激しい振動のコクピットでドライバーは小さなスイッチを操作している
メルセデスAMG F1 の最新仕様「W10 EQ POWER+ 」のステアリングホイールには数多くのロータリースイッチ、ボタンスイッチ、ダイヤル、シフトパドル、クラッチパドルが備わっている。
最新のF1マシンの機構は極めて複雑で、ドライバーは速く走るために、運転しながら前後のブレーキバランスを調節したり、エンジンブレーキの量を変更したり、エンジン性能とMGU-K、MGU-Hのエネルギー回収量を調整したり、DRSを作動させたり、さまざまなことを行わなければならず、そのためのスイッチが所狭しと並んでいるのがわかる。これらはピットから指示があって行うものも多いが、自ら判断しなければならないこともある。
フルスピードで走っている時にこれらを的確に行うのは簡単なことではなく、できるだけミスなく行えるように設計されているが、激しい振動にさらされているコクピットで行うとなると、間違えてしまうリスクもある。グローブを着用した手で小さなスイッチを操作するのは至難の技だろう。
そこでメルセデスAMGでは航空機でも使われている技術を応用。ロータリースイッチやボタンには特有の触感やクリック感が与えられ、直感的にどのスイッチかわかるようにしている。また、万が一、間違えた場合でも問題が起こらないようにシステムが組まれていたり、すぐにピットから指示できるような体制をとっている。
ステアリングホイールの材質には、カーボンファイバー、グラスファイバー、シリコン、チタンなどが使われているが、1シーズンに3〜4回アップデートされ最新のものに変更されていくという。もちろん、ドライバーによって、グリップの形状や太さ、リムの凹凸、スイッチ類の配置などはアレンジされている。
ちなみにF1開幕戦オーストラリアGPが行われたアルバートパーク・サーキットでは、ラップごとに約50回シフトパドルの操作が行われたが、センターディスプレイ上部に配された15個のシフトインジケーターLEDがドライバーにシフトタイミングを的確に伝えていた。
メルセデスAMG F1 W10 EQ POWER+ のステアリングホイール 解説
1
DRSスイッチ:Drag Reduction System(可動式リアウイングで最高速を伸ばすシステム)を作動させるスイッチ。決勝では条件を満たしたドライバーだけが使用できる。
2
パワーユニットコントロールスイッチ:パワーユニットのコントロールを変更するスイッチ。100段階に調節可能で、右側で10単位で、左側で1単位で変更する。
3
ニュートラルスイッチ:スイッチを押すだけで即座にギアポジションがニュートラルになる。
4
ピットレーンスピードリミッター:ピットレーンの速度制限を守るためのスイッチ。たとえドライバーがフルスロットルを試みても速度制限を超えることはできない。
5
ピットコンファーム:緊急時などにトラブルが起きていることやすでにピットに入ろうとしていることなどをピットに伝えるスイッチ。
6
ボリュームスイッチ:メニュースイッチで選択した項目やコーナーでの左右トルク配分などを調節するダイヤル。ドライバーによって項目は異なる。
7
エンジンブレーキ:ブレーキペダルやアクセルペダルを踏んでいない時にどの程度のエンジンブレーキをかけるか調節するスイッチ。燃料消費量や燃料流量が厳しく規制されるため、極めて重要な部分となっている。
8
ブレーキバランス:前後のブレーキバランスを調整するためのスイッチでロータリー式になっている。
9
マークボタン:注目すべきデータやポイントを保存、記憶させるためのスイッチ。
10
アクセプトスイッチ:パワーユニットコントロールスイッチで選択したモードをデフォルトとして設定するスイッチ。
11
レーススタート:レーススタート時に使うスイッチ。最大のパワーが得られる。
12
無線:ドライバーがピットに無線で交信したい時に操作するスイッチ。
13
ストラテジー切り替えボタン:レース中にパワーモードを切り替えるためのスイッチ。
14
メニュースイッチ:無線のボリュームやディスプレイの明るさなど変更項目を選択するためのスイッチ。
15
HPPボタン:パワーユニットのコントロールやMGU-Kのセッティングなどを変更する切り替えスイッチ。ピットからの指示によってドライバーが操作することが多い。
16
LEDインジケーター:センターディスプレイ上部に配された15個のLEDはシフトタイミングの判断を助けるためのもの。両側にはマーシャルから出されているフラッグの色などが表示される。
17
シフトパドル:シフトチェンジの時に使うパドル。左がアップ、右がダウン。