2019年6月3日、メルセデスAMG が最新仕様の「メルセデスAMG F1 W10 EQ Power+」のサスペンションの構造を公開した。モノコック内部のメカニズムは極秘事項で、滅多なことでは見ることができない貴重なものだ。
ボディ周辺の空気の流れを完全にコントロール
メルセデスAMGの説明によると、サスペンションはタイヤを正しく路面に接地させ快適な乗り心地とハンドリングを実現するために重要な役割を果たしているが、F1の場合には乗り心地はほとんど考慮されないという。
最新のF1にとっての最重要課題は空力。F1マシンの場合、クルマの位置が数ミリ変わっただけで空気の流れが劇的に変わってしまうが、速度が上がると強烈なダウンフォースが発生し車高が下がり、コーナリングスピードが高いためロールが発生し左右の高さが変わるという問題が起きる。
そのためF1のサスペンションにとって重要なのは、とくにライドハイトとピッチの制御ということなる。
サスペンションは繊細で複雑だが、衝撃や荷重に対して頑丈でなければならず、大きな力がかかる接合部分やたわみが必要な部分は金属製、硬さや軽さを必要とする部分はカーボン製とするなど、トリッキーな部分もあるようだ。
今回公開されたのはリアサスペンションの構造図だが、各アームの取付は空力優先となっているのがわかる。
ロールはサスペンションに連結されたアンチロールバーで制御し、上下動に関しては一対のヒーブスプリング(ガススプリング)とヒーブダンパーで適切に対応するという仕組み。ヨー方向の動きはコーナーダンパーがフォローする。なお、ヒーブとは船体などの上下動のことで、F1では最近よく使われる。
サスペンションの動きはソリッドに近く、衝撃の吸収の多くはタイヤの空気圧によってカバーされるとも言われる。
今回のメカニズム開示は、メルセデスがあまりに強すぎるために流れるレギュレーション抵触疑惑に対応したものと思われるが、サスペンションの著しい進化には驚かされるばかりだ。