第1次世界大戦期に登場し、第2次世界大戦で急激に進化した航空機用の星形エンジン。今回の【モンスターマシンに昂ぶる 第3回】では、その最終進化形として最後を飾ったともいえるプラット&ホイットニー社(P&W社)のR-4360を取り上げてみよう。

2018年に連載してきた「モンスターエンジンに昂ぶる」。2019年からタイトルを「モンスターマシンに昂ぶる」に変更し、陸・海・空をゆくあらゆる“マシンそのもの”を考察していきたい。2019年1月6日まで、短期集中連載していこう!

星形エンジンの急激な進化と、複雑化した最終形態

第一次世界大戦の軍用機に採用され、その後35年近く航空機エンジンの主流だった星形エンジン。ところが第二次世界大戦後、まるで恐竜のように完全に消滅してしまう。その最後は、いったいどのようなものだったのだろうか。

まず、星形エンジンの特徴を再確認しておこう。

■放射状にシリンダーを配列しているため、ほぼ1気筒分の奥行(厚さ)しかなく、クランクシャフトを短くできる。クランクシャフトは長いと重くなり、また強度や精度の確保、製造が難しかった。

■シンプルな空冷が最適で容易。全シリンダーが同一面で直接風にさらされ、均等に冷却できる。V型や直列など液冷/水冷に必要な水路や冷却用補器が不要。

■構造がシンプルなので、多気筒化=高出力化しやすい。4サイクルの行程+点火を入れ、5気筒を基本に7気筒、または9気筒で活用されたのが第一次世界大戦時代。

■放射状ピストン配置なので振動を打ち消し合うので、滑らかな回転特性。そのためクランクシャフトへの負担も小さく、トラブル防止に繋がった。

■全シリンダーが機体前面にあるため、V型や直列などと比較して整備性が良い。

画像: 以前にも紹介した原理図。星形エンジンは非常に小型軽量かつ合理的に多気筒・大出力が得られ、航空機に最適なエンジンだった。

以前にも紹介した原理図。星形エンジンは非常に小型軽量かつ合理的に多気筒・大出力が得られ、航空機に最適なエンジンだった。

以上のように、当時の工業水準や戦場に見合った多くの長所を持っていた。複葉機機時代は7気筒か9気筒の1列配置だったが、約20年後の第二次世界大戦前には金属機体の単葉機となり、2列配置の14気筒か18気筒が主流になる。

第二次世界大戦後期には、シリンダーを大型化し排気ターボを装備した2000馬力級エンジン搭載のアメリカ軍機が制空権を握り、他方ドイツが開発したジェットエンジン戦闘機が、数少ないながら高い威力を見せ始めた。

とくに、戦略上の要となる大型爆撃機に大型化と高速化が求められた。これに応えるように開発されたのが、星形エンジンの最終形態・最高峰といえる7気筒×4列のプラット&ホイットニー(P&W)製R-4360ワスプメジャーだ。

P&Wは「ライト」と並ぶアメリカの2大航空機エンジンメーカーで、日本製で有名な栄/ハ35エンジンは、同社のR-1830ツインワスプを手本としている。また、R-4360のベースは9気筒2列配置のR-2800で、F6Fヘルキャット、F4Uコルセア、P-47サンダーボルトのエンジンと言えば誰もが知るところだろう。

この高性能エンジンを、7気筒×4列という驚きの直結構造とし、しかも後列の空冷効率を考慮して、4列を捻じって配置するという超複雑メカで、なんと3000馬力を実現した!

画像: 星形(ラジアル)エンジンの最高峰、74気筒×4列のプラット&ホイットニー/R-4360。第二次世界大戦後、多くの巨大機だけでなく、試作機(CGはXB-35)にも多用され、ジェットエンジンへの橋渡しとなった。

星形(ラジアル)エンジンの最高峰、74気筒×4列のプラット&ホイットニー/R-4360。第二次世界大戦後、多くの巨大機だけでなく、試作機(CGはXB-35)にも多用され、ジェットエンジンへの橋渡しとなった。

R-4360ワスプメジャー、驚愕の超複雑メカが仇となり…

第二次世界大戦中、日本が恐れたB-29には「ライトR-3350」エンジンが採用されていた。しかし、大戦後は、パワーも信頼性もイマイチと言われていたこともあり、P&W製R-4360ワスプメジャーに代替され、機名も新たにB-50としてデビューした。

同時により大型で航続力・速力のある新型戦略爆撃機が計画され、下の写真にある現代版ステルス爆撃機のような、XB/YB-35実験機の15機が同エンジンを搭載して飛行している。

画像: 量産機数では最多の(385機)、超大型爆撃機コンベア B-36。先代B-29の3倍近い巨大機であり、すでにジェット戦闘機の時代だけに6発のR-4360-51でもパワー不足で、翼端にジェットエンジン4機を併載した。

量産機数では最多の(385機)、超大型爆撃機コンベア B-36。先代B-29の3倍近い巨大機であり、すでにジェット戦闘機の時代だけに6発のR-4360-51でもパワー不足で、翼端にジェットエンジン4機を併載した。

結局B-29/B-50の後継は、その3倍もある巨大爆撃機コンベア社のB-36ピースメーカーとなる。しかし、すでに戦闘機はジェット機の時代に突入しており、より高々度を高速で飛ぶ必要が求めらた。つまり、4300馬力のR-4360-51を6発載せても足りず、さらにジェットエンジンを4機も追加する状況だった。

他にも、同エンジンは史上最大のプロペラ機ヒューズH-4ハーキュリーズに8発で搭載されたり、多くの輸送機や旅客機に採用されるが、あまりに複雑な構造が災いし、あっという間にジェットやターボプロップエンジンに交代されてしまうのだ。(文&Photo CG:MazKen/ホリデーオート2018年5月号より)

※航空機のデータは試験飛行条件や資料により大きく異なる。

画像: プロペラ機だけでなく、現代でも史上最大級の航空機として有名なヒューズ H-4ハーキュリーズ。全幅97.5m、全長66.7mという数値は、巨大旅客機のエアバス A380に匹敵し、全幅は18mも大きい。

プロペラ機だけでなく、現代でも史上最大級の航空機として有名なヒューズ H-4ハーキュリーズ。全幅97.5m、全長66.7mという数値は、巨大旅客機のエアバス A380に匹敵し、全幅は18mも大きい。

プラット&ホイットニー R-4360-51 エンジン主要諸元

型式:空冷星形4重28気筒
排気量:75.1L
過給機:1段可変速遠心式スーパーチャージャー+GE製ターボチャージャー×2
離昇出力:4300hp/2700rpm
直径:1397mm
燃料:108/135オクタン航空ガソリン

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