日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版の第21回は、地球上で最も大きな乗り物といわれるコンテナ船の、とてつもなく強大なパワーユニットの秘密を探っていこう。

戦艦大和もビックリのデカさ。最大、最強の船舶は巨大コンテナ船

画像: タイトル画像:全長400mの巨体に、フルサイズのコンテナをなんと!1万8000個も積載。総トン数は約19万4000トン。最新のマースク・トリプル Eクラスは、速力よりも燃費優先型だ。

タイトル画像:全長400mの巨体に、フルサイズのコンテナをなんと!1万8000個も積載。総トン数は約19万4000トン。最新のマースク・トリプル Eクラスは、速力よりも燃費優先型だ。

最大のモンスターマシンは、船舶だと言われている。しかし船舶は、使用目的・船種(艦種)・大きさや形状があまりに多種多様で、言ってみればシニアカーからF1、超大型ダンプカーまでを一緒にしているるようなものだ。動力も、大きさや重さの制約がほとんどないため、クルマや航空機とは比較にならないほど、多種多様で高度な複合機関が古くから実用化していた。原子力「蒸気タービン発電」の空母や潜水艦を除いても、船舶を横一列で比較するのは不可能なのだ。

強いて大型艦船を大別すると、軍艦・商船・客船になるだろう。今回紹介するのは商船。中でも貿易の花形「コンテナ船」だ。1970年代頃から、従来からの貨物船は消滅し、定型化されたボックスで荷物を運ぶ、コンテナ船が貿易の主役になった。21世紀に入ると世界的な貿易の活性化で巨大コンテナ船の時代に突入し、それまで巨大船といえばタンカーだったが、その大きさに迫るようになってきた。

タンカーはベルトコンベアのように連なって往来するので、速達性は要求されない。ドでかい「バケツ」がドンブラドンブラと原油を運ぶのである。ところがコンテナは、ボックスごとに契約企業が違えば、中身もまるで違う。大切な商品は早く目的地に届いた方が良いに決まっている。この結果、コンテナ船は巨大化と高速化が要求され、必然的に動力機関もハイパワー化したのだ。

画像: トリプル Eクラスの就航前まで世界一だったCMA CGM マルコポーロ。総トン数は約17万5000トンで、1万6020個のコンテナを積載する。この世代まで、速力はなんと25〜27ノットの高速型だった。

トリプル Eクラスの就航前まで世界一だったCMA CGM マルコポーロ。総トン数は約17万5000トンで、1万6020個のコンテナを積載する。この世代まで、速力はなんと25〜27ノットの高速型だった。

近年の巨大豪華客船は速力も大切な一方、静粛性や快適空間、港湾内の操縦性、そして燃費も重要なので、複数のディーゼルエンジンとガスタービン、それらを発電機とする高度な統合電気推進方式が主流だが、コンテナ船はシンプルな大型ディーゼルエンジンが主流だ。17万5000総トン、全長400mの巨大コンテナ船の最大速力は27ノット。これは、戦艦大和(約7万2千総トン、全長263m)が蒸気タービンエンジン全開の最高速と同等だから、もう怪物としか言いようがない。

また、この船室(隔壁)も甲板(天井)もない、巨大な箱舟は、大シケの海でも耐航性を維持するため、船体外殻を70mmもの高張力鋼板で構成している。近年起きた、米軍イージス駆逐艦(8000トン級)とコンテナ船(2万9000トン)の衝突に見られたように、船体強度はコンテナ船に分があるわけだ。まして衝角のようなバルバス バウ(球状船首)の直撃を食らって、沈まなかったのは不幸中の幸いとすらいえる。

巨大コンテナ船に求められるスペックは、速力から省エネの時代へ

この十数年で急激に巨大化したコンテナ船が、複雑な複合動力機関を持たずにシンプルなディーゼルエンジンを採用しているのは、製造コストや整備性の簡便さ、抜群の信頼性が理由だ。主要メーカーはドイツのマン社と、フィンランドのヴァルチラ社。両社ともユニフロー式2サイクル排気ターボエンジンで、シリンダー&ピストン部とクランクケースを遮蔽分離した、クロスヘッド型とほぼ共通の構造だ。

画像: あまりに巨大! トリプル Eクラス搭載とほぼ同型で、最新のマン社製11G95ME-C9クラス ディーゼルターボエンジン。11気筒のユニフロー掃気2ストローク ディーゼル。トリプル Eでは8気筒のエンジン2機を73rpm!という低速で回す。4万3000hp×2で航海速度は19ノット。従来型より37%も経済的というのがウリ。

あまりに巨大! トリプル Eクラス搭載とほぼ同型で、最新のマン社製11G95ME-C9クラス ディーゼルターボエンジン。11気筒のユニフロー掃気2ストローク ディーゼル。トリプル Eでは8気筒のエンジン2機を73rpm!という低速で回す。4万3000hp×2で航海速度は19ノット。従来型より37%も経済的というのがウリ。

約95cmのボアと2.5〜3.5mに及ぶストロークのシリンダーは、船の大きさにより5〜14気筒とオーダーでき、またツインエンジンでも使用している。エンジンユニットの大きさだけで、5階建てのビルのようだ。最新コンテナ船の代表、マースク トリプルEクラス登場以前、各海運会社ともコンテナ船は速力も重視していた。出力の面ではヴァルチラ スルザー/14RT-フレックス96Cが14気筒で10万9000hp(102rpm)の最高出力を誇り、17万総トンのエマ マークスクラスなどを最大27ノットで快走させ、単体ディーゼルエンジンでは史上最強だった。

しかし、近年の重油高騰と世界中に広まる環境対策から、コンテナ船にも省エネ=低燃費が求められ、最新のコンテナ船は、マンのME-C9系エンジンを採用するようになった。8気筒×2機、8万6000hp(73rpm)や、12気筒7万7000hp(84rpm)のエンジンは、直径9〜10mものスクリュープロペラを低速で回し、19万〜20万総トン超になる巨大コンテナ船を、速力19〜21ノットで巡行させられる。

画像: G95ME-C9ディーゼルターボエンジンの説明図。クロスヘッド型 2ストロークエンジンのシリンダー数は5〜12気筒まである。排気量という概念では公表されておらず、ボア950mm×ストローク3450mmとだけある。上部に巨大な排気ターボのユニットが載る。

G95ME-C9ディーゼルターボエンジンの説明図。クロスヘッド型 2ストロークエンジンのシリンダー数は5〜12気筒まである。排気量という概念では公表されておらず、ボア950mm×ストローク3450mmとだけある。上部に巨大な排気ターボのユニットが載る。

低燃費で積載コンテナ数が増えた最新クラスは、速力重視型に比べ、約37%の低燃費と、1コンテナあたり50%もの二酸化炭素排出量削減になるというから、かなり大きな省エネ達成率といえる。

今後も船舶の大型化と低燃費化は一層進むのだろうが、これら超モンスター船やエンジンの建造に、日本の造船・重工メーカーは遅れをとっている。しかも、日本の埠頭は超大型ガントリークレーンなど設備の立ち遅れで寄港ルートから外されているため、その壮大な雄姿を見ることもできないのは、とても残念だ。(文 & Photo CG:MazKen)

画像: 速力重視のヴァルチラ スルザー社製 14RT-フレックス96Cエンジンの排気ターボ部分。基本構造はマン社製のエンジンと同じだが、14気筒1機で10万8900hpというディーゼルターボ史上最強のパワーを誇り、軍艦並みの25〜27ノットで巡行が可能だった。マルコポーロだけでなく、トリプル Eの先代であるエマ マースクもこのエンジンだった。

速力重視のヴァルチラ スルザー社製 14RT-フレックス96Cエンジンの排気ターボ部分。基本構造はマン社製のエンジンと同じだが、14気筒1機で10万8900hpというディーゼルターボ史上最強のパワーを誇り、軍艦並みの25〜27ノットで巡行が可能だった。マルコポーロだけでなく、トリプル Eの先代であるエマ マースクもこのエンジンだった。

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