集積した情報の解析がキモの構想
ブリヂストンは、製品性能の向上や均一化、ニーズへの早期適合などを実現するための“スマートファクトリー構想”を発表した。これは、企画/開発/製造/販売など、ブリヂストン社内で保有するさまざまな情報をICT/IoT技術でビッグデータ化、さらに解析・シミュレーションすることで高品質な製品の生産を実現しようというものだ。
ちなみに、ICT(Information and Communication Technology)はITの進化系で、「ヒトとヒト」、「ヒトとモノ」のコミュニケーションが強調された情報・通信技術の総称。また、IoT(Internet of Things)とは、「クルマとクルマ」、「製造機器と製造機器」といったモノ同士のインターネット通信のこと。
実はこの構想、すでにはじまっており、ICTを搭載した最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION」での生産もそのひとつ。生産ラインにAIを導入した生産機器を採用することで、製品の性能均一化や生産効率の向上、生産スキルのレス化を図るものだ。すでに彦根工場を中心に稼働している。
こうした先進技術を“スマートファクトリー構想”としてまとめ、全社的に導入を加速させるというのが今回の発表である。
ICT/IoTを活用した取り組みはいくつかある
スマートファクトリー構想のひとつが「デジタルツインによる生産効率向上」だ。仮想世界に工場を作り、そこで起こった装置の故障や不具合などを検知することで、現実世界の工場での生産効率を高めるというもので、デジタルツインと呼ばれる。その効果は、実工場でのセンサー減数といったコスト削減にもつながるという。
もうひとつが「熟練作業のデータ化による製造改革」だ。熟練技術員の手作業によって製造される、鉱山で稼働するダンプカーをはじめとする産業・建機用の大型タイヤ生産スキルをデータ化、これを解析することで若手育成につなげ、勘とコツに頼らない工場実現を目指すという。
「シミュレーションによる開発プロセスの改革」もひとつ。タイヤ内部に路面状況や走行状況を感知するセンサーを導入(ネクスコ・エンジニアリング北海道と共同で試験中)し、そこで得られた「タイヤの使われ方」の情報をICT技術で集約・解析、タイヤ開発のシミュレーションに活用するものだ。これにより開発スピードの向上とニーズへの早期適合を可能にするという。
情報解析員「データサイエンティスト」の育成が急務
ここまでいくつか“解析”という言葉が出てきたが、今回のスマートファクトリー構想にとってここが最重要になるという。いくら情報を集めたとしても、それを開発や生産現場に活かせなければ意味がないからだ。そこで、情報を解析できる“データサイエンティスト”を早急に育成しなくてはならない。現在大学研究所や外部機関などと協力し、2019年までに100名のデータサイエンティストを育成する計画だという。
今回の発表会で出た言葉「他メーカー製品との、性能面での“明確な”差別化が難しくなっている」という危機感、さらに新興国タイヤメーカーによるシェア拡大が進んでいる現在、その打開策としてブリヂストンは製品性能の均一化やニーズへの早期適合、生産効率向上により差別化を図ろうとしている。ただ、今回の内容はあくまで“構想”や“理念”だ。私たちユーザーの使用する製品に、目に見えて違いが現れることは少ないのかもしれない。