ゴールデンウイークの短期集中連載企画として、日本のスーパーカーブームを築いた1970年代のスーパーカーを紹介していきたい。今回は、他のスーパーカーとは一線を画す、ラリーのために生まれたランチア・ストラトスだ。(ホリデーオート2019年11月号付録より)

WRC制覇のために開発された戦闘用ミッドシップマシン

「LANCIA Stratos:ランチア・ストラトス」

画像: この写真はノーマルのストラトスだが、他の写真はすべてラリー仕様のものとなる。

この写真はノーマルのストラトスだが、他の写真はすべてラリー仕様のものとなる。

ランチア・ストラトスは、「パーパス・ビルト・カー」と呼ばれる。ラリーに勝つことだけを目的(パーパス)に企画されたクルマである。少なくとも当時のラリーでは、専用マシンを作るなどありえなかった。

この企画の仕掛け人の一人が、ランチアのラリー・チームのボスであったチェザーレ・フィオリオ。後にフェラーリF1チームの監督にもなるほどの実力者にして情熱家だったので、普通では通らない「わがまま」によるラリー必勝マシンが、実現することになったわけだ。

画像: 全長は3710mm、ホイールベースは2180mmと極めて短い。

全長は3710mm、ホイールベースは2180mmと極めて短い。

カロッツェリアのベルトーネもこの企画に関与していた。仕事を欲していたベルトーネは、当時流行の斬新なデザインのミッドシップカー(つまりスーパーカー)のショーカー「ストラトス・ゼロ」を製作し、ランチアに新しい市販モデルの生産化を提案していた。

その提案が、ラリー用ベース車という形で、ランチアのニーズと合致。ランチア側は、ドライバーをはじめラリーの現場スタッフに、理想のラリーカーを詳細にリサーチしてコンセプトを定め、ベルトーネ側は、ランチアのエンジニアのアドバイスを受けて、実際の設計と生産を請け負った。

画像: コクピットの着座姿勢はストレートアームではなく、近代的な背中を起こし気味の姿勢となる。これがホイールベースの短縮にもつながった。

コクピットの着座姿勢はストレートアームではなく、近代的な背中を起こし気味の姿勢となる。これがホイールベースの短縮にもつながった。

デザインを行ったのは、チーフスタイリストのマルチェロ・ガンディーニ。あのランボルギーニ・カウンタックなどを手がけた鬼才である。

ゼロから開発するだけあって、まさしくラリー専用のプロトタイプレーシングカーというべき基本設計であり、センター部分がモノコック、その後方に頑強なサブフレームを組んでエンジンを載せた。

キャビンがモノコックなのは、乗員スペースを十分に確保し、騒音にも配慮したためと言われ、ヘルメットの置き場をドアポケットに設けるなど、疲労の激しいラリーでの乗員への配慮も各所に盛り込まれた。

重量物を車体中央に集めたミッドシップである上、全幅が1750mmもありながらホイールベースはわずか2180mmと短く、まさに設計の狙いどおりなのだが、例外的にクイックなハンドリングで、アマチュア・ドライバーには手に余るほどだった。

画像: ディノ246GTのV6を横置きミッドシップ搭載。パワー的には十分だが、幅が広いためリアサスはダブルウイッシュボーンではなくストラットが採用された。

ディノ246GTのV6を横置きミッドシップ搭載。パワー的には十分だが、幅が広いためリアサスはダブルウイッシュボーンではなくストラットが採用された。

エンジンは当初ランチアの4気筒を積む予定だったが、途中で「わがまま」が高じて、フェラーリのディノ用V6ユニットをもらい受けることに成功した。

ただしその交渉が難航して市販モデルの生産は遅れ、そのうち第一次石油ショックの影響があり、500台程度は生産したものの、販売は不振だった。

ラリーでは見事に世界タイトルを1974年から3年連続で獲得。またスーパーカーとしても、日本では当時カウンタックに並ぶほどのエキゾチックな存在として人気があった。

画像: 丸型テールランプ、ルーフとテールのスポイラー、エアアウトレットルーバーが特徴のリアビュー。スーパーカーとしては異例の大型マッドフラップが、このマシンの素性を想起させる。

丸型テールランプ、ルーフとテールのスポイラー、エアアウトレットルーバーが特徴のリアビュー。スーパーカーとしては異例の大型マッドフラップが、このマシンの素性を想起させる。

ランチア・ストラトス 主要諸元

●全長×全幅×全高:3710×1750×1110mm
●ホイールベース:2180mm
●重量:888kg
●エンジン:V6 DOHC
●排気量:2418cc
●最高出力:190ps/7000rpm
●最大トルク:23.0kgm/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:横置きミッドシップRWD

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