ただ小さいのではなく、軽さのプライオリティを追求
「RS 3」と「TT RS」は、アウディスポーツというブランドの中で「もっともコンパクトな一員」と言えるモデルたちだ。
ただ単に「そのコンパクトさこそが、日本の道に打ってつけ」なだけでなく、実は、ことさらに高いブランド力を備えている。それは両モデルともに“Sトロニック”という愛称の7速DCTとの組み合わせで、「特別な心臓」を搭載することに由来する。それがアウディブランドのハイスペックを象徴する直列5気筒エンジンだ。
ターボチャージャーの助けを借りているとはいえ、2.5Lで400psを発揮するこのエンジンの起源は、40年以上前にまで遡る。6気筒に勝るコンパクトさや4気筒を凌駕するスムーズさなどが評価され、かつてはボルボ/フォードやフィアット/アルファロメオなどにも採用されていた。
しかしその後のV型6気筒エンジンのコンパクト化や、このところのダウンサイズ/レスシリンダー化の流れなどを受けて、徐々に消滅。今では、まさに「アウディスポーツが手掛ける一部のモデルに用いられる孤高の存在」という状況に至っている。しかしアウディはむしろ、その独自性を他のモデルなどと明確に差別化できるアイコンとして、積極的にアピールしていることが興味深い。
最新モデルに搭載されるのは、実はRSモデル用2.5Lエンジンとしては2世代目。従来型に対して実にプラス60psものアドバンテージを持ち、400psの大台に達した。
エンジンブロックやクランクシャフト、オイルパンやオイルポンプなどの設計は、まったく異なる。効率化という時代の要請に応えるべく、大幅なフリクション低減を図ると同時に26kgもの軽量化を実現している。
このパワーユニットに、アウディ自慢の4WDシステム「クワトロ」を組み合わせたRS 3は、まさに「脱兎のごとき加速力」を体感させてくれた。その比類なく高いトラクション能力のおかげで、0→100km/h加速をわずかに4.1秒でクリア。もはやスーパーカー級のデータを実現しつつ、ベースであるA3と同じくハッチバックモデルとしてのユーティリティ性能をすべてキープしていることが凄い。
一見「普通の5ドアハッチバック」として見過ごされてしまいそうなモデルが、独特の5気筒サウンドを残しながら一瞬にして視界から走り去るシーンを想像すると、やっぱりワクワクする。そうした見た目と走りのギャップ感もまた、「RS 3というモデルのカッコ良さ」を象徴する一面と言えるかもしれない。
リアルスポーツだからこそ突き詰められた速さの本質
一方で、見るからにスポーティなTT RSに飛び切りの加速力が備わるのは、言うなれば“想定内”の出来事だ。もっとも、よりリアルなスポーツカーを目指したこちらの場合、そうしたクルマづくりの姿勢は、見た目以外の分野にまで及ぶ。
TT RSがRS 3に比べて100kgも軽いのは、より本格的なスポーツカーらしさを求めるため。全長やホイールベース、全高が小さいといったディメンジョンの違いのみならず、コストアップを容認の上で、さらに軽量なボディづくりに挑んでいる。
基本的に採用されるのはフォルクスワーゲングループ最新の横置きモデル用ボディ骨格“MQB”でありながらTT RSに限っては、そこにより多くのアルミ材などを採用した。そうした専用設計が許されているところでも、TT RSの特別感を強く感じさせる。
RS 3から乗り換えれば、明確に軽快感が高く、シャープなハンドリングが味わえる。実質的には2シーターのパッケージで、RS 3に比べればラゲッジルームの使い勝手も大きく限られるなど、実用的なハッチバックとはまた違うキャラクターであり、棲み分けは明確だ。
それでもピリリと辛口のコンパクト アウディという点では共通している。趣味性の強いクルマづくりの「妙」を、改めて実感させられることになった2台だった。(文:河村康彦)
アウディRS 3 スポーツバック 主要諸元
●全長×全幅×全高=4335×1800×1440mm
●ホイールベース=2630mm
●車両重量=1590kg
●エンジン=直5DOHCターボ
●排気量=2480cc
●最高出力=400ps/5850-7000rpm
●最大トルク=480Nm/1700-5850rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●車両価格=762万円
アウディTT RS クーぺ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm
●ホイールベース=2505mm
●車両重量=1490kg
●エンジン=直5DOHCターボ
●排気量=2480cc
●最高出力=400ps/5850-7000rpm
●最大トルク=480Nm/1700-5850rpm
●トランスミッション=7速DCT
●駆動方式=4WD
●車両価格=989万円