日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第5回は、海のモンスターエンジンを紹介していこう。(今回の記事は、2017年2月当時の内容です)

陸・空とは比べものにならない、船の煙突の下に眠るモンスターエンジン

画像: タイトル画像:船といえば、甲板上構造物でひときわ目立つ煙突がシンボルである。しかし内部の機関は、時代とともに急激にかつ多種多様に進化した。上から戦艦 三笠、貨客船 氷川丸、護衛艦 いずも。

タイトル画像:船といえば、甲板上構造物でひときわ目立つ煙突がシンボルである。しかし内部の機関は、時代とともに急激にかつ多種多様に進化した。上から戦艦 三笠、貨客船 氷川丸、護衛艦 いずも。

今回は、格段に最大級のエンジンである大海原を航海する船の機関を紹介しよう。船の推進機関は、風力=帆船から動力=蒸気船に一大進化した後、船のさまざま種類・大きさ・用途によって、急速に多種多様化してきた。アメリカ人のロバート・フルトンが19世紀初頭に蒸気船を実用化したが、それが帆船にとって代わるには、さらに半世紀が必要だった。蒸気船は船体中央に巨大なボイラーと機関室、それに石炭庫が必要なため、運搬効率が悪かったからだ。また外洋の荒海では、水車で水を掻く外輪推進式の効率が非常に悪かったこともある。

1845年、イギリス海軍により外輪推進船とスクリュープロペラ推進船の直接対決が行われ、各種バトルの結果スクリュー式が圧倒的に優秀とされると、大型蒸気船は一気に帆船にとって代わった。ちなみに1853年と1854年に日本に来航した「黒船」の旗艦、サスケハナ号は外輪式の蒸気船だった。この時代から20世紀初頭まで、石炭燃料の「レシプロ式蒸気エンジン」の時代が長く続く。いわゆる「船+煙突=汽船」のイメージは、この頃にできた。日本海海戦で活躍した連合艦隊旗艦の戦艦 三笠をはじめ水雷艇までの艦艇や、氷山と接触して沈んだ巨大客船のタイタニック号などが、この方式の代表例だ。

画像: 日露戦争(1904〜1905)における日本海軍の連合艦隊旗艦 三笠の艦内図。中央の石炭ボイラー(缶)で発生させた蒸気を、後部(左)の直立する3つのシリンダーに送りピストンを駆動させる。まだ「黒船」と大差ない蒸気機関の典型。タイタニック号(1912年竣工)も主機関は同形式。

日露戦争(1904〜1905)における日本海軍の連合艦隊旗艦 三笠の艦内図。中央の石炭ボイラー(缶)で発生させた蒸気を、後部(左)の直立する3つのシリンダーに送りピストンを駆動させる。まだ「黒船」と大差ない蒸気機関の典型。タイタニック号(1912年竣工)も主機関は同形式。

この間にも、石炭ボイラーは細い管を幾重にも束ねて水を通す「水管式」になるなど、効率は飛躍的に進歩している。高圧蒸気が効率良く作れるようになると、シリンダー内のピストン運動よりも、回転運動で高効率な「蒸気タービン機関」の軍艦が台頭してくる。高圧蒸気とタービン(羽根車)を組み合わせた回転運動機関なので、高回転=高速化と機関自体の小型化が容易だった。

日露戦争直後の1906年に就役した英国の戦艦「ドレッドノート」を基準に、これを超える規模を持つ戦艦は「超ド(弩)級」と呼ばれ、急激に武装を強大化し高速化した。超ド級戦艦以降、軍艦のほとんどが蒸気タービンを主機関とし、燃料を石炭から重油に代えた。1920年代になると、現代の主力護衛艦の30ノット(公称)と対等の33〜35ノットの巡洋艦や駆逐艦が疾走する時代になった。蒸気タービンの「頂点」が原子力空母や原子力潜水艦の推進機関として、現代もなお怪物パワーの源となっている。

船の動力機関にも複合方式時代が到来

燃料が石炭から重油に代わる1920年代、蒸気機関より高効率で小型、そしてメンテナンスフリーなディーゼルエンジンが客船や貨物船など商船の主力になってくる。いうまでもなくトラックやバス、鉄道機関車用ディーゼルエンジンの巨大版だが、蒸気タービンより速度を必要としない船舶や、燃料コスト重視の船舶で本命の機関となる。

ディーゼルエンジンの場合、煙突は「集合排気管」となり、本来なら束ねて船舶の中央に鎮座させる意味はなくなるが、機関室から最短距離で排気させるため「煙突」は排気管カバーとして存在する。

画像: 横浜港に文化財として係留される氷川丸(1930年竣工)は、機関室の内部が見られる珍しい大型船。蒸気機関からディーゼル機関になったため煙突は集合排気管である。2軸推進のため、写真の左右に8気筒のディーゼルエンジンが並ぶ。船底から3階層ぶち抜きの巨大空間だ。

横浜港に文化財として係留される氷川丸(1930年竣工)は、機関室の内部が見られる珍しい大型船。蒸気機関からディーゼル機関になったため煙突は集合排気管である。2軸推進のため、写真の左右に8気筒のディーゼルエンジンが並ぶ。船底から3階層ぶち抜きの巨大空間だ。

ほぼ同時代から亜種も現れ、蒸気タービンやディーゼルで発電しモーターで推進する、エレクトリック方式が登場した。この方式の利点は、必要電力分だけ機関を回せば良いので、省エネになること。そしてモーターが推進機なので高トルクが得られ、複雑な減速機なしに速度変化にも対応できることだ。

第二次大戦以降主流になったのが、ディーゼルエンジンだ。ディーゼルは4サイクルから、ユニフロー掃気2サイクル・排気ターボ付きが標準化した。この進化は高出力化と高燃費の両立に貢献した。また、同方式で発電し、モーター推進とするディーゼル・エレクトリック方式も普及している。代表例に巨大クルーズ客船/クイーン・エリザベスIIIがある。

画像: 現代の超大型クルーズ船、クイーン・エリザベスIII(2010年竣工)。ディーゼル・エレクトリック方式なのでモーター駆動。近年の客船は高速である必要がなくなり、騒音振動と燃料消費を極力抑え、船内を広く使うためパワーユニットをコンパクトにマルチ化する方式を採用している。

現代の超大型クルーズ船、クイーン・エリザベスIII(2010年竣工)。ディーゼル・エレクトリック方式なのでモーター駆動。近年の客船は高速である必要がなくなり、騒音振動と燃料消費を極力抑え、船内を広く使うためパワーユニットをコンパクトにマルチ化する方式を採用している。

一方、速度重視といえば軍艦。現在就役中の多くの軍艦は「ガスタービン機関」が主流。蒸気タービンとの大きな違いは、高圧蒸気を発生させるボイラーが不要で、自ら燃料を燃焼し高圧ガスを発生させることだ。レシプロエンジンとも違い、圧縮→燃焼→膨張→排気を行程ではなく、本体の4区画が担当する。日本の主力護衛艦の大半は、船舶汎用ガスタービンを4基搭載する。小型タービンを複数使用するのは、機関のスペースを最小化できること。必要パワーを最適な機関数で得られるからだ。また同方式で発電し、モーター推進の艦船も多く存在する。

現代の艦船は、複数のディーゼルやガスタービンエンジンを主機に、数々の補器や排熱発電などを複合的に制御し、効率良くパワーにしている。(文 & Photo CG:MazKen)

※出力表記は資料のままを採用。

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