ウエットを制するものが
すべての路面を制する!
季節は梅雨ということもあり、今回はウェット路面=低ミュー路でのハイスピードドライビングテクニックを解説しよう。まずテクニックの前に行っておきたい準備がある。視界の確保だ。
フロントガラスの汚れの拭き取りは大前提として、まずワイパーブレードを良い状態にしておくこと。ゴムが硬くなったり、切れていたら交換する。これはサーキットなどで雨が降ってきたからというようなものではないので、普段からのチェックが大事だ。もちろん、フロントガラスに撥水剤を塗布するのもいいだろう。これはサイドウインドーやバックミラーにも有効だ。
もうひとつは車内のくもり止め。一般走行ではエアコンを使用すればくもることはないが、ハイスピードドライビングではパワーロスを伴うエアコンは使わないのが原則。走行中に汗をかき、蒸してくれば車内のくもり止めは必須。これも市販のケミカル剤で行うことになる。
低ミュー路でのドライビングテクニックで気をつける点は、タイヤグリップの摩擦円が小さくしか使えないということだ。アンダーステアやオーバーステアといった挙動が低いスピード域で出やすくなる。しかも挙動が出るときはピーキーになりやすいからコントロールもしづらい。挙動を乱さないようなていねいな操作が必要だ。
ブレーキングに関して見ていこう。制動距離が長くなるから、それを見越した早めの操作が必要になる。摩擦円が小さくなっているから、ブレーキロックもしやすい。フロントをロックさせてしまえば、アンダーステアでコーナーをまっすぐ行ってしまうし、リアをロックさせれば即スピンにつながる。
こうした場合、ブレーキを緩めれば理論的にはグリップを回復するわけだが、すぐにではなくタイムラグがある。そこでかつてはブレーキを断続的に踏むポンピングブレーキが用いられたりしたが、現代のブレーキにはABSが装着されているから、それに任せた方が良い。ウエット路面でABSは必須の装備とも言える。
アクセルコントロールに関しては、旋回に入ってからのアクセルオンはRWD(FR、MR)ではラフに行うとすぐにテールがブレイクする。ここでも繊細なアクセルコントロールが求められる。同時にテールが出たときにすぐにカウンターステアリングを当てられる態勢を整えておくことも必要になるだろう。
ちなみに、RWDでは、コーナリング中にシフトアップしただけでもテールスライドで姿勢を崩すことがあるから、丁寧な操作がポイントだ。
FFでは旋回中にアクセルオンをするとフロントタイヤが空転することによってアンダーステアが出やすい。加速時にもホイールスピンしやすく、気持ちばかり焦ってクルマが前に進まないことも起こりがちとなる。基本はクルマが姿勢を変えたところで徐々にアクセルを入れ、完全に出口を向いたらアクセル全開となる。
ただウェット路を含めた低ミュー路は、コーナリング進入で姿勢を作りやすいという面もあるから、コーナー前半でクルマの姿勢を大きめに変えて、アクセルオンで前に引っ張るような走りも有効になる。この辺はテクニックの見せ所だろう。LSDが装着されたクルマならば、そういう走りがより効果的でRWD車よりも有利になる部分だ。
さらに有利なのが4WDだ。パワーが同じなら、4WDのタイヤは2WDの半分のパワーを受け止めているだけだ。パワーが分散されているぶん、ホイールスピンしづらいし、ホイールスピンをしてもアウトに膨らむだけで大きく姿勢を崩すこともない。コーナリングに入ってからの姿勢の安定という意味では2WDを大きく引き離す。ただし制動時に駆動方式はかんけいないので調子に乗りすぎは注意が必要だ。
ハイドロプレーニングにどう対処するか?
ウェット走行で一番怖いのはハイドロプレーニングだ。これには公式がある。アメリカのNASAが導き出したもので、63にタイヤ空気圧の平方根をかけた値がハイドロプレーニングを起こす速度というもの。具体的にはタイヤの空気圧が2kg/cm2で89km/h、3kg/cm2ならば109km/hでハイドロプレーイングが起きることになる。前提としてタイヤの溝は水深よりも深くなければならない。
かつてS耐でランサーエボリューションを駆っていた中谷明彦/木下隆之組が、大雨の中で上位クラスを退け優勝したことがあったが、この時もこのセオリーを使い、できるだけタイヤの空気圧を高めたという。
■解説:飯嶋洋治 ■イラスト:きむらとしあき ■写真:井上雅行/伊藤嘉啓