヤのグリップ限界のぎりぎりを使って走るかがポイントになり、その上手な使い方もある。その鍵を握るのが荷重移動だ。
特殊なサスペンションジオメトリーのクルマを除けば、クルマはブレーキングをすればノーズダイブし、加速をすればテールスクォートする。この時、前者ではフロントタイヤに荷重が乗り、後者ではリアタイアに荷重が乗っている状態となる。コーナーで横Gがかかれば、外側のサスペンションが沈み、内側のサスペンションが伸びる。
スラロームをすれば、それが左右に連続して起きる。ここでも旋回する外側のタイヤに荷重の多くが乗っている状態になる。そしてタイヤがスリップしない限り荷重が乗っていた方がグリップ力が大きくなるから、それをコントロールするわけだ。
もう少し具体的に解説してみよう。コーナリングのためにストレート区間でブレーキングを開始する。ブレーキングポイントや踏力はケースバイケースだが、効率的に減速をしようとすればロック寸前のブレーキが良い。
この状体でコーナーの入り口まで達したとしよう。今度は曲がらなければならない。この状態でステアリングを切ると、タイヤは縦方向のグリップで能力を使い切っているので、ステアリングを切っても思い通りには曲がらない。そこでブレーキを緩めることが必要になる。
よくここで摩擦円の概念を使って「タイヤの縦方向に90%の能力を使っていると横方向には10%しか使えず曲がれない」というような説明がされることがあるが、それは間違いだ。摩擦円の話は次の機会に詳しくするつもりだが、縦と横のベクトルなので90%なら44%、80%なら60%、70%なら71%というのが正解。そしてここからわかるのは、ちょっとブレーキを緩めれば、かなりコーナリングに使えるグリップが増えるということだ。
だからブレーキを緩めながらステアリングを切っていくことで、減速しながら曲がっていくことが可能になる。いわゆるトレールブレーキだ。
このテクニックは、最近は要不要論を含めていろいろあるが、ブレーキ踏力を抜きつつ、ステアリングの切り込みを連携させることによって、クルマとの対話が生まれるという意味ではマスターしておきたいところ。
コーナーのアペックスでは最大舵角となり、ロールをじわっと起こすようなステアリングの入れ方をしていれば、もっともロールが大きくなっているはず。そこから立ち上がりに向かう。まず気をつけなければいけないのは、いきなりアクセルを全開にしないことだ。外側の二輪に荷重が乗っているので、パワーのあるFR車だったら、リアがブレークしてオーバーステアに、FF車だったらフロントからグリップを失いアンダーステアになる可能性が高い。
ここでの基本はクルマが姿勢を変えるまで我慢ということなる。ただ、アクセルオフのままで我慢してしまうと、エンジンブレーキが効いて余分な減速をしてしまう。加速Gは減速Gほど大きくないから、余分な減速は極力さけたい。
そういう意味ではアクセルに足を乗せておく程度のオンは必要になるだろう。そして姿勢が変わったタイミングでアクセルを本格的に踏み込み、合わせてステアリングを戻していく。
荷重移動に関しては、駆動方式によって、クルマの重量配分が違うということに注意したい。FFならば、フロントに重量物が集中していることから、前タイヤに常にある程度の荷重がかかっている。そういう意味では、コーナーの入り口では曲がりやすいという面もある。
その点ある程度リアに荷重が分散されているFRの方が荷重移動の勉強にはなると言えるだろう。しっかり荷重移動をして、コーナーにアプローチし、スムーズに横Gを立ち上げ、立ち上がりではそれを収斂させながら、リアに駆動力をかけて加速Gを発生させるというのあh、ドライビングの愉しさにつながる部分だ。
4WDは、基本的にはFF的だが、どちらかというと4駆システムによって曲がりやすさが変わってくる。そういう面でスバルのシンメトリカルAWDの素性の良さはご存じのとおり。
エンジンをボディ中央付近に置くMRは、回頭性の良さなど俊敏な特性を持つ反面、限界走行
となると荷重移動が難しく、テールがブレークすると一気に自転する動きとなり難しい。
■解説:飯嶋洋治/■写真:伊藤嘉啓/■イラスト:きむらとしあき