EVやFCVなども増えてきた昨今のクルマ社会だからこそ、エンジンについて見直してみたい。そこで、クルマ以外の歴史的なエンジンや驚きのメカニズムを10回にわたって紹介する短期集中連載。第1回目は、第二次大戦の戦闘機エンジンだ。

■文&Photo CG:MazKen

史上最大の航空機決戦「バトル・オブ・ブリテン」

ダイムラー・ベンツ(DB)対ロールス・ロイス(RR)のガチ勝負と言っても、モータースポーツの話ではない。レースより命がけの戦闘機バトルだ。

第二次世界大戦の頃になると、航空機はそれ以前の黎明期だった中小メーカー百花繚乱状態から、ほぼ現在知られるメーカーに統廃合され、大量生産の時代に入った。大戦を引き起こしたドイツは、今も多くの人が知る「メッサーシュミット Me109」を主力戦闘機とし、東西ヨーロッパで猛威を振るう。

ドイツ軍は圧倒的な機動力でフランスを占領し、ドーバー海峡を渡ってイギリスを降伏させるのも時間の問題だった。このとき、ドイツ空軍に猛然と立ち向かったイギリス空軍の最新鋭戦闘機が「スーパーマリン・スピットファイア」で、ドイツ空軍大部隊と史上最大の航空機決戦(バトル・オブ・ブリテン)を繰り広げた。

メッサーシュミットは、当時すでにトップブランドだったダイムラー・ベンツ社のDB601エンジンを搭載。独特な流体継手を用いた実質無段階式2速スーパーチャージャーと、燃料噴射方式から得るパワーを利用した上昇力・最高速・急降下速度で「一撃離脱戦」という、従来の「格闘戦」と異なる現代的空戦術の基礎を作った。

画像: メッサーシュミット Me109Fの正面図。ハの字型DBエンジンを覆う最低限の機体外殻に、その延長に翼と脚がある。最高速重視と生産合理性追及のドイツらしい設計。

メッサーシュミット Me109Fの正面図。ハの字型DBエンジンを覆う最低限の機体外殻に、その延長に翼と脚がある。最高速重視と生産合理性追及のドイツらしい設計。

これに対抗したスピットファイアのエンジンは、世界に誇るロールス・ロイス社のマーリン。この高性能エンジン、まだ試験段階だったアメリカ軍のノースアメリカン P-51マスタングのオリジナルエンジンをも過去の遺物とし、換装させてしまったほど! のちにマスタングが名戦闘機になれたのは、マーリンがあったおかげと言われている。

画像: スピットファイア MkIの正面図。マーリンV型エンジンを逆卵型のカバーで覆うデザイン。全体に丸みと余裕があり、P-51とともに大戦後まで基本は同じ。

スピットファイア MkIの正面図。マーリンV型エンジンを逆卵型のカバーで覆うデザイン。全体に丸みと余裕があり、P-51とともに大戦後まで基本は同じ。

ドイツの誇るDB対イギリスの誇るRR。どちらも水冷・V型12気筒 SOHC 48バルブでバンク角も60度。形式を見ると「やっぱ理想形は同じじゃん」と思われるが、実はとんでもなく違う。RRは順当にV型のシリンダー配置だが、DBはなんと倒立V型…つまり「ハ」型が正しい。

画像: 正統派V型エンジンのRR マーリン。DBより小排気量だが高回転高出力型。大戦後半は良質の燃料が高過給圧を可能にした。クランクシャフトが下方で減速ギアを噛まして上部にプロペラシャフトがあるので、無難で自由度の高い機体設計ができた。

正統派V型エンジンのRR マーリン。DBより小排気量だが高回転高出力型。大戦後半は良質の燃料が高過給圧を可能にした。クランクシャフトが下方で減速ギアを噛まして上部にプロペラシャフトがあるので、無難で自由度の高い機体設計ができた。

軍用機というのは当然ながら、機能に関係ないデザインは一切皆無。エンジンの根本的な違いは、機体設計にも顕著に出る。スピットファイアの機体断面は上部が広い逆卵型に対し、メッサーシュミットは上部がスボまった三角おにぎり型断面。つまり、エンジン上部に2丁の機関銃が載せやすい形になっている。

ところが上部がスボまっているだけでなく、機体全体がDBエンジンをアルミ被膜で覆っただけのような異常にタイトでキツキツのメッサーシュミット(航空機ファンなら周知のとおり零戦よりずっと小型)は、パイロットの肩から頭にかけてが信じられないほど狭い。

画像: 上からメッサーシュミット Me109、スーパーマリン・スピットファイア、そしてノースアメリカン P-51マスタング。

上からメッサーシュミット Me109、スーパーマリン・スピットファイア、そしてノースアメリカン P-51マスタング。

航空機の性能だけでは勝ち負けは決まらない

大柄なドイツ人を、よくここに詰め込んだな…と思うほどだ。おそらく脱出時には苦労するか、出られずに墜落したパイロットも多かっただろう。こんな閉所恐怖症的ストレスも、ドーバー海峡越えの空戦では不利だったろうと察せられる。それでも燃料噴射式が自慢のDBエンジンは、急速旋回でもキャブレター式のRRエンジンのように息つきすることはなく、空戦だけならまだ優位なはずだった。

しかし、悲運はまだある。元々、欧州戦線の空軍機は内陸専用なので、日本の戦闘機のように航続距離を考えていない。増槽タンクを使っても4000km程度というから、欧州大陸から遥々ドーバー海峡を渡って、イギリス本土を往復するだけでもメッサーシュミットには酷な話。また高速と高高度性能がウリなのに、低速な爆撃機の護衛では、得意の一撃離脱戦法も不可能。結局、スピットファイアの大活躍でドイツ空軍は大損害を出し、この航空機決戦は大敗に終わる。

主戦場が欧州大陸に移ると、DBはエンジンを605に改良。ボアアップし、粗悪ガソリン対策で水メタノールブーストを装備した。メッサーシュミットの機体も空力的に大幅なマイチェンを行い、流麗なフォルムになった。また徹底合理化で、ほぼすべてのドイツ軍機はDB605搭載となった。

画像: 吸排気バルブが下方でクランクシャフトが上部にある、Vというよりハ型エンジンのDB605。クランクシャフトから減速ギアを噛まして下方に極太のプロペラシャフトが貫通し、ここに機関砲が入る。側面に巨大なコンプレッサーが備わり、口笛のように甲高く唸る。

吸排気バルブが下方でクランクシャフトが上部にある、Vというよりハ型エンジンのDB605。クランクシャフトから減速ギアを噛まして下方に極太のプロペラシャフトが貫通し、ここに機関砲が入る。側面に巨大なコンプレッサーが備わり、口笛のように甲高く唸る。

スピットファイアは本土防衛戦闘機としては優秀だが、逆にドーバー海峡を渡って、自軍のランカスター爆撃機やアメリカ軍のB-17爆撃機を護衛することはできなかった。「空飛ぶ要塞」と呼ばれた重武装大型爆撃機をしても、改良版メッサーシュミットに次々カモられ、ドイツの撃墜王たちは荒稼ぎした。

ここで登場したのが前述の最新鋭機P-51マスタング。高オクタン=高ブースト過給機付きRR・マーリン60エンジンを搭載した新鋭機に、粗悪ガソリンやオイルを使ったDBエンジンとドイツ軍戦闘機は苦戦しながらも、出力アップと機体改良を常に続けながら、最期までガチンコで戦い抜いた。

※航空機エンジンの性能は、使用燃料や条件(特に高度)で諸説ある。

ダイムラー・ベンツ DB601(後期型:DB605)の主要諸元

液冷倒立V型12気筒4バルブSOHC/バンク角60度
ボア×ストローク:150(154)×160mm
排気量:33.9L (35.7L)
燃料供給方式:ボッシュ製 直接噴射式
過給機:遠心型スーパーチャージャー /1段1速だが流体継手による実質無段階2速 (+水メタノールブースト装備)
燃料:87オクタン価
最高出力:1100ps/2400rpm (1775ps/2800rpm:水メタノールブースト時)

ロールス・ロイス マーリンII (後期型:マーリン66)の主要諸元

液冷V型12気筒4バルブSOHC/バンク角60度
ボア×ストローク:137.2×152.4mm
排気量:27.04L
燃料供給方式:SUキャブレター・自動混合気制御
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速式(遠心型スーパーチャージャー/2段2速+アフタークーラー搭載)
燃料:87オクタン価(100/150グレード航空燃料)
最大出力:1160ps/3000rpm(1860ps/3000rpm)

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